株式市場には、はやされるテーマがあるものです。花火のように打ちあがったと思ったらすぐに忘れられたテーマがあるかと思えば、もはや定番となった息の長いテーマもあります。この連載では、中国市場ならではの投資テーマを取り上げ、どこから来てどこへ行くのかをご紹介していきます。第9回は「サッカー・ワールドカップ」です。
異例の冬季開催、それでもビール株を押す理由
4年に1度やってくるサッカーのワールドカップ(W杯)は五輪と並ぶ世界的なスポーツの祭典。今年もカタール大会の開幕を20日に控え、香港の証券各社がリポートでテーマ株を挙げました。特に推されているのは、大観客を集めるイベント関連では定番とも言えるビール株です。
ただ、今年のW杯は異例の冬季開催。夏に消費が伸びるビールがテーマ株の代表で良いのか、疑問もわきます。これまでは欧州主要サッカーリーグのシーズンオフにあわせて6-7月に開催されてきましたが、開催地と中東となったことで選手の体力が削られる夏季を回避したようです。
それでも香港の証券会社は「ビールに勝算あり」とみているようです。「ビール消費のピーク時期が例年の4-6月、7-9月からさらに延びる」(中信証券)との声も聞かれました。強気の主な根拠は2つあります。まず、カタールとの時差です。試合が行われるのは香港時間の午後6時から午前4時にあたり、テレビやネットを通じて試合を見ながらの飲食にちょうど良い、というわけです。
もう一つは中国での新型コロナウイルスの感染再拡大です。「ゼロコロナ」政策の下で収束したかに思えた感染者数が10月半ばから増勢に転じ、11月15日の中国本土の新規感染者は約7か月ぶりに2万人を超えました。こうなると、外出は控えて自宅でW杯を観戦する消費者が多くなるとの見立てです。
ビールとスナック菓子に熱視線、英代表次第でパブも大商いか
香港株式市場のビールセクターで最も注目されているのはバドワイザーAPAC(01876)です。カタールと同社の主力市場である中国、韓国、インドの時差は2時間半から5時間で、ビール片手の試合鑑賞には最適。モルガン・スタンレーはW杯開幕前に公表したリポートで、同社株価が80%の確率で上昇するとの予測を明らかにしました。
ビールのつまみの消費も伸びるに違いない…この観点から『香港経済日報』は食品株のなかから中国旺旺(00151)を推奨しました。同社はコメを原料とする菓子のメーカーとしては世界最大を誇り、ビールのつまみになるスナック菓子の品ぞろえが強みです。ただ、原料価格の上昇で売上原価が膨らみ、採算が悪化するリスクには注意が必要です。
バドワイザーAPACや中国旺旺がW杯テーマの看板メニューだとすれば、裏メニューは香港不動産大手の長江実業集団(01113)かも知れません。同社が2019年に買収した英パブ運営大手グリーン・キングにとって、W杯は需要な商機だからです。イングランド代表とウェールズ代表が勝ち進むほどパブで祝杯も重なり、コロナ禍で痛手を被った同社業績も改善へ…こんな胸算用から運営する店舗の大半で試合中継を店内で流します。
予想で買って、キックオフで売る?
実は、肝心の中国は今年のW杯に出場しておらず、代表チームを応援するパブの英国人のような盛り上がりは期待薄です。10月26日発表のFIFAランキングでは79位と、この先も出場権を得るにはかなり苦労しそうです。しかし、サッカー人気も地に落ちたとは言えません。中国企業がカタール大会の公式スポンサーとして名を連ねているのも、国内消費者への訴求力を認めればこそです。
不動産を中心に事業を多角展開する大連万達集団がFIFAパートナーとなっているほか、「ハイセンス」ブランドで知られる電機メーカーの海信集団、スマートフォンメーカーのvivo(維沃移動通信)、乳業大手で香港上場の中国蒙牛乳業(02319)がFIFAワールドカップスポンサー。バドワイザーAPACの親会社、アンハイザー・ブッシュ・インベブもFIFAワールドカップスポンサーです。
問題は、投資テーマとしての「サッカーW杯」の過去の戦績が芳しくないことでしょう。『香港経済日報』のまとめによれば1998年以降の過去6回の大会期間中、ハンセン指数が上昇したのは2回、下落が4回です。2002年と2018年には7%超下げました。開幕前に仕込みを済ませ、キックオフ後に各銘柄の値動きを見ながら売り出して利益を得るという戦略で臨む投資家が多いと思われます。となると、株式市場でのW杯冬の陣は短期決戦とみるべきでしょう。カタール大会決勝に先んじて株式市場での勝敗の行方が明らかになりそうです。