中国株、あのテーマはどうなった?

第53回 「高配当株」その2:香港市場、主役はバリュー株に交代か

お勧めはバーベル戦略、高配当株に重心

香港の株式市場で、米国の利下げ開始に対応して投資戦略を転換する動きが目立ってきました。米連邦準備理事会(FRB)が9月に利下げを始めるとの見方から、ポートフォリオを見直しています。香港メディアによると、高配当株が改めて注目されているようです。


『香港経済日報』によると、香港の投資運用会社ハンセン投資管理の薛永輝(Wilfred Sit)最高投資責任者(CIO)は、足元で香港株式相場には明確な上昇要因が乏しい一方、外部リスクはやや大きいとみています。その上で、「バーベル戦略」を採用しつつ、高配当株の保有比率を適宜高めるよう投資家に勧めました。


バーベル戦略とは、対照的な資産を組み合わせる投資手法を指します。株式投資の場合、例えば大型株と小型株、バリュー株とグロース株などを組み合わせます。薛永輝CIOによれば、配当利回りを重視する理由は現在の定期預金利率との比較です。「定期預金の金利は以前なら5%近くだったが、今はそこまで高くない。一方でハンセン指数の配当利回りは(8月第2週時点で)4.5%付近と妙味がある」と語りました。


国有企業銘柄、通信・公益株セクターに注目

米国が利下げに転じれば、香港の金利は下がります。香港ドル相場は米ドルと連動するペッグ制をとっており、香港当局の金融政策は米国に追随するからです。ですので、金利の先安観が広がっている香港で、預金金利より高い配当利回りの銘柄が物色されるというわけです。


薛永輝氏が推奨するのは中国の国有企業、なかでも中央政府が管轄する「中央企業」の傘下の上場企業です。「倒産はあり得ないとみなされている企業、つまり国家支援を受けている企業」も推奨しました。セクター別では、通信と公益事業に注目しています。中国通信セクターは「利益見通しが安定、高配当、事業が安定成長、ディフェンシブ性が高い」、中国公益事業セクターは「米国が利下げを進めるなか、高配当が魅力。配当利回りに妙味がある」と評価しました。



薛永輝氏の見立てでは、「米株式市場はグロース市場であり、投資家は潤沢な資金を持っている。香港の株式市場も以前はグロース市場だったが、今では典型的なバリュー市場になってしまった」という状態です。したがって、利益成長よりも配当利回りを重視すべきという考えです。ただ、香港株のバリュエーション見直しには時間がかかるため、当面は高配当株とグロース株をともに保有するバーベル戦略が適切だとしました。その上で、下半期にリスクが高まるとみて、高配当株の比率を50%超に引き上げるよう投資家に勧めました。


結局は中国景気次第?香港公益株にも目配り

もっとも、米国の金融政策が非常に重要といっても、「ファンダメンタルズからみて香港株相場への影響が最も大きい要因は中国本土の景気だ」と同氏は強調しました。米国の年内の利下げ回数は1-2回にとどまり、ヒストリカルにみて金利水準は高いまま、とみているからです。


香港城市大学MBA課程の副教授の曾淵滄(Y C Chan)博士も、今年9月に米FRBが利下げに着手し、投資戦略上で高配当株がより重視されるとの見方を『香港経済日報』で明らかにしました。具体的には、香港公益株の香港鉄路(00066)と中電控股(00002)を注目銘柄に挙げました。どちらも安定配当で知られ、減益の年度でも配当を維持し、赤字でも配当を実施した実績があります。


中電控股が運営するEV充電スタンド (AAストックス)



香港鉄路の車両 (AAストックス)


一方で、金利低下の局面でテック株の見直し買いも進む可能性も指摘しました。なかでも、人工知能(AI)をあらかじめ組み込んだスマートフォンが有望だとして、舜宇光学科技(02382)、瑞声科技(02018)、Qテクノロジー(01478)、キングボード・ラミネート(01888)を関連銘柄に挙げました。

この連載の一覧
第54回 中国の金融政策 その2:なぜ中央銀行は独立しているべきなのか
第53回 「高配当株」その2:香港市場、主役はバリュー株に交代か
第52回 中国の金融政策:大胆な利下げに踏み出せない事情
第51回 250日移動平均:香港市場に帰ってきた「ベア」
第50回 米大統領選:香港の投資家を悩ます二重の不確実性
第49回 香港市場の「もしトラ」:米インフレ再燃を予想、金融セクターに「買い」
第48回 「肥満症薬」:先発薬の特許切れにらみ、国内企業が参入ラッシュ
第47回 「国家隊」その2:異例の香港入場、6月に中央企業指数ETFを買い入れ
第46回 「水素サプライチェーン」:2025年にFCV5万台、業界は振興策を要望
第45回 「不動産発展の新モデル」その4:地方政府の住宅在庫買い取り、人民銀が支援
第44回 「高配当株」:中国ならではの買われる理由
第43回 「不動産発展の新モデル」その3:中国指導部、住宅在庫の消化策検討を指示
第42回 「国9条」:配当利回り重視の投資戦略に脚光、注目銘柄は国有企業
第41回 「啓航企業」:国有企業のゆりかごでユニコーンは育つか
第40回 「kimi」:市場を沸かせる中国ユニコーンの生成AI
第39回 「不動産発展の新モデル」その2:痛みを伴う改革に踏み込めるか
第38回 期待は高い「低空経済」:eVTOL離陸に投資家も浮き立つ
第37回 「洋上風力発電」:低迷を脱するか、行方は政策の風向き次第
第36回 「24年の香港IPO」: 地位回復に向け中国本土、米国と競り合い
第35回 「辰年の投資戦略」:一押しは日本株、A株市場には慎重
第34回 「美麗中国」:習近平氏肝いりの“生態文明”建設事業
第33回 内巻、寝そべり、潤学、献忠学:ネットに見える若者の本音
第32回 住宅神話と「発展の新モデル」: 待ったなし、中国不動産市場の構造改革
第31回 「十不青年」: 家を買わない中国の若者、投資にも興味なしか
第30回 「国家隊」:株式相場を「実弾」で支える官製チーム、その実力は?
第29回 「生成AI」:中国市場を制する一般向けサービスはどれか
第28回 資本市場の活性化と逆行する「IPO抑制」
第27回 消えた「房住不炒」、投資家を走らす
第26回 医薬品業界に嵐を呼ぶか「反腐敗」
第25回 「ハンセンテック指数」3周年を機に巻き返しなるか
第24回 地方歳入増の妙案になるか「城中村」の改造
第23回 中国通信株の未来を担う「工業インターネット」
第22回 「ハンセン指数」上昇シナリオ実現の根拠と条件
第21回 株式市場を揺るがす「人民元相場」
第20回 習近平氏の肝いり「郷村振興戦略」
第19回 習近平色に染まるシン「新型都市化」
第18回 上半期のネット通販王者を決める「618」開幕
第17回 中国の株式相場を動かす「中特估」とは?
第16回「医薬品ネット通販」アリババとJDがしのぎを削る成長市場
第15回「半導体の国産化」(その3) 腐敗は一掃、戦略を再設計へ
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【中国株、あのテーマはどうなった?】第1回 「一帯一路」の行方

中国株情報部

村山 広介

日本の出版社や外資系出版社に勤務したほか、シンガポールの邦字新聞社でビジネスニュース編集を経験。 2011年8月、T&Cフィナンシャルリサーチ(現・DZHフィナンシャルリサーチ)に入社。

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