中国株、あのテーマはどうなった?

第31回 「十不青年」: 家を買わない中国の若者、投資にも興味なしか

当局も気にする?無欲な中国の若者像

今どきの若者は恋愛にも結婚にも消極的で、子どもをつくらない、家も買わない…ひところ日本のメディアをにぎわせた若年層への批評のように聞こえますが、実は中国での2023年の流行語の一つ「四不青年」です。中国語では「不恋愛、不結婚、不買楼、不生子」と書きます。

 

『香港経済日報』によると、「四不青年」がソーシャルメディアで目立ち始めたのは23年3月。新型コロナウイルス禍の衝撃で結婚件数が減ったことが背景にあるようです。2022年にゴールインしたカップルは683万3000組で、21年に比べ80組減りました。37年前に統計を取り始めて以来の最低記録です。

 

23年7月には、中国共産党の青年組織、共産主義青年団(共青団)の広州市委員会が発表したとされる文書がネットで流布し、「当局の注意を引いた」と話題になりました。文書は「我が市で“頭をもたげる”四不青年”現象、青年が発展する都市建設を強化する措置の提案」と題し、大学生や就職した青年から回収したアンケート回答1万5501件のうち、1215件が四不青年に該当したと報告しています。

 

この文書は、同委員会は「四不」を「四要(恋愛したい、結婚したい、家を買いたい、子供が欲しい)」に変えるため、いかにして多方面の力を結集するかが焦点になると結論付けたとなっています。これに対し、ネットユーザーから「まず就職、住宅、年老いた父母の問題で悩まずに済むようにすることが先決だ」と突っ込みが入りました。



やっぱり恋はしたい、でも投資に興味はない!

とは言え、「四不青年」が正式に公的文書に掲載されたわけではありません。しょせんはネットの流行語、夏を過ぎたころには廃れたかと思われていました。ところが昨年12月に復活します。しかも「十不青年」に成長して戻ってきました。

 

オリジナルの「四不」から恋愛が脱落し、新たに献血、寄付、宝くじ購入、株式投資、医療保険加入、老人扶養、感動が加わりました。恋はしたいが、資産形成に興味はないということでしょうか。若者の株式投資離れは市場関係者をざわつかせました。『香港経済日報』は1月5日、「A株に失望か?」との見出しで十不青年への”進化“を報じています。

 

米メディア『大紀元』によると、「十不青年」を提唱したのは陝西省咸陽市在住の基礎教育専門家、藍家康氏。23年12月5日に中国最大のQ&Aサイト「知乎」(zhihu.com)で公表したといいます。同氏が「十不」それぞれに付したコメントは、中国の世相を知る上で参考になります。


 

株式市場はリスクだらけ、「宝くじと同じ」

「不買房(住宅を買わない)」であれば「住宅価格の高騰に対応して、多くの若者が家を買わず、借りている。家を買わないのは住宅価格の負担が理由か、それとも理性的な選択なか?」と問いかけています。藍氏の設問は、単純化すれば、若者は自分の好みや利害に応じて何かをしないと決めたのか、やりたくともできない経済状態に追い込まれたのか、ということです。

 

例えば“十不”に新たに加えられた「不買彩票(宝くじを買わない)」については、「消費主義が隆盛する現代で、多くの人が宝くじを買わないが、理性的な消費観が広がりつつあるからか、それとも生活が圧迫されているからか?」という具合です。


実は、「不入股市(株式投資をしない)」については、「流行っているのは穏健な投資観。宝くじと同様に、株式市場も危険な場所だ」と問いかけ抜きで断言しています。中国の若者は株式投資を宝くじと同様の運試しとみなしている、と言わんばかりです。

 

中国指導部、デジタル世代の「新型消費」に期待

中国指導部は昨年12月に開いた中央経済工作会議で、景気減速の背景にある要因として「有効需要の不足、一部産業の過剰な生産能力、社会が持っている弱気な将来見通し」を挙げました。「十不青年」が描き出すのは、将来に対する若者の不安と言えるでしょう。

 

もっとも中央経済工作会議は、デジタル消費、グリーン消費、健康消費などの「新型消費」の振興を打ち出し、スマートホーム、文化・エンターテインメント観光、スポーツイベント、国産品などが新たな成長エンジンになると強調しています。デジタルツールを使いこなし、上昇志向はなくとも自己承認欲求が強い若年層が新型消費」の担い手になるとの期待が込められているようです。

この連載の一覧
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第61回 鉄鋼業界:経営統合に再点火、業界団体が政策主導を要望
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第59回 自動運転業界、「スパイ活動疑惑」にヒヤリ
第58回 伝統の「白酒」:ネット世代は「飲まずに投資」
第57回 中央政治局会議:市場が大歓迎した「3つの異例」
第56回 名月も陰る中国景気、月餅も「お手頃価格」が主流
第55回 中国の家電:勝負の分かれ目は海外、ブランドを世界展開
第54回 中国の金融政策 その2:なぜ中央銀行は独立しているべきなのか
第53回 「高配当株」その2:香港市場、主役はバリュー株に交代か
第52回 中国の金融政策:大胆な利下げに踏み出せない事情
第51回 250日移動平均:香港市場に帰ってきた「ベア」
第50回 米大統領選:香港の投資家を悩ます二重の不確実性
第49回 香港市場の「もしトラ」:米インフレ再燃を予想、金融セクターに「買い」
第48回 「肥満症薬」:先発薬の特許切れにらみ、国内企業が参入ラッシュ
第47回 「国家隊」その2:異例の香港入場、6月に中央企業指数ETFを買い入れ
第46回 「水素サプライチェーン」:2025年にFCV5万台、業界は振興策を要望
第45回 「不動産発展の新モデル」その4:地方政府の住宅在庫買い取り、人民銀が支援
第44回 「高配当株」:中国ならではの買われる理由
第43回 「不動産発展の新モデル」その3:中国指導部、住宅在庫の消化策検討を指示
第42回 「国9条」:配当利回り重視の投資戦略に脚光、注目銘柄は国有企業
第41回 「啓航企業」:国有企業のゆりかごでユニコーンは育つか
第40回 「kimi」:市場を沸かせる中国ユニコーンの生成AI
第39回 「不動産発展の新モデル」その2:痛みを伴う改革に踏み込めるか
第38回 期待は高い「低空経済」:eVTOL離陸に投資家も浮き立つ
第37回 「洋上風力発電」:低迷を脱するか、行方は政策の風向き次第
第36回 「24年の香港IPO」: 地位回復に向け中国本土、米国と競り合い
第35回 「辰年の投資戦略」:一押しは日本株、A株市場には慎重
第34回 「美麗中国」:習近平氏肝いりの“生態文明”建設事業
第33回 内巻、寝そべり、潤学、献忠学:ネットに見える若者の本音
第32回 住宅神話と「発展の新モデル」: 待ったなし、中国不動産市場の構造改革
第31回 「十不青年」: 家を買わない中国の若者、投資にも興味なしか
第30回 「国家隊」:株式相場を「実弾」で支える官製チーム、その実力は?
第29回 「生成AI」:中国市場を制する一般向けサービスはどれか
第28回 資本市場の活性化と逆行する「IPO抑制」
第27回 消えた「房住不炒」、投資家を走らす
第26回 医薬品業界に嵐を呼ぶか「反腐敗」
第25回 「ハンセンテック指数」3周年を機に巻き返しなるか
第24回 地方歳入増の妙案になるか「城中村」の改造
第23回 中国通信株の未来を担う「工業インターネット」
第22回 「ハンセン指数」上昇シナリオ実現の根拠と条件
第21回 株式市場を揺るがす「人民元相場」
第20回 習近平氏の肝いり「郷村振興戦略」
第19回 習近平色に染まるシン「新型都市化」
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第17回 中国の株式相場を動かす「中特估」とは?
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中国株情報部

村山 広介

日本の出版社や外資系出版社に勤務したほか、シンガポールの邦字新聞社でビジネスニュース編集を経験。 2011年8月、T&Cフィナンシャルリサーチ(現・DZHフィナンシャルリサーチ)に入社。

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