今年の売上高は前年並みか小幅減少の見通し
中秋の名月と言えば、日本では団子と相場が決まっていますが、中国では焼き菓子の「月餅」を食べるのが習わしです。古くはお供え物であったとされ、今では中秋節の贈答品の定番となっています。
今年も中秋節の連休(9月15-17日)に向けて月餅が売り出されましたが、景気の先行き不透明感が強いなかで消費者の財布のひもは固かったようです。中国の菓子製造業界団体が中秋節前に発表した「2024年中国月餅産業市場動向」によると、今年の月餅の生産量と売上高は、ともに前年並みか小幅に下回る見通し。生産量は30万トン近く、売上高は約200億元で、利益率は低下する見込みといいます。
国営中国新聞社によれば、今年の主流は「お値段はお手頃、包装は簡素」の製品。値段が張る豪華な装丁の贈答品もありますが、500元を超えるものは珍しいと伝えています。月餅の製造を手掛ける南昌屏栄食品の呉栄浩総経理は、厳しい市場競争の下、各社とも「値段の割に高品質な製品」が書き入れ時を勝ち抜く条件だとみていると語りました。顧客は月餅の品質と同時に、包装の環境への配慮やコストにも注目しているそうです。
「健康志向」がトレンド、業界は生薬入り製品に注目
月餅メーカーが注視しているトレンドがもう一つあります。消費者の健康志向です。iiMedia Researchが発表した「2024年中国月餅産業イノベーション発展調査報告」はこの見方を裏付けています。消費者の68.5%が月餅にもっと健康的な天然の原材料を使用するよう望んでおり、65.8%が人工添加物の使用を減らすよう求めています。中国新聞社も「月餅を選ぶときに糖分と脂質の含有量に注目している」という買い物客の声を伝えました。
鹹蛋の黄身を入れた月餅
実は「月餅」と呼ばれていても、餡と皮は地方によって多種多様です。例えば広州が発祥地の「広式月餅」は柔らかめの餡を薄い皮で包み、鹹蛋(アヒルの卵を塩水に漬けたもの)の黄身が入ったものが知られています。北部では五種類のナッツや種子が詰められた餡が特徴の「五仁月餅」が代表的。香港生まれの「冰皮月餅」は、皮にもち米の粉を使った焼いていない月餅です。
月餅メーカーはヘルシーさを意識した新製品を続々と開発しています。なかでも業界で注目されているのは中国伝統の医学に基づく医食同源の「中薬月餅」でしょう。漢方薬を手掛ける上場企業も製品を出しています。17世紀創業の老舗、北京同仁堂(600085)の「五仁枸杞人参月餅」は前述した五仁月餅にクコとニンジンを加えた“養生月餅”として評判になりました。雲南省が拠点の雲南白薬集団(000538)は頭痛・めまいの改善に効果があるとされる生薬の天麻と地元特産の雲腿(雲南ハム)を使っています。
同仁堂の店舗(DZHフィナンシャルリサーチ)
狙いは若年層、「西遊記」テーマ月餅も登場
業界関係者は、月餅を贈る習慣を若い層にも根付かせようとしています。中国国営中央テレビ(CCTV)は中秋節を控えた江蘇省の月餅商戦を取り上げた番組で、「若者向けに伝統の味わいに新しい材料を加えた製品の人気が高い」と伝えました。同省蘇州市の老舗店は、新鮮な豚肉を使った塩味の「蘇式月餅」はもちろん、今年はカニ肉とエビ肉を使った新製品が大ヒット。
一方、蘇州博物館では太湖や洞庭山といった地元の名所をあしらった包装の月餅が、店頭に並んでから2週間で3万個売れました。地元ならではの文化観光資源を生かした製品もあります。江蘇省淮安市の食品工場は歴史的名所の「里運河」をテーマにしたシリーズに加え、地元出身の呉承恩が著した「西遊記」をテーマにした月餅を発売し、主に若者が購入しているそうです。