中国株、あのテーマはどうなった?

【中国株、あのテーマはどうなった?】第4回 ハイテク全部乗せの経済政策「新型インフラ」

株式市場には、はやされるテーマがあるものです。花火のように打ちあがったと思ったらすぐに忘れられたテーマがあるかと思えば、もはや定番となった息の長いテーマもあります。この連載では、中国市場ならではの投資テーマを取り上げ、どこから来てどこへ行くのかをご紹介していきます。第4回は「新型インフラ」です。


景気浮揚の定番テーマが次世代技術で面目一新

「新型インフラ」はここ数年、投資家から高い関心が寄せられているテーマの一つです。中国指導部が全国人民代表大会(全人代)などの重要会議で、経済政策の重点としてたびたび取り上げてきたからです。ことに、景気が減速している局面では関連銘柄がその都度はやされてきました。2022年も例外ではありません。


いずこの国でもインフラ建設は景気浮揚の定番メニューですが、すでに巨額を投じてきた鉄道と道路、港湾、上下水、電力網などの公共設備を整備するだけでは経済に与える乗数効果は限られます。そこで中国政府が提示したのが「新型インフラ」です。2018年12月の中央経済工作会議(翌年の経済政策指針を決める会合)で初めて公式に言及されました。強大な国内市場の形成に向け、「5G事業化ペースを上げ、人工知能(AI)と産業インターネット、IoTなどの新型インフラ施設の建設を強化する」と表明しました。


「新型インフラ」の技術領域は大きく7つに分かれています。5G通信網、超高圧送電網、都市間高速鉄道および都市軌道交通、電気自動車の充電設備、データセンター、AI、そして産業インターネットです。20年4月には、国家発展改革委員会が次の3つのタイプにまとめました。


◇ITインフラ: 新世代ITが基盤。通信網インフラ(5G、IoT、産業インターネット、衛星インターネット)と、新技術インフラ(AI、クラウド、ブロックチェーン)、さらにコンピューティングインフラ(データセンター、インテリジェントコンピューターセンター)が含まれる。

◇融合インフラ:インターネットとビッグデータ、AIなどの応用によって高度化された従来型インフラ。スマート交通、スマートエネルギーなどを指す。

◇イノベーションインフラ:科学研究、技術開発、製品研究などを支える公共設備の役割を担うインフラ。



2021-25年に10兆元超を投資へ、5G通信網の建設進展

中国政府系の研究機関、中国信息通信研究院の「中国新型インフラ研究報告2022」によると、第14次5カ年計画(2021-25年)期間の新型インフラへの投資額は10兆6000億元で、中国での社会インフラ投資全体の10%前後に相当します。2021-23年のデータセンター産業投資は1兆4000億元、2020-25年の5G通信網の建設投資は1兆2000億元となり、産業チェーンの川上と川下を中心とする各産業への応用に3兆5000億元に上る投資が呼び込まれる見通しといいます。


株式市場ではインフラ施設の整備に携わる企業に関心が集まっています。例えば新型インフラのなかでも建設事業が先行している5G通信網であれば、チャイナ・モバイル(00941/600941)、チャイナ・ユニコム(00762)、チャイナ・テレコム(00728/601728)の3大通信キャリアが代表的な関連銘柄。データセンターでは大型ネット企業が競って大規模施設を建設しています。産業インターネットは海爾集団(ハイアール)やTCL科技集団(000100)、三一重工(600031)がそれぞれの業界のプラットフォームを構築し、機器や設備のネットワーク化を目指しています。AI分野の代表格は百度(09888)や曠視科技(メグビー)などで、自動運転、画像認識、医療サービスなどで応用を広げています。



「イノベーション駆動型発展戦略」実現へ、課題は起業家育成

投資家が当面の景気浮揚や具体的な振興措置と関連付けて新型インフラのテーマ株に注目する一方、中国指導部の視線はかなり未来に向けられています。中国がイノベーションを原動力として次代の成長を実現するためには、こうしたインフラが不可欠との考えです。李克強首相は2016年3月の全人代で行った政府活動報告で、創新(イノベーション)による発展を目指す国家戦略「国家創新駆動型発展戦略」を踏み込んで実施すると表明しました。同月5月、共産党中央委員会と国務院(内閣に相当)は全体計画にあたる「国家創新駆動型発展戦略要綱」を公表しました。


新型インフラの整備によって、イノベーションの器は着実に構築されていくはずです。しかし器には魂を込めねばなりません。新しい事業アイデアや革新的な技術を事業で試そうという起業家に活用されてこその新型インフラです。実際、李首相は2014年から“大衆創業”と“万衆創新”の推進を唱えてきました。それぞれ大衆による起業、民衆によるイノベーションを指す言葉で、二つ合わせて「双創」と総称されています。前述の政府活動報告でも、国家創新駆動型発展戦略に続いて挙げたのは双創への支援でした。


双創を振興する具体的な施策の一つは、新興企業向け市場の創設でしょう。深セン市場では2009年から「創業板」が開設されており、上海証券取引所も19年に「科創板」を設置しました。21年9月にはハイテク型中小企業の資金調達チャネルと位置付けられる北京証券取引所も設立されました。テーマ株の焦点がインフラ整備から新興企業に移った時が、新型インフラの竣工を示すメルクマールとなることでしょう。


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第45回 「不動産発展の新モデル」その4:地方政府の住宅在庫買い取り、人民銀が支援
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第42回 「国9条」:配当利回り重視の投資戦略に脚光、注目銘柄は国有企業
第41回 「啓航企業」:国有企業のゆりかごでユニコーンは育つか
第40回 「kimi」:市場を沸かせる中国ユニコーンの生成AI
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第28回 資本市場の活性化と逆行する「IPO抑制」
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中国株情報部

村山 広介

日本の出版社や外資系出版社に勤務したほか、シンガポールの邦字新聞社でビジネスニュース編集を経験。 2011年8月、T&Cフィナンシャルリサーチ(現・DZHフィナンシャルリサーチ)に入社。

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