中国株、あのテーマはどうなった?

第18回 上半期のネット通販王者を決める「618」開幕

業界が一斉に大型セール、価格競争が激化か

中国で恒例のインターネット商戦「618」の季節がやってきました。「618」は6月18日を指し、業界大手のJDドットコム(09618)の創業記念日です。もともとは同社の「創業感謝祭」だったのですが、いまではアリババ集団(09988)など業界各社が一斉に大型セールを繰り広げています。


他社の創業記念イベントに参入とは遠慮がない、と感じられるかもしれません。ただ、2009年にアリババが始めた「双十一(独身の日)」セールにはJDドットコムも参戦していますので、お互いさまというところでしょう。「双十一」とは11月11日のことで、「1」が並ぶ日に合わせて独身者が自分へのプレゼントを買うという、ちょっぴりさみしい意味が込められていたのですが、いまや中国ネット通販業界にとって年間最大のセール期間です。


「双十一」に迫る業界イベントに成長した「618」ですが、今年は値下げ競争の行き過ぎを懸念する声が株式市場から出ています。5月29日付『香港経済日報』はコロナ後の中国景気の回復が減速するなか、各社が売り上げ拡大を競うあまり、「薄利多売」に陥るリスクを指摘しました。オンラインモール出店者への集客支援に多額の費用を投じることも、利益率の下押し要因になるとしています。



割引クーポンを大盤振る舞い、ライブコマースの伸長に対抗

各社は6月18日の決戦に向けて1カ月以上前から宣伝を繰り広げるのが通例で、今年は大幅な値下げや割引クーポンの配布が目立ちました。例えば、JDドットコムは全カテゴリーでの値下げに加え、「200元以上のお買い物で20元値引き」のクーポンを配布します。アリババ集団傘下のショッピングモール「天猫(Tモール)」も「買い物300元以上で50元値引き」を続け、全商品2割引きキャンペーンを初めて導入します。両社とも、過去最大級の生活支援だと胸を張りました。


消費者にとってはうれしい低価格路線ですが、投資家にとっては気になる話です。たしかに「618」の流通総額(GMV)は4-6月期のネット通販株の重要指標とみなされています。しかし売り上げを追うあまり利益率が低下したのでは、手放しで評価できません。


さらに、JDドットコムやアリババが運営するオンラインモールは強力な新業態の挑戦に対抗しなければなりません。新業態の代表格は動画を配信しながら商品を売る「ライブコマース」で、ショート動画プラットフォームの快手科技(01024)や動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」で知られる字節跳動(バイトダンス)などが運営元です。


ネット通販が小売りの成長をけん引、焦点は利益率

とはいえ、ネット通販は中国の小売りのなかでも成長力が高く、投資家の関心を集めています。中国の国家統計局によると、23年1-4月のオンライン商品小売額は前年同期比10.4%増の3兆7164億元でした。これは小売額全体の24.8%に相当し、伸び率も全体の8.5%を上回っています。4月だけをみても、オンライン商品小売額の調整済み伸び率は前年同月比20.8%で、3月の10.9%から加速し、前年同月の18.4%より高い水準。昨年は新型コロナウイルスの感染が拡大した影響で小売りが全般的に落ち込み、その反動で伸び率が押し上げられたようです。


アリババ集団傘下プラットフォームの「天猫」と「淘宝(タオバオ)」、JDドットコムの「京東」は先週から購入予約を受け付けていましたが、5月31日にそろって開幕セールに突入しました。バイトダンスの「抖音(ドウイン)電商」、快手科技の「快手電商」も6月1日に購入予約受け付けを締め切ってセールを開始します。商戦の勝ち名乗りを上げるのはどのプラットフォームになるのか、6月19日には大勢が明らかになるでしょう。投資家は流通総額(GMV)の規模や伸び率だけではなく、利益率の優劣に目を凝らすことになりそうです。


この連載の一覧
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第42回 「国9条」:配当利回り重視の投資戦略に脚光、注目銘柄は国有企業
第41回 「啓航企業」:国有企業のゆりかごでユニコーンは育つか
第40回 「kimi」:市場を沸かせる中国ユニコーンの生成AI
第39回 「不動産発展の新モデル」その2:痛みを伴う改革に踏み込めるか
第38回 期待は高い「低空経済」:eVTOL離陸に投資家も浮き立つ
第37回 「洋上風力発電」:低迷を脱するか、行方は政策の風向き次第
第36回 「24年の香港IPO」: 地位回復に向け中国本土、米国と競り合い
第35回 「辰年の投資戦略」:一押しは日本株、A株市場には慎重
第34回 「美麗中国」:習近平氏肝いりの“生態文明”建設事業
第33回 内巻、寝そべり、潤学、献忠学:ネットに見える若者の本音
第32回 住宅神話と「発展の新モデル」: 待ったなし、中国不動産市場の構造改革
第31回 「十不青年」: 家を買わない中国の若者、投資にも興味なしか
第30回 「国家隊」:株式相場を「実弾」で支える官製チーム、その実力は?
第29回 「生成AI」:中国市場を制する一般向けサービスはどれか
第28回 資本市場の活性化と逆行する「IPO抑制」
第27回 消えた「房住不炒」、投資家を走らす
第26回 医薬品業界に嵐を呼ぶか「反腐敗」
第25回 「ハンセンテック指数」3周年を機に巻き返しなるか
第24回 地方歳入増の妙案になるか「城中村」の改造
第23回 中国通信株の未来を担う「工業インターネット」
第22回 「ハンセン指数」上昇シナリオ実現の根拠と条件
第21回 株式市場を揺るがす「人民元相場」
第20回 習近平氏の肝いり「郷村振興戦略」
第19回 習近平色に染まるシン「新型都市化」
第18回 上半期のネット通販王者を決める「618」開幕
第17回 中国の株式相場を動かす「中特估」とは?
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中国株情報部

村山 広介

日本の出版社や外資系出版社に勤務したほか、シンガポールの邦字新聞社でビジネスニュース編集を経験。 2011年8月、T&Cフィナンシャルリサーチ(現・DZHフィナンシャルリサーチ)に入社。

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