中国株、あのテーマはどうなった?

第67回 2025年の消費:若者がこだわる6つの新潮流

2025年の中国経済を成長させるのは内需拡大と消費刺激になりそうです。「特に若い世代で広がる新たな消費の潮流に対応した製品・サービスを提供できる企業が成長する」・・・年末年始に中国の証券各社が公表したリポートにはそんな論調が目立ちました。では、中国の若者の間で広がる消費の新潮流とは何か、中国のメディアに登場したいくつかのキーワードを拾ってみたいと思います。


「潮流玩具」情緒価値が市場を作る


潮流玩具(ポップトイ)とは、特定の作家によってデザインされたフィギュアなどを指し、芸術玩具(アートトイ)、設計師玩具(デザイナートイ)とも呼ばれます。「おもちゃ」とは言いながら、主要な顧客は20-30代の愛好家で、「Z世代」に人気があるとされています。知的財産権(IP)の商品展開という面があり、限定生産された製品がコレクター市場に高値で取引されることもあります。中国社会科学院財経戦略研究所などが発表した「潮玩産業発展報告(2023)」によると、中国のポップトイ市場は1000億元台に成長する見込みです。


代表的な企業は香港証券取引所に上場しているポップマート(09992)です。同社が2024年10月に発表した7-9月期売上高見通しは前年同期比120-125%増でした。特に目覚ましかったのは海外での成長ぶりです。地域別増収率見通しは中国本土が55-60%でしたが、香港・マカオ・台湾および海外市場は440-445%に上ります。中国メディア『36kr』によると、ポップマート創業者の王寧氏は、「何の実用価値もないように見えるフィギュアがなぜ高額で売れるのか?」と問われ、「答えは”情緒価値”の4文字だ」と答えています。


ポップマートの店舗


人気キャラクター「MOLLY」のフィギュア



「養生経済」製品・サービス選びの決め手はヘルスケア


ヘルシー志向の商品・サービスの消費活動を「養生経済」と呼びます。はやり主役は若年層で、『36kr』によると、2023年の保健食品市場の年齢層別消費者構成は、25-40歳が39%、51歳以上は31%でした。また、「00後」(2000年代生まれ)の約4割が健康のために機能性食品や健康器具を購入したといいます。


養生経済の成長ぶりを示す一例が、無糖飲料市場の急成長です。2023年には401億6000万元に達しており、2028年には815億6000元に拡大する見込みです。ティードリンクチェーンも積極的に“養生製品“を開発しています。第66回で紹介した奈雪の茶(02150)、四川百茶百道実業(02555)などが中国伝統の生薬を配合した商品などを競うように投入しています。



「胖東来」スーパーマーケット業界の寵児


胖東来(パンドンライ)は1995年に創業した、河南省を拠点とするスーパーマーケットです。規模からいって業界の中堅に過ぎない同社が消費の新潮流とみなされているのは、質の高い商品を手ごろな価格で提供するのはもちろん、買い物客本位のサービスと清潔で楽しい売り場を通した「買い物体験」が評価されたからです。小米集団(01810)創業者の雷軍氏は、胖東来創業者の于東来氏について「中国の小売業界では、彼は神のような存在だ」と評しました。


于東来氏が名声を得ている理由は、胖東来を成功させただけでなく、同業他社の経営指導に乗り出しているからです。2024 年には、大手の永輝超市(601933)や、湖南省、江西省、広西チワン族自治区、四川省を営業地盤とする歩歩高商業連鎖(002251)が胖東来のノウハウを取り入れた店舗改装と業務改革を進め、中国スーパーマーケット業界の注目を浴びました。名創優品集団(09896)創業者の葉国富会長が胖東来を見学したとも伝わっています。ついには胖東来が河南省許昌市の名所になってしまい、2024年の国慶節(10月1日)連休中に300万人以上の観光客が訪れました。同期の許昌市全体の観光客が約728万9000人ですから、景勝地並みの人気ぶりです。


名創優品(MINISO)の店舗



「寵物経済」ペットが主役のエコシステム


「寵物」は中国でペットの意味です。少子化と都市化が進むにつれてペットを飼う人が増える現象は世界共通のようです。「2025年中国ペット業界白書」(Petdata.cn刊行)のデータによると、2024年の中国都市部における犬猫消費市場の規模は3000億元に上り、前年比7.5%増えました。ペットフード市場も大きく成長したほか、ペット経済圏は医療、美容、保険といった新分野にも拡大し、ペット専門のカメラマン、栄養士、葬儀業者など多様な新職業が生まれているといいます。


「整頓婚礼」00後世代のマイ結婚式


「結婚式を整頓する」と日本語で解釈すると何やら穏やかではない話になってしまいますが、中国語の「整頓」は不適切な状況や混乱した状態を改善し、規律や効率を高める行為を指します。「整頓職場」「整頓秩序」といった用例があります。


『伯虎財経』によると、最近の若い世代は結婚式を「整頓」し、自分好みにしつらえています。まず、式次第は簡素化します。伝統的な中国式、西洋式な式典の形式を避けた上で、各種の要素を融合させた独自の形式を作るわけです。例えば、アニメや映画をテーマにした結婚式や、屋外キャンプを組み合わせた披露宴などが登場しました。中国の慶賀の席では何度も祝杯を勧める「敬酒」がつきものですが、最近では酒に代えてティードリンクを提供するカップルも珍しくないそうです。


「反向旅游」自分で作る旅が楽しい


「反向旅游」とは、直訳すると逆行観光です。2023年ごろから中国のSNSでよく見かけるようになりました。伝統的な人気観光地を選ばず、観光客が大挙して訪れない場所や、知る人ぞ知る地方都市を訪れるというのが、おおかたの意味です。『伯虎財経』は、知名度は低くとも独特の魅力を備えた都市として黒龍江省の鶴崗市と伊春市、雲南省芒市、福建省平潭県、吉林省延吉市を挙げました。


『伯虎財経』によると、消費の新潮流の本質は若者が「自分が楽しいこと」と「質の高い生活」を追い求めることです。ペットを飼う、新中式ティードリンクを飲む、ポップトイを収集する、自分で探り当てた観光に出かける、自ら結婚式をプロデューサーする…全て自分自身を楽しませることです。 質の高い生活とは、自分自身の嗜好(しこう)に従って、サービスや製品を選び出せることが肝要です。そうした素地があればこそ、養生経済が発達し、「胖東来」での買い物体験が消費者から支持されるわけです。

この連載の一覧
第67回 2025年の消費:若者がこだわる6つの新潮流
第66回 新中式飲食業:若者を引き付ける「ネオ中華」消費トレンド
第65回 中央政治局会議 その2:金融政策を「緩和」に転換
第64回 「氷雪経済」が熱い!25年に1兆元突破へ
第63回 中国製ゲーム:世界で勝負、先兵は孫悟空
第62回 観光業界: 25年は休日が2日増加、国内旅行ブーム到来か
第61回 鉄鋼業界:経営統合に再点火、業界団体が政策主導を要望
第60回 少子化:「出産・育児しやすい社会」目指す総合措置を発表
第59回 自動運転業界、「スパイ活動疑惑」にヒヤリ
第58回 伝統の「白酒」:ネット世代は「飲まずに投資」
第57回 中央政治局会議:市場が大歓迎した「3つの異例」
第56回 名月も陰る中国景気、月餅も「お手頃価格」が主流
第55回 中国の家電:勝負の分かれ目は海外、ブランドを世界展開
第54回 中国の金融政策 その2:なぜ中央銀行は独立しているべきなのか
第53回 「高配当株」その2:香港市場、主役はバリュー株に交代か
第52回 中国の金融政策:大胆な利下げに踏み出せない事情
第51回 250日移動平均:香港市場に帰ってきた「ベア」
第50回 米大統領選:香港の投資家を悩ます二重の不確実性
第49回 香港市場の「もしトラ」:米インフレ再燃を予想、金融セクターに「買い」
第48回 「肥満症薬」:先発薬の特許切れにらみ、国内企業が参入ラッシュ
第47回 「国家隊」その2:異例の香港入場、6月に中央企業指数ETFを買い入れ
第46回 「水素サプライチェーン」:2025年にFCV5万台、業界は振興策を要望
第45回 「不動産発展の新モデル」その4:地方政府の住宅在庫買い取り、人民銀が支援
第44回 「高配当株」:中国ならではの買われる理由
第43回 「不動産発展の新モデル」その3:中国指導部、住宅在庫の消化策検討を指示
第42回 「国9条」:配当利回り重視の投資戦略に脚光、注目銘柄は国有企業
第41回 「啓航企業」:国有企業のゆりかごでユニコーンは育つか
第40回 「kimi」:市場を沸かせる中国ユニコーンの生成AI
第39回 「不動産発展の新モデル」その2:痛みを伴う改革に踏み込めるか
第38回 期待は高い「低空経済」:eVTOL離陸に投資家も浮き立つ
第37回 「洋上風力発電」:低迷を脱するか、行方は政策の風向き次第
第36回 「24年の香港IPO」: 地位回復に向け中国本土、米国と競り合い
第35回 「辰年の投資戦略」:一押しは日本株、A株市場には慎重
第34回 「美麗中国」:習近平氏肝いりの“生態文明”建設事業
第33回 内巻、寝そべり、潤学、献忠学:ネットに見える若者の本音
第32回 住宅神話と「発展の新モデル」: 待ったなし、中国不動産市場の構造改革
第31回 「十不青年」: 家を買わない中国の若者、投資にも興味なしか
第30回 「国家隊」:株式相場を「実弾」で支える官製チーム、その実力は?
第29回 「生成AI」:中国市場を制する一般向けサービスはどれか
第28回 資本市場の活性化と逆行する「IPO抑制」
第27回 消えた「房住不炒」、投資家を走らす
第26回 医薬品業界に嵐を呼ぶか「反腐敗」
第25回 「ハンセンテック指数」3周年を機に巻き返しなるか
第24回 地方歳入増の妙案になるか「城中村」の改造
第23回 中国通信株の未来を担う「工業インターネット」
第22回 「ハンセン指数」上昇シナリオ実現の根拠と条件
第21回 株式市場を揺るがす「人民元相場」
第20回 習近平氏の肝いり「郷村振興戦略」
第19回 習近平色に染まるシン「新型都市化」
第18回 上半期のネット通販王者を決める「618」開幕
第17回 中国の株式相場を動かす「中特估」とは?
第16回「医薬品ネット通販」アリババとJDがしのぎを削る成長市場
第15回「半導体の国産化」(その3) 腐敗は一掃、戦略を再設計へ
第14回「中国の政策金利」人民銀の景気調節手段「LPR」を読み解こう
【中国株、あのテーマはどうなった?】第13回「国産旅客機」苦節15年、来春にも商業運航へ
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【中国株、あのテーマはどうなった?】第7回「国有企業改革」(その1)
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【中国株、あのテーマはどうなった?】第3回 香港に取って代わるか、海南島「自由貿易港」
【中国株、あのテーマはどうなった?】第2回 株式市場となじみきれない「軍民融合」
【中国株、あのテーマはどうなった?】第1回 「一帯一路」の行方

中国株情報部

村山 広介

日本の出版社や外資系出版社に勤務したほか、シンガポールの邦字新聞社でビジネスニュース編集を経験。 2011年8月、T&Cフィナンシャルリサーチ(現・DZHフィナンシャルリサーチ)に入社。

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