香港「穏定幣条例」8月1日に施行
香港株式市場で、法定通貨などを裏付け資産とする仮想通貨「ステーブルコイン」がホットな投資テーマとしてはやされています。市場の関心が高まるきっかけとなったのは2025年8月1日に施行される「ステーブルコイン(穏定幣)条例」です。同条例の下、ステーブルコインを香港で発行する制度や発行体認可の枠組みが整いました。『香港経済日報』など現地メディアによると、中国光大控股(00165)、衆安在線財産保険(06060)、聯易融科技(09959)、連連数字科技(02598)、イエーカー(09923)などがテーマ株として注目されています。
裏付け資産は原則自由
仮想通貨(暗号資産)については、ビットコインのような投機的な商品というイメージが依然として強いかもしれません。ただ、ステーブルコインは米ドルやユーロ、金、国債などに価値を連動させることで価格変動を抑えるよう設計されています。すでに「テザー(USDT)」や「USDコイン(USDC)」などが流通しており、米コインマーケットキャップによると発行額はそれぞれ1550億米ドル、610億米ドルに上ります(2025年6月10日時点)。
代表的なステーブルコインの多くは米ドルや米国債を裏付け資産としていますが、香港ステーブルコイン条例で特筆すべきなのは、裏付け資産とする通貨が原則自由に選べることです。米ドルや香港ドルはもちろん、人民元も選択肢に入るということです。同条例の下、中国本土外の市場で取引されるオフショア人民元(CNH)であれば、香港金融管理局(HKMA)の認可を得れば裏付け資産とすることが制度上は可能になりました。
注目のステーブルコイン関連株
ステーブルコイン条例の施行を前に、香港メディアではステーブルコインの発行や流通、周辺技術に関与する企業を取り上げた記事が目立つようになりました。
『香港経済日報』によると、代表的なテーマ株の一つが中国政府系金融持ち株会社の中国光大控股(00165)。同社は2016年、米ファンドと共同でUSDコインの発行元である米サークル・インターネット・フィナンシャルに約6000万米ドルを出資しました。サークルは6月6日にニューヨーク証券取引所に新規上場しており、戦略出資者である中国光大控股の投資収益が注目されています。
続いて、中国ネット損保の衆安在線財産保険(06060)は香港のデジタル銀行ZA Bankの筆頭株主であることが注目ポイント。ZA Bankは、2024年に香港で初めてステーブルコイン発行者に対し「準備銀行サービス」を提供したデジタル銀行です。
聯易融科技(09959)は、ブロックチェーンを活用したデジタル貿易金融に注力しています。2021年にスタンダード・チャータード(02888)と共同で貿易金融プラットフォーム「Olea」を設立しました。2024年にはSuperFi Labsを設立し、絵画など現実世界に存在する資産の価値や所有権をブロックチェーン(分散型台帳)上で発行し権利化するReal World Asset(RWA)トークンの実証試験を進めています。技術面でのステーブルコイン制度への貢献が期待される銘柄です。
連連数字科技(02598)が間接的に全額出資する連連国際(LlianLian Global)は、香港金融管理局(HKMA)前総裁の陳徳霖(ノーマン・チャン)氏が設立した円幣科技(RD Technologies)と協力してステーブルコインを使った国際決済の実用化プロジェクトを進めています。また、連連数字科技の子会社DFX Labsは香港の仮想資産取引ライセンスを取得済みです。
イエーカー(09923)は、中国本土で中小企業向けに統合決済サービスを提供しているフィンテック企業です。同社は香港、シンガポール、米国などで決済・送金業務免許を取得しており、ステーブルコインを使った多国間決済に進出できるとみなされています。
香港はステーブルコインの実験場、人民元国際化に貢献
ステーブルコイン制度の整備は、国際金融センターとしての地位を高めたい国家・地域にとって必須の政策課題となっています。制度整備によってデジタル資産の信頼性が高まり、国際的な資金の呼び込みにつながるからです。クロスボーダー決済の効率化と低コスト化も期待できます。
さらに香港の場合、人民元国際化への貢献という意義があるでしょう。中国本土の金融当局からみれば、人民元と連動するステーブルコインが国際的な決済手段として一定の存在感を確保する上で、中国本土では実現が難しい試みを香港で実験することができるわけです。今後、香港でステーブルコインの発行が活性化すれば、基盤となる技術やプラットフォーム、サービスを提供する企業に追い風となり、投資家の関心もいっそう高まっていくでしょう。