中国政府系資金が香港市場に流入
昨年10月に上海証券市場で相場てこ入れに動いた中国の「国家隊(ナショナルチーム)」が、香港市場に資金を投じたことが明らかになりました。第30回でご紹介した通り、中国の証券市場では国家隊とは政府系の資金を意味します。買い支えるのは主に中国本土の市場に上場されている国有企業のA株なのですが、今年6月に珍しく、香港株の株価指数に連動する上場投資信託(ETF)を買い入れました。
買い入れ対象は6月11日に売り出された「中証国新港股通央企紅利指数」のETF3本です。中国の中央政府が管轄する国有企業(中央企業)の傘下にある香港上場企業が組み入れられています。買い入れ規模は明らかにされていません。買い入れを実施したのは、国有資本運営会社である中国国新控股の傘下で投資業務を手掛ける国新投資です。
狙いは国有企業のバリュエーション是正か
国家隊としては異例の「香港入場」は、中国政府が香港株の買い支えに動いた証左と受け止められ、香港の証券メディアは国有企業銘柄をホットなテーマとしてはやしました。ただ、国家隊側が今回の資金投入で支えたかったのは香港株式相場ではなく、政府系企業のバリュエーションでしょう。第17回の「中特估(中国の特色あるバリュエーション体系)」でご紹介した通り、中国指導部は投資家による国有企業銘柄の評価が低すぎるとみており、これを是正する方針を関係当局者が表明しています。
国新投資は6月19日、ETF3本の買い入れについて「香港市場に上場する中央企業の傘下企業の長期的な価値の先行きを楽観しているというシグナルを発信した。同時に中央企業の市場価値を維持し、中央企業傘下の香港上場企業のバリュエーション決定力を高める上で国有資本運営会社が責任を果たすことを明確にした」と説明しました。
中央企業による、中央企業のためのETF投資
国新投資の親会社の中国国新控股は、国務院国有資本監督管理委員会が直轄する97社の中央企業の一つです。また、中証国新港股通央企紅利指数は国新投資が中国の指数算出会社の中証指数と共同で組成しました。国新投資はさらに、ファンド3社と組んで同指数と連動するETF3本を設立し、自ら投資したわけです。あたかも脚本から舞台装置、演出、チケットの買い取りまで全て中央企業が差配する興行のようです。
中証国新港股通央企紅利指数を構成するのは、中央企業のなかでも「紅利(配当などの投資家への利益分配)」が優れているとされる銘柄です。エネルギー、通信、工業、公共事業、医療・ヘルスケアなどのセクターを中心に、香港上場50株が組み入れられました。ウエートが大きいのは石油株のCNOOC(00883)、ペトロチャイナ(00857)、シノペック(00386)、石炭株の中国神華能源(01088)、通信株のチャイナ・モバイル(00941)です。
香港の相場安定に寄与も、カギは国際的機関投資家の対応
中国経済メディア『新浪財経』によると、香港市場には中央企業傘下の約130社が上場しており、時価総額は10兆元に上ります。数は少ない(全体の約5%)ながらも時価総額に占める比率は高い(約20%)ことになります。しかも売上高、純利益、配当がそれぞれ約40%、約25%、約25%を占めています。国新投資の目論見通りに中央企業系銘柄が長期安定資金を呼び込めれば、結果として香港の相場全体の安定に寄与するでしょう。
国新投資にとって、中央企業が抱える上場企業を組み込んだETFの買い入れは初めての試みではありません。昨年12月に中証国新央企科技引領指数ETFと中証央企創新駆動指数ETFを買い増ししています。さらに、今年6月19日には、中国本土と香港の市場で多様な通貨建てのETFを専業機関と協力して設立することで「香港市場に上場している中央企業系の優良銘柄がより多くの国際資本と産業資源を効率よく呼び込めるようにする」と表明しました。国際的な機関投資家が中国の「中央企業推し」に応え、実際にこうしたETFの持ち高を増やしていくかが今後の注目点となるでしょう。