中国株、あのテーマはどうなった?

第63回 中国製ゲーム:世界で勝負、先兵は孫悟空

西遊記、ファイナルファンタジーに勝利


先週、中国のゲーム業界が快哉を叫ぶニュースがありました。ゲーム表彰イベント「Golden Joystick Awards 2024」が22日に英ロンドンで開かれ、中国の遊戯科学(ゲームサイエンス)が開発・販売する「黒神話:悟空( Black Myth: Wukong)」がUltimate Game of the Yearを受賞しました。


同イベントでは1年間に発売されたタイトルがノミネートされ、プレーヤーの投票によって受賞作品が決まります。日本製の『ファイナルファンタジーVII リバース』や『ELDEN RING SHADOW OF THE ERDTREE』、『アストロボット』などの人気作を抑えて中国製ゲームが最優秀作品に選ばれたとあって、香港の経済通通信社は「国産ゲームが海外進出する上で新たなブレークスルー」だと報じました。中国では今年8月の発売から3日間で1000万本超が売れる空前のヒット作となっています。


黒神話:悟空の公式サイト


中国伝統文化の導入が成功の要件


遊戯科学の正式社名は「深セン市游科互動科技有限公司」で、2014年に深セン市で創業した未上場企業です。にもかかわらず、「黒神話:悟空」の受賞は経済通通信社や中国の証券情報メディアから大いに注目されました。中国ゲーム業界が当局の規制の下で成長していくための要件が、同作品に鮮明に見て取れるとされたからです。


要件のなかでも特に重要なのは、復旦大学中国研究院の劉典副研究員によれば「中国の伝統文化」と「人工知能(AI)の活用」です。どちらも中国政府が振興に力を入れている分野です。


「黒神話:悟空」が「西遊記」をベースにしていることはタイトルだけも明白でしょう。中国当局は派手な戦闘シーンや流血の場面がふんだんに盛り込まれたゲーム作品に厳しい目を向け、国有メディアは「暴力をあおり、青少年の心身に有害」との論陣を張っています。しかし、主役が中国古典作品のヒーローとなれば話は別です。


劉副研究員は、中国共産党が今年7月に開いた第20期中央委員会第3回全体会議(3中全会)で、文化供給に関する課題が「量的な不足」から「質的な向上」へと移行しており、文化サービス・製品の供給体制の最適化と文化経済政策の改善を要請したと指摘。「黒神話:悟空」が文化供給改革の成功例だと評価しました。その上で「黒神話:悟空」について、「西遊記を新たに解釈し、孫悟空を矛盾と葛藤を抱えた英雄として描き出した。伝統文化の精髄を保ちながらも、現代的な人間性への配慮を与えている」「伝統文化の革新的なアレンジが世界のプレーヤーにも共感を呼び起こし、中国文化の普遍的な価値と国際的な魅力を示すだろう」と激賞しました。


自社開発AIを活用、没入感の高いゲーム体験を実現


劉副研究員はAI活用についても、「黒神話:悟空」が中国のゲーム産業が技術革新において持つ実力を示したと評価しました。同作品は遊戯科学が開発したAIによるインテリジェントなシーン生成技術を、テンセント(00700)が出資する米エピックゲームズのゲームエンジン「Unreal Engine 5」と組み合わせ、1000平方キロメートル超に相当するオープンワールドマップを実現しました。さらに、米エヌビディアの技術を導入し、ゲームのグラフィックスを大幅に向上させました。実際、『黒神話:悟空』は「Golden Joystick Awards 2024」でBest Visual Designも受賞しています。


『香港経済日報』も、AIがゲーム品質の向上に果たす役割が重要になっていると指摘しました。AIを使えば、ゲームのストーリー展開がより個性的になり、ノンプレーヤーキャラクター(NPC、コンピューターが動かすゲーム内のキャラクター)の設計などを通じてより没入感の高いゲーム体験を創り出せるようになったとの見方を示しました。代表的な作品例としてネットイース(09999)のMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム)「逆水寒」を挙げました。


国策への呼応と娯楽性を両立、市場が成長


前述した通り、中国ではオンラインゲームは当局による統制の対象となってきました。近年では2018年に新作ゲームの審査を凍結し、19年には未成年者のゲーム利用時間や課金に制限を加えました。21年には国営新華社がオンラインゲームを「精神のアヘン」に例えて例えて猛批判し、新作ゲーム審査が再び凍結されました。


中国のゲーム開発者は逆風に立ち向かうため、中国伝統文化を取り入れ、AIの応用によって国際的な競争力を持つ作品を送り出すことで、国策に呼応すると同時に、プレーヤーを楽しませることに腐心してきました。『黒神話:悟空』の成功はそうした努力の成果と言えるでしょう。


すでに新作ゲームの審査は常態に戻っています。審査を管轄する国家新聞出版署が2024年1-11月に版号(商用運営の認可番号)を付与したオンラインゲームは計1281本(うち国産は1184本)に達し、23年通期の1075本を上回りました。シティグループの予測では、今年の審査通過数は約1400本前後に達する見込みです。


おかげで中国ゲーム市場は今年に入って堅調に成長しています。調査会社の伽馬数据(ガンマデータ)の「中国ゲーム産業四半期報告」によると、2024年7-9月期の中国ゲーム市場の売上高は前年同期比9.0%増の917億6600万元でした。前四半期(4-6月期)比では23.0%増えています。



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第64回 「氷雪経済」が熱い!25年に1兆元突破へ
第63回 中国製ゲーム:世界で勝負、先兵は孫悟空
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中国株情報部

村山 広介

日本の出版社や外資系出版社に勤務したほか、シンガポールの邦字新聞社でビジネスニュース編集を経験。 2011年8月、T&Cフィナンシャルリサーチ(現・DZHフィナンシャルリサーチ)に入社。

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