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第72回 中国の家電 その2:DeepSeekがゲームチェンジャー

中国4大テレビメーカーが採用


この連載の第55回(2024年9月18日)で中国の家電を取り上げた際、「勝負の分かれ目は海外」とご紹介しましたが、半年もたたないうちに事情が変わってきました。ゲームチェンジャーになったのは、中国発の大規模言語モデル「DeepSeek(ディープシーク)」です。2月半ばに、中国の主要テレビメーカー4社が相次いでDeepSeekと接続する人工知能(AI)テレビを発表しました。


先陣を切ったのはハイセンスグループ。傘下に上場企業の海信家電集団(00921/000921)や海信視像科技(600060)を抱え、旧東芝の「レグザ」ブランドも手掛ける家電大手です。同社は2月12日、「ハイセンスAIテレビ」を含むスマートホーム製品にDeepSeekを使った機能を導入すると発表しました。ユーザーはハイセンス製テレビのリモコンにあるAI機能ボタンを押せばDeepSeekを起動できるようになります。音声操作でDeepSeek対応のAIアシスタントとの対話画面を呼び出すこともできます。


続いて「長虹」ブランドを展開する四川長虹電器(600839)が13日、自社製AIテレビがDeepSeeKモデルに接続すると発表しました。同社製AIシステム「滄海智能体」を搭載したモデルが対象で、音声対話ができることが特徴です。ユーザーは「DeepSeek-R1」フルスペック版を基盤とする“深度思考”タイプか、問いに即応する「快速響応」タイプを選択できます。


ハイセンスのテレビ売り場


AIが実現するテレビの高性能・多機能化


「ハイセンス」と「長虹」のAIテレビは、AIアシスタントやAIエージェントを通じてDeepSeekの機能を活用します。一方、スカイワース(00751)はDeepSeekを基盤AIエコシステムに組み込んでおき、AIエコシステムがスマートハードウエアのAI機能を統括する方法を取りました。


スカイワースが14日に発表したDeepSeeK搭載のAIテレビ新モデル「G7F Pro」と「A5F Pro」は、スマートテレビ用オペレーティングシステム「酷開AI OS(Coolita OS)」を通じて「DeepSeek-R1」フルスペック版を取り入れました。同社によると、「G7F Pro」はDeepSeekの機能により方言の認識やあいまいな意味の理解が可能で、映画・テレビドラマや音楽などのコンテンツをより正確に検索できるようになりました。さらに、動画編集、アンビエント音楽の生成、スピーチトレーニング、旅行スケジュール管理など多彩なタスクを実行できます。


TCL科技集団(000100)も類似した方法を採用しました。同社は17日、DeepSeekを自社製の「伏羲AIプラットフォーム」に組み込み、同社製テレビの画質と音質を向上させ、マンマシンインターフェースやコンテンツ生成の能力が強化したと発表しました。現在、TCLテレビは16種類の「スマートエージェント」を搭載しています。また、エアコンも「TCL伏羲大規模モデル」とAIアシスタントを通じてDeepSeekと接続し、音声対話の精度向上や実現したといいます。故障診断機能が強化され、過去のデータの分析により潜在的なリスクを予測・警告できるようになりました。


スカイワースのテレビ売り場


課題は販売価格、DeepSeekの安全保障リスク


こうした華々しい発表に接すると、DeepSeekの導入によって中国家電が一気に新世代に突入した感じを受けますが、課題も抱えています。一つは販売価格です。


中国テック系メディア『36kr』によると、DeepSeek対応のAIテレビは、非対応の製品と比べて約1000-1500元高い価格設定となっています。例えば、TCLの65インチ「T6L QD-Mini LED AI TV」の場合、オンラインモール「京東(JD)」のオフィシャル直営旗艦店での販売価格が3499元で、国の補助金を受け取った後の実質購入価格は2799元となります。一方、DeepSeek対応ではないTCLの65インチモデル「V8H Pro-J AI TV」は、同じく京東のオフィシャル直営旗艦店での販売価格が2099元、国の補助金受け取った後の実質購入価格は2039元です。


もう一つの問題は、DeepSeekを搭載した製品が海外市場に受け入れられないリスクです。米ABCテレビは2月初旬、DeepSeekが利用者のデータを中国政府に送信する機能を有していると報じました。専門家がDeepSeekのプログラミングコードを分析したところ、利用者のデータが中国政府の影響下にあるサーバーに送られる機能を有することが分かったといいます。米国などが安全保障上のリスクを理由に規制を導入すれば、中国発の動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」の二の舞になりかねません。


この連載の一覧
第73回 全固体電池:車載開始は27年、30年に量産化へ
第72回 中国の家電 その2:DeepSeekがゲームチェンジャー
第71回 ヒューマノイド:2025年は量産元年
第70回 ディープシーク その2:米中プラットフォームが続々提供
第69回 ディープシーク:トランプ氏コメントがまともな理由
第68回 人民元の先安観が消えない理由
第67回 2025年の消費:若者がこだわる6つの新潮流
第66回 新中式飲食業:若者を引き付ける「ネオ中華」消費トレンド
第65回 中央政治局会議 その2:金融政策を「緩和」に転換
第64回 「氷雪経済」が熱い!25年に1兆元突破へ
第63回 中国製ゲーム:世界で勝負、先兵は孫悟空
第62回 観光業界: 25年は休日が2日増加、国内旅行ブーム到来か
第61回 鉄鋼業界:経営統合に再点火、業界団体が政策主導を要望
第60回 少子化:「出産・育児しやすい社会」目指す総合措置を発表
第59回 自動運転業界、「スパイ活動疑惑」にヒヤリ
第58回 伝統の「白酒」:ネット世代は「飲まずに投資」
第57回 中央政治局会議:市場が大歓迎した「3つの異例」
第56回 名月も陰る中国景気、月餅も「お手頃価格」が主流
第55回 中国の家電:勝負の分かれ目は海外、ブランドを世界展開
第54回 中国の金融政策 その2:なぜ中央銀行は独立しているべきなのか
第53回 「高配当株」その2:香港市場、主役はバリュー株に交代か
第52回 中国の金融政策:大胆な利下げに踏み出せない事情
第51回 250日移動平均:香港市場に帰ってきた「ベア」
第50回 米大統領選:香港の投資家を悩ます二重の不確実性
第49回 香港市場の「もしトラ」:米インフレ再燃を予想、金融セクターに「買い」
第48回 「肥満症薬」:先発薬の特許切れにらみ、国内企業が参入ラッシュ
第47回 「国家隊」その2:異例の香港入場、6月に中央企業指数ETFを買い入れ
第46回 「水素サプライチェーン」:2025年にFCV5万台、業界は振興策を要望
第45回 「不動産発展の新モデル」その4:地方政府の住宅在庫買い取り、人民銀が支援
第44回 「高配当株」:中国ならではの買われる理由
第43回 「不動産発展の新モデル」その3:中国指導部、住宅在庫の消化策検討を指示
第42回 「国9条」:配当利回り重視の投資戦略に脚光、注目銘柄は国有企業
第41回 「啓航企業」:国有企業のゆりかごでユニコーンは育つか
第40回 「kimi」:市場を沸かせる中国ユニコーンの生成AI
第39回 「不動産発展の新モデル」その2:痛みを伴う改革に踏み込めるか
第38回 期待は高い「低空経済」:eVTOL離陸に投資家も浮き立つ
第37回 「洋上風力発電」:低迷を脱するか、行方は政策の風向き次第
第36回 「24年の香港IPO」: 地位回復に向け中国本土、米国と競り合い
第35回 「辰年の投資戦略」:一押しは日本株、A株市場には慎重
第34回 「美麗中国」:習近平氏肝いりの“生態文明”建設事業
第33回 内巻、寝そべり、潤学、献忠学:ネットに見える若者の本音
第32回 住宅神話と「発展の新モデル」: 待ったなし、中国不動産市場の構造改革
第31回 「十不青年」: 家を買わない中国の若者、投資にも興味なしか
第30回 「国家隊」:株式相場を「実弾」で支える官製チーム、その実力は?
第29回 「生成AI」:中国市場を制する一般向けサービスはどれか
第28回 資本市場の活性化と逆行する「IPO抑制」
第27回 消えた「房住不炒」、投資家を走らす
第26回 医薬品業界に嵐を呼ぶか「反腐敗」
第25回 「ハンセンテック指数」3周年を機に巻き返しなるか
第24回 地方歳入増の妙案になるか「城中村」の改造
第23回 中国通信株の未来を担う「工業インターネット」
第22回 「ハンセン指数」上昇シナリオ実現の根拠と条件
第21回 株式市場を揺るがす「人民元相場」
第20回 習近平氏の肝いり「郷村振興戦略」
第19回 習近平色に染まるシン「新型都市化」
第18回 上半期のネット通販王者を決める「618」開幕
第17回 中国の株式相場を動かす「中特估」とは?
第16回「医薬品ネット通販」アリババとJDがしのぎを削る成長市場
第15回「半導体の国産化」(その3) 腐敗は一掃、戦略を再設計へ
第14回「中国の政策金利」人民銀の景気調節手段「LPR」を読み解こう
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中国株情報部

村山 広介

日本の出版社や外資系出版社に勤務したほか、シンガポールの邦字新聞社でビジネスニュース編集を経験。 2011年8月、T&Cフィナンシャルリサーチ(現・DZHフィナンシャルリサーチ)に入社。

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