中国株、あのテーマはどうなった?

第56回 名月も陰る中国景気、月餅も「お手頃価格」が主流

今年の売上高は前年並みか小幅減少の見通し

中秋の名月と言えば、日本では団子と相場が決まっていますが、中国では焼き菓子の「月餅」を食べるのが習わしです。古くはお供え物であったとされ、今では中秋節の贈答品の定番となっています。


今年も中秋節の連休(9月15-17日)に向けて月餅が売り出されましたが、景気の先行き不透明感が強いなかで消費者の財布のひもは固かったようです。中国の菓子製造業界団体が中秋節前に発表した「2024年中国月餅産業市場動向」によると、今年の月餅の生産量と売上高は、ともに前年並みか小幅に下回る見通し。生産量は30万トン近く、売上高は約200億元で、利益率は低下する見込みといいます。


国営中国新聞社によれば、今年の主流は「お値段はお手頃、包装は簡素」の製品。値段が張る豪華な装丁の贈答品もありますが、500元を超えるものは珍しいと伝えています。月餅の製造を手掛ける南昌屏栄食品の呉栄浩総経理は、厳しい市場競争の下、各社とも「値段の割に高品質な製品」が書き入れ時を勝ち抜く条件だとみていると語りました。顧客は月餅の品質と同時に、包装の環境への配慮やコストにも注目しているそうです。


「健康志向」がトレンド、業界は生薬入り製品に注目

月餅メーカーが注視しているトレンドがもう一つあります。消費者の健康志向です。iiMedia Researchが発表した「2024年中国月餅産業イノベーション発展調査報告」はこの見方を裏付けています。消費者の68.5%が月餅にもっと健康的な天然の原材料を使用するよう望んでおり、65.8%が人工添加物の使用を減らすよう求めています。中国新聞社も「月餅を選ぶときに糖分と脂質の含有量に注目している」という買い物客の声を伝えました。


鹹蛋の黄身を入れた月餅


実は「月餅」と呼ばれていても、餡と皮は地方によって多種多様です。例えば広州が発祥地の「広式月餅」は柔らかめの餡を薄い皮で包み、鹹蛋(アヒルの卵を塩水に漬けたもの)の黄身が入ったものが知られています。北部では五種類のナッツや種子が詰められた餡が特徴の「五仁月餅」が代表的。香港生まれの「冰皮月餅」は、皮にもち米の粉を使った焼いていない月餅です。


月餅メーカーはヘルシーさを意識した新製品を続々と開発しています。なかでも業界で注目されているのは中国伝統の医学に基づく医食同源の「中薬月餅」でしょう。漢方薬を手掛ける上場企業も製品を出しています。17世紀創業の老舗、北京同仁堂(600085)の「五仁枸杞人参月餅」は前述した五仁月餅にクコとニンジンを加えた“養生月餅”として評判になりました。雲南省が拠点の雲南白薬集団(000538)は頭痛・めまいの改善に効果があるとされる生薬の天麻と地元特産の雲腿(雲南ハム)を使っています。


同仁堂の店舗(DZHフィナンシャルリサーチ)


狙いは若年層、「西遊記」テーマ月餅も登場

業界関係者は、月餅を贈る習慣を若い層にも根付かせようとしています。中国国営中央テレビ(CCTV)は中秋節を控えた江蘇省の月餅商戦を取り上げた番組で、「若者向けに伝統の味わいに新しい材料を加えた製品の人気が高い」と伝えました。同省蘇州市の老舗店は、新鮮な豚肉を使った塩味の「蘇式月餅」はもちろん、今年はカニ肉とエビ肉を使った新製品が大ヒット。


一方、蘇州博物館では太湖や洞庭山といった地元の名所をあしらった包装の月餅が、店頭に並んでから2週間で3万個売れました。地元ならではの文化観光資源を生かした製品もあります。江蘇省淮安市の食品工場は歴史的名所の「里運河」をテーマにしたシリーズに加え、地元出身の呉承恩が著した「西遊記」をテーマにした月餅を発売し、主に若者が購入しているそうです。


この連載の一覧
第56回 名月も陰る中国景気、月餅も「お手頃価格」が主流
第55回 中国の家電:勝負の分かれ目は海外、ブランドを世界展開
第54回 中国の金融政策 その2:なぜ中央銀行は独立しているべきなのか
第53回 「高配当株」その2:香港市場、主役はバリュー株に交代か
第52回 中国の金融政策:大胆な利下げに踏み出せない事情
第51回 250日移動平均:香港市場に帰ってきた「ベア」
第50回 米大統領選:香港の投資家を悩ます二重の不確実性
第49回 香港市場の「もしトラ」:米インフレ再燃を予想、金融セクターに「買い」
第48回 「肥満症薬」:先発薬の特許切れにらみ、国内企業が参入ラッシュ
第47回 「国家隊」その2:異例の香港入場、6月に中央企業指数ETFを買い入れ
第46回 「水素サプライチェーン」:2025年にFCV5万台、業界は振興策を要望
第45回 「不動産発展の新モデル」その4:地方政府の住宅在庫買い取り、人民銀が支援
第44回 「高配当株」:中国ならではの買われる理由
第43回 「不動産発展の新モデル」その3:中国指導部、住宅在庫の消化策検討を指示
第42回 「国9条」:配当利回り重視の投資戦略に脚光、注目銘柄は国有企業
第41回 「啓航企業」:国有企業のゆりかごでユニコーンは育つか
第40回 「kimi」:市場を沸かせる中国ユニコーンの生成AI
第39回 「不動産発展の新モデル」その2:痛みを伴う改革に踏み込めるか
第38回 期待は高い「低空経済」:eVTOL離陸に投資家も浮き立つ
第37回 「洋上風力発電」:低迷を脱するか、行方は政策の風向き次第
第36回 「24年の香港IPO」: 地位回復に向け中国本土、米国と競り合い
第35回 「辰年の投資戦略」:一押しは日本株、A株市場には慎重
第34回 「美麗中国」:習近平氏肝いりの“生態文明”建設事業
第33回 内巻、寝そべり、潤学、献忠学:ネットに見える若者の本音
第32回 住宅神話と「発展の新モデル」: 待ったなし、中国不動産市場の構造改革
第31回 「十不青年」: 家を買わない中国の若者、投資にも興味なしか
第30回 「国家隊」:株式相場を「実弾」で支える官製チーム、その実力は?
第29回 「生成AI」:中国市場を制する一般向けサービスはどれか
第28回 資本市場の活性化と逆行する「IPO抑制」
第27回 消えた「房住不炒」、投資家を走らす
第26回 医薬品業界に嵐を呼ぶか「反腐敗」
第25回 「ハンセンテック指数」3周年を機に巻き返しなるか
第24回 地方歳入増の妙案になるか「城中村」の改造
第23回 中国通信株の未来を担う「工業インターネット」
第22回 「ハンセン指数」上昇シナリオ実現の根拠と条件
第21回 株式市場を揺るがす「人民元相場」
第20回 習近平氏の肝いり「郷村振興戦略」
第19回 習近平色に染まるシン「新型都市化」
第18回 上半期のネット通販王者を決める「618」開幕
第17回 中国の株式相場を動かす「中特估」とは?
第16回「医薬品ネット通販」アリババとJDがしのぎを削る成長市場
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【中国株、あのテーマはどうなった?】第1回 「一帯一路」の行方

中国株情報部

村山 広介

日本の出版社や外資系出版社に勤務したほか、シンガポールの邦字新聞社でビジネスニュース編集を経験。 2011年8月、T&Cフィナンシャルリサーチ(現・DZHフィナンシャルリサーチ)に入社。

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