この連載では、中国市場ならではの投資テーマを取り上げ、どこから来てどこへ行くのかをご紹介していきます。中国の事ですから、政策と強く結びついたテーマがどうしても多くなりますが、それだけではありません。「いまどきの若者」が主役のトレンドも当然あります。そこで第11回は「国産化粧品」を取り上げます。
成長する市場に海外大手が参入、国内メーカーの後ろ盾は若年層
人口が多い中国は化粧品大国です。英ユーロモニターの調査によると、市場規模は2021年に811億米ドルで、世界第2位となりました。2020年までの10年間の年平均伸び率は9.2%と成長ペースも堅調です。ゴールドマン・サックスの予測では、25年の市場規模は1450億米ドルに達し、年平均成長率は11%とさらに加速する見通しです。
これほど魅力的な市場ですから、欧米や日本、韓国などから大手メーカーがこぞって参入しました。こうなると、中国メーカーにはつらい話です。化粧品に限った話ではありませんが、世界的なブランド認知と技術力を併せ持つ海外大手と戦っていかねばなりません。新エネルギー車のように中国政府から「戦略的新興産業」と認定されれば手厚く保護され、支援策も受けられるでしょうが、中国指導部が自国化粧品の振興を指示する姿を想像するのは難しいものがあります。かくして「海外ブランドは質が高く安全、国内ブランドは安いけれど低品質」という評価が定着してしまう…そう思われてきました。
しかし、こうした中国の消費財がありがちな状況を若い世代が変えるかもしれません。『人民日報』のニュースサイト『人民網』は11月29日、浙江省温州市当局が実施したアンケートを引用し、国産化粧品を使うと回答した人の70.7%が20-35歳だったと伝えました。中国で90年代に生まれた「90後」と呼ばれる世代が中心ということです。
Eコマースはインフルエンサーを活用、ネット経由で小都市にも浸透
「90後」は、欧米や日本でいう「ミレニアルズ」や「Z世代」とほぼ同世代。ネットを通じて製品やサービスの情報を集めてEコマースで購入し、SNSを通じて使用感を伝え、意見を交換することに慣れています。ですので化粧品メーカーにしてみれば、消費者からのフィードバックを製品やマーケティング戦略にうまく取り入れれば、若年層顧客にアピールできます。これに成功しているのが中国の国産ブランドだ、とゴールドマン・サックスは最新リポートで指摘しました。
中国ブランドは海外大手と比べて認知度が低い上、新興メーカーが中国全土に店舗網を展開する余裕はありません。しかし、生まれたときからインターネットが普及し、スマートフォンの進化とともに育った若者にターゲットを絞るマーケティング戦略をとれば、Eコマース・プラットフォームを駆使することで不利な条件を克服することも可能です。
この戦略の妥当性は、『人民網』が紹介した温州市当局のアンケート結果でも裏付けられています。「国産化粧品のブラントや製品の情報を得るチャネル」に対する回答のうち、最も比率が高いのはEコマース・プラットフォームの58.1%でした。ほかにプラットフォーム上の広告・プロモーションが46.8%、「美粧達人」(ネットライブで化粧法を実演したり、商品説明したりするインフルエンサー)が43.1%、ソーシャルメディアが50.7%とデジタルネイティブぶりが鮮明です(複数回答のため計100%にならない)。オフラインの実店舗との回答は27.8%しかありませんでした。
ゴールドマン・サックスは、中国で国産化粧品が若者の支持を集めている理由として、ネット通販やライブコマースを通じた化粧品販促が小都市まで浸透したことと、中国の伝統的な美と文化をコンセプトとする国内ブランドの人気を挙げました。
「90後」は自国ブランド好き
実は、「90後」は中国の伝統的文化を取り入れた「国潮」ファッションを支持しています。この世代は改革開放を背景に高成長を遂げた中国社会で育っており、中国が開発途上国とみなされていた時代を経験している世代と比べ、外国のブランドが自国ブランドより上という意識は強くありません。
19年6月にECプラットフォーム運営会社の唯品会が『南方都市報』と共同で行った調査によると、「90後」回答者の3分の2近くが、中国ブランドを好んで使うか、使用を考慮したことがあります。ゴールドマン・サックスは最新リポートで、中国の国産化粧品は消費者から一定の評価を受けており、「頭角を現す機は熟した」として今後の成長に強い期待を示しました。『香港経済日報』も先ごろ、新世代の中国消費者が自国ブランドをますます受け入れ、評価も高まっているとして、「この勢いが中国化粧品メーカーに対する重要な長期的ポジティブ材料になる」と伝えました。
市場関係者注目のブランド「PROYA」、スキンケアに強み
下の表は、中国銀河証券が集計した22年上半期の中国化粧品セクター上場企業の売上高です(化粧品以外の部門を除く)。上場企業全体では171億元で、前年同期比8.6%増えました。企業別売上高の首位は中国化粧品業界の老舗、上海家化聯合です。
ただ、中信建投証券が最新リポートで推奨したのはランキング2位の珀莱雅化粧品(Proya Cosmetics)。製品のライフサイクルとイノベーション能力で同業に勝り、大都市でのブランド認知が向上していることから、成長に期待できるといいます。ほかに、ヒアルロン酸が主力の華熙生物科技(Bloomage Biotechnology)などを注目銘柄として挙げました。ゴールドマン・サックスも珀莱雅化粧品を「国産ブランドの筆頭」と評価しました。珀莱雅化粧品はスキンケア製品に強みを持ち、「PROYA」ブランドで知られています。
では今後、「90後」が年齢を重ねるにつれ、国産化粧品が順調に中国化粧品市場で地歩を広げていくのでしょうか?中国ブランドが中低価格帯でシェアを伸ばしているのは確かなようです。しかし高価格帯の主役は依然として海外ブランド。ユーロモニターの調査によると、20年の中国高級化粧品市場でシェア上位3社は仏ロレアル、米エスティー・ローダー、仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンでした。さらに日本の資生堂、韓国のLG生活健康とアモーレパシフィックなどがひしめきます。中国ブランドが高級品市場に打って出るならば、海外ブランドとの対決は避けられませんし、低中価格帯に的を絞る戦略をとったとしても、国内メーカー同士の競争は熾烈です。「90後」が熟年と呼ばれるようになった時代に生き残れるのはどのブランドか、勝負は始まったばかりでしょう。