結婚披露宴の定番、ライバルはミルクティー?
中国では国慶節(10月1日)の連休中に数多くの結婚式が開かれます。披露宴で高級酒をふるまうのが伝統的なスタイル。なかでも中国伝統の蒸留酒「白酒」が定番となっており、消費量が酒造業界の景気を占う指標となっています。
日本であれば一斉に乾杯した後は参加者がそれぞれのペースでどうぞ、となるところですが、中国では互いに酒を勧め、延々と祝杯を挙げる「敬酒」の習慣があります。アルコール度が高い白酒であってもミニグラスで一気に飲み干すのが礼儀とされ、下戸には試練の場になることもしばしばといいます。
ただ中国メディアによると、結婚式の主役である若年層は酒席を避けたがる傾向があり、「白酒の代わりにミルクティーで乾杯するカップルが珍しくない」と伝えています。
“ミルクティー”と書きましたが、日本語でイメージするミルクを入れた紅茶とは異なります。紅茶だけでなくウーロン茶や緑茶をベースにクリームを入れ、お好みでタピオカや果物をトッピングします。SNS映えするとして若者の支持を集め、大手チェーンの四川百茶百道実業(02555)や奈雪の茶(02150)はそれぞれ2020年、2021年に香港市場に上場しています。
中国メディア『36kr』の記事は、白酒が中国の若年層から選ばれない飲み物になってきた理由を2つ挙げています。一つは健康志向、もう一つは価格です。高級な白酒なら1本500-600元が相場ですが、ミルクティーなら1杯10元強で済みます。
高価で入手に一苦労の「飛天茅台」
白酒は欧米におけるワインのように生産量が限られたブランドが珍重され、中国では投資商品の一つです。銘酒が高値で取引され、偽物まで登場する事態となっています。結果、資産家の家族でもない限り、若者には手の届かない品になってしまいました。
例えば『36kr』によると、今年7月に浙江省で就職した周揚さんは白酒を買った経験がありませんでしたが、「仕事上の都合」で業界最大手の貴州茅台酒(600519)の代表的な白酒「飛天茅台」を手に入れようと決めました。ところが地元の直営店に行ってみると、店員は「予約がないと売れない」の一点張り。
そこで周揚さんは店員の勧めに従い貴州茅台酒のアプリをダウンロードし、アリババ集団(09988)やJDドットコム(09618)、ネットイース(09999)などのプラットフォームを通じて予約すれば、「飛天茅台」を販売指導価格の1499元で買えると知りました。
ところが、家族総出で各プラットフォームのタイムセールに毎日アクセスしますが、1カ月以上たっても1本も買えません。仕方なく周揚さんは友人に教えてもらった酒・たばこ取引業者の店に赴きますが、そこでさらに失望することになります。業者の提示価格は1本2480元。ネットのニュースでは「飛天茅台」の相場が下がり続け、買取価格が2100元に落ち込んだ地域もあると伝わっていたのに…しかも、酒瓶に抜き取りなどの不正な細工がないかを調べるX線検査機の使用料として1本20元を業者に支払う羽目になったそうです。
中国で「00後」と呼ばれる2000年以降に生まれた若者は、クーポンを配り、商品の返品や交換に応じるネット通販プラットフォームに慣れ親しんでいます。商店で居丈高な対応(モノ不足だったかつての中国では日常風景でした)に出くわした経験があまりありません。『36kr』は「金を払って茅台を買うのに不当な扱いを受けるようでは、若者の酒離れがますます進むのも無理はない」と警告しました。
9月終盤に白酒株が急騰、今後の値動きは政策が左右
もっとも株式市場に目を転じると、足元で全く異なる光景が展開しています。中国株式相場の急伸に伴い、低迷していた白酒セクターが9月末にかけて買いを集めました。『証券時報網』によれば、多数の若年が新たに証券取引口座を開設しており、証券会社には「いまから白酒株を買うのでは遅すぎるか?」という問い合わせが相次いだといいます。白酒は飲みたいと思わないが、白酒株は欲しいようです。
『36kr』によると、白酒は2021年初頭、新エネルギーと並んで投資家の人気が高いセクターでした。しかし景気減速が長引くとアンダーパフォームするようになります。2024年6月には、上海市場で貴州茅台酒の時価総額が中国4大商業銀行の一角である中国工商銀行に抜かれ、約4年ぶりに首位から陥落したと伝わりました。
白酒業界の経営環境は全体として厳しく、中国酒業協会が発表した「2024年中国白酒市場中期研究報告」によると、業界企業の80%が市場の冷え込みを感じています。最も経営が苦しいのは卸売り・小売り業者で、協会のアンケートに60%以上が在庫の増加に直面し、30%以上が資金繰りに苦しんでいると答えました。
半面、大手メーカーの業績は堅調です。貴州茅台酒の2024年6月中間決算は売上高が前年同期比17.6%増の834億5100万元、純利益は15.9%増の416億9600万元。宜賓五糧液(000858)は売上高が前年同期比11.3%増の506億4800万元、純利益は11.9%増の190億5700万元でした。瀘州老窖(000568)、安徽古井貢酒(000596/200596)も2桁増収増益でした。
瀘州老窖の白酒
中国の証券各社は9月末にかけて発表したリポートで、白酒セクターのバリュエーションを見直しています。化各社に共通しているのは、今後の株価動向は「当局が打ち出す具体的な景気刺激策に左右される」という見方です。中国指導部はかねてから、内需主導の景気回復を目指す考えを示してきました。また、特に高等教育を受けた若年層の就職支援にも力を入れると表明しています。白酒セクターの株価推移は、中国の経済政策に対する株式市場の評価を図るバロメーターの一つとして注目されそうです。