中国株式相場が急伸、売買代金は過去最高
9月末の中国株式市場は、出来高を伴って急伸しました。香港市場の代表的な株価指数のハンセン指数は9月30日まで5連騰し、終値は21133.68ポイントと2023年2月13日以来およそ1年7カ月ぶりの高値。売買代金は連日で史上最高を更新しました。24日以降の累計上昇幅は2886.57ポイントに達しています。
中国本土市場でも、9月30日に上海総合指数が9日続伸、深セン成分指数が6日続伸となり、終値ベースでそれぞれ1年5カ月ぶり、1年1カ月ぶりの高値を付けました。両市場の売買代金は合計で2兆5930億3700万元と、2015年5月28日の過去最高記録を更新しました。
中国指導部「必要な財政支出を確保する」
相場を急騰させた最大の要因は、中国当局が2段構えで発表した経済政策です。まず、9月24日に中国人民銀行(中央銀行)などの金融当局が追加の金融緩和策を打ち出しました。市中銀行から強制的に預かるお金の比率の預金準備率や、政策金利の引き下げを明らかにしただけでなく、既存住宅ローンの引き下げを含む不動産不況対策と、自社株買い支援などの資本市場支援策も盛り込みました。
次いで同月26日に中国共産党の中央政治局が開いた会議の内容が伝わると、市場関係者はいっそう色めき立ちました。「カウンターシクリカル(景気変動を抑える)な財政・金融政策を強化し、必要な財政支出を確保する」と強調していたからです。市場に根強かった「中国指導部は“大盤振る舞い”に慎重」との見方が後退し、2024年の経済成長目標の達成に向けて大規模な財政出動に踏み切る、との観測が代わって浮上しました。
政治局会議の慣例破る、9月の主題は経済
中央政治局は、習近平総書記(国家主席)を筆頭に24人で構成される政策決定機関であり、「中国の指導部」です。中央政治局会議は毎月1回開かれています。ただ、今年9月に開かれたのは単なる月例の会議ではありませんでした。『香港経済日報』は同会議に「3つの異例」があったと伝えています。
第1に、9月の会議でありながら主題が経済だったことです。慣例に従えば、中央政治局が経済問題をテーマに会議を開くのは年3回。4月に全国人民代表大会(全人代)を受けた政策調整を検討し、7月に上半期の総括と下半期の経済展望を行い、12月に中央経済工作会議に向けた準備を締めくくるとされています。
9月の会議はこれまで、中央委員会全体会議(5年間に慣例として7回開く重要会議)の準備会合と位置付けられてきました。今回は経済政策を取り上げたことで、市場は政策方針が大きく変わると受け止めたわけです。
情勢判断で「新たな状況と問題が出現」
第2の異例は、政策発表の順番が通常と逆になったことです。中国では共産党が政策方針を政府部門に指導します。金融政策も、まず中央政治局が会議で決め、これを受けて国務院(内閣に相当)の常務会議や関連部局の会合で対応する措置を打ち出すという流れになります。ところが今回は段取りが逆転し、金融当局が措置を先行発表した後、中央政治局が追認する形でした。
第3の異例は、中央政治局が会議で示した「足元で経済運行に新たな状況と問題が出現している」という情勢判断です。『香港経済日報』によれば、今年の会議ではこうした表現はこれまで見当たりませんでした。新たな状況と問題があるという見解を明らかにしたからには、政策方針の変更と重要な措置の導入があるはずです。ところが、「状況と問題」とは何かが明確にされていません。これについて『香港経済日報』は「デフレなどの議論が決着していないなか、指導部はまず直面する問題に対処する政策を策定しているのではないか」との見方を示しました。
注目は民営経済と消費財
ともあれ、株式市場は中央政治局会議の結果に圧倒的な「買い」で反応しました。しかも、国有企業が主役の素材セクターや建設セクターより、ITなど民営企業の存在感が大きいセクターや消費財関連の上昇が目立ちます。同会議が必要な措置として「民営経済促進法を導入し、非公有制経済が発展する良好な環境をつくる」「新型消費業態を育成する」「養老・託児産業を発展させ、出産・子育て支援政策の体系を改善する」と指摘したことが材料となったようです。
中国の経済不振の理由は有効需要の不足にあると指摘されてきました。いくら金融を緩和し、商業銀行が貸し出せる資金を積み上げても、事業者や消費者が借りてくれなければ経済は活性化しません。中国指導部は今回の中央政治局会議で大規模な金融緩和と財政出動をセットで打ち出しました。今後、需要不足という難題に真正面から取り組む措置が実際に打ち出され、膨らんだ期待に応えてくれるのか、市場は注視しています。