中国版「紅白」に踊るヒューマノイドが出演
中国で旧暦の年越しを祝う恒例のテレビ番組と言えば、日本の「NHK紅白歌合戦」に相当する「春節聯歓晩会」です。今年は1月28日に放送されました。多彩な演目のなかでも、16台の人型ロボット(ヒューマノイド)が新疆芸術学院の女性ダンサーと舞い踊る「秧 BOT」が中国の経済メディアに大きく取り上げられました。国営の中央電視台(CCTV)はニュースで、ヒューマノイドは人間さながらに踊って視聴者を喜ばせただけでなく、すでに生産現場に導入されていると伝えました。
「秧 BOT」に出演したヒューマノイドは杭州宇樹科技(Unitree)が23年8月に発売した「H1」です。H1は蔚来集団(09866)の電気自動車工場で部品の運搬やワイヤハーネスの取り付けに使われています。中国経済ニュースサイト『証券時報網』によると、ほかに上海智元新創技術(AGIBOT) 、楽聚(深セン)機器人技術(LEJU ROBOT)、深セン市優必選科技(09880)などが製造プロセスに携わるヒューマノイドを出荷しています。
量産化段階に突入、香港市場の注目銘柄は小米集団など
中国の証券各社は最近、相次いで「2025年がヒューマノイド量産元年になる」とするリポートを発表しました。例えば開源証券は、上海智元新創技術や米テスラが2025年に生産規模を1000台超に拡大すると予想。中信証券によれば、2024年に世界全体のヒューマノイド出荷台数は2000台を上回り、2025年はさらに増える見通しです。国海証券と国信証券も、今年からヒューマノイドの量産化が始まるとの見方を示し、産業チェーンへの投資機会に注目するよう勧めました。
この一斉唱和は中国証券業界を挙げてのテーマ株推奨という面もあるでしょうが、政策の裏付けがあってのことです。中国の工業情報化部が2023年11月に公表した政策文書で「2025年までにわが国のヒューマノイドのイノベーション体系を基本的に確立する」として、中核技術でブレークスルーを果たし、重要部品の有効な安定供給を確保すると表明しました。「ヒューマノイドのイノベーション発展の指導意見」と題された同文書は、さらに2027年の目標として「ヒューマノイド技術革新能力が大幅に向上し、安全で信頼性が高い産業サプライチェーンが形成され、国際競争力を備えた産業エコシステムを構築して総合的な実力が世界最先端となる」と明記しています。
開源証券は最近のリポートで、投資家が注目すべきヒューマノイド産業チェーン分野と関連銘柄を明らかにしました。具体的には◇汎用ヒューマノイドの開発で先行するテスラの関連銘柄:浙江五洲新春集団(603667)、浙江三花智能控制(002050)、◇国内の部品・システム開発企業:賽力斯集団(601127)、深セン市雷賽智能控制(002979)、寧波中大力徳智能伝動(002896)、◇工作機械メーカー:秦川機床工具集団(000837)などです。一方、『香港証券日報』は香港上場のテーマ株として小米集団(01810)、BYDエレクトロニック(00285)、百度(09888)などを挙げました。
「DeepSeek」が加速させるヒューマノイド普及
最近、中国のヒューマノイド開発と普及の追い風となりそうなニュースが証券市場を騒がせました。第69回と第70回にご紹介した中国発の大規模言語モデル「DeepSeek(ディープシーク)」の台頭です。このオープンソース方式モデルは安価でありながら高性能を誇り、人工知能(AI)開発業界に衝撃を与えました。
ヒューマノイドが製造拠点などで本格的に採用されるには、機能の向上と信頼性の確保が不可欠です。そのためには優秀なAIが必要となるのですが、AIのトレーニングコストがかさむほど、ヒューマノイドの価格も高くなってしまいます。その点、低コストでAIをトレーニングできるDeepSeekは魅力です。
先に上げた導入例が示す通り、ヒューマノイドの投入で先行しているのは新エネルギー車の製造拠点です。人口減少時代を迎えた中国で自動車産業がグローバル市場で戦う競争力を保持するためには、産業ロボットと普及は欠かせないでしょう。ヒューマノイドはAIと自動車という、中国の時代の成長力を担う戦略的産業を支える重要な要素となりつつあります。