中国株、あのテーマはどうなった?

第37回 「洋上風力発電」:低迷を脱するか、行方は政策の風向き次第

2024年は洋上風力発電の年

中国は風力発電大国です。広い国土と長い海岸線を持ち、風力資源が豊富だからです。発電容量は世界最大で、しかも伸び続けています。米ブルームバーグNEFが今年2月に公表した調査報告によると、2023年の新規の風力発電設置容量は前年比58%増の77.1ギガワット(GW)と、過去最高となったようです。なかでも洋上風力発電の成長は近年目覚ましく、「世界エネルギー青書:世界エネルギー発展報告書(2022)」によると中国の風力発電設備容量は2021年末に3億キロワットを超え、洋上風力発電では世界一に躍進しました。


中国のエネルギー情報サイト『華夏能源網』によれば、中国の業界関係者は2024年が「洋上風力発電の年」になると勢い込んでいます。ただ同サイトは、楽観論には落とし穴があると指摘しました。中国の新興産業にありがちなことですが、行政リスクが存在するからです。


23年の失速を招いた「双30」規制強化

そもそも、24年に洋上風力発電が伸びる論拠は「不振だった前年から持ち直す公算が大きい」ということです。実は23年も出足は好調で「洋上風力発電の年」になると期待されていました。ところが4-6月期に変調をきたし、通期の発電装置の入札募集と設置の規模は予想を下回る結果となりました。最大の原因は、当局による洋上風力発電プロジェクトの審査の停滞です。


『華夏能源網』は業界関係者の話として、審査停滞には「双30」政策が大きく影響したとの見方を伝えました。双30とは、新規に洋上風力発電所を建設できる地点は海岸から30キロメートル以上離れ、かつ水深が30メートル以上でなければならないというルールです。2016年に国家エネルギー局と国家海洋局が導入した「洋上風力発電建設管理弁法」では海岸からの距離が10キロメートル、水深が10メートル超と規定され、「双10」と呼ばれていました。ところが規定を一段と厳しくする方針が浮上したことで、当局は規定変更が確定するまで審査を見送らざるを得なかったようです。結局、建設地点を「海岸から30キロメートル以上離れるか、または水深が30メートル以上」とするルール(どちらか一方の条件を満たせば良いので、単30と呼ばれます)が昨年8月に施行され、洋上プロジェクトの審査は通常状態に戻りました。


龍源電力の風力発電所 (Asianewsphoto)


急成長に追い付かない制度設計

中国メディア『国際風力発電網』によると、洋上風力発電プロジェクトの規制強化が「双30」という形で浮上したのは2022年秋ごろ。背景には習近平国家主席の「生態文明建設思想」があったと言います。業界関係者によれば、習氏が山東省を視察した際に示した「海洋を認識し、海洋を管理し、海洋開発を近海から徐々に深海・遠洋に広げる」という考えに沿った措置です。


ただ、風力発電などの再生エネルギーの活用も、海洋の生態系保護も、ともに習氏が提唱する「美麗中国」(連載第34回でご紹介しました)の下で推進されるべき政策テーマです。ところが具体的な措置を実施する段になり、それぞれを管轄する当局の制度上の矛盾が露呈したわけです。中国に限った話ではありませんが、巨大な官僚機構の下ではしばしば起こり得る事態です。『華夏能源網』は3月3日、「洋上風力発電の急速な発展に、当局側が政策を調整する仕組みが追いついていないのではないか」との見方を伝えました。


滑り出しは順調、中央企業がプロジェクト始動

ともあれ、2024年は年初から洋上風力発電業界に順風が吹いています。まず、年初に国家能源投資集団や国家電力投資集団など複数の中央企業(中国の中央政府が管轄する国有企業、連載第8回でご紹介しました)が進める洋上風力発電プロジェクトが認可されました。同時に沿岸地域の海南省、福建省、山東省などの地方政府が相次いで24年の洋上風力発電プロジェクト計画を公表しています。


それでも『華夏能源網』は、風力発電市場の盛衰が政策左右される状況は2024年も変わらないみています。「養生風力発電所の開発プロジェクトに対する各地の支援が増強されるかは依然として不透明で、これは業界関係者が最も望んでいないことだ」と述べました。

風力発電機器メーカー、金風科技の新疆工場 (Asianewsphoto)


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中国株情報部

村山 広介

日本の出版社や外資系出版社に勤務したほか、シンガポールの邦字新聞社でビジネスニュース編集を経験。 2011年8月、T&Cフィナンシャルリサーチ(現・DZHフィナンシャルリサーチ)に入社。

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