中国株、あのテーマはどうなった?

第44回 「高配当株」:中国ならではの買われる理由

ハンセン指数が19000ポイント超え、主役は高配当株買い

今回は香港市場で投資家の注目を集める高配当株について、中国ならではの事情をご紹介します。最近の香港株式相場の上昇を支える大きな要因となっているからです。


香港の代表的な株価指数であるハンセン指数は5月13日、終値ベースで心理的節目の19000ポイントを約9カ月ぶりに上抜けました。翌14日は4営業日ぶりに反落したものの、同水準を守って終えています。香港メディアの『香港経済日報』と『信報』はそろって、配当利回りが高い割にバリュエーションが低い中国本土企業が買われ、指数の上昇をけん引したと指摘しました。


香港証券取引所の旗


中国本土の個人投資家が買った香港株、配当課税を免除か

今回のハンセン指数上昇のきっかけは、5月10日に伝わった外電です。中国本土の個人投資家が相互取引制度(ストックコネクト)を通じて香港市場で買った銘柄について、配当課税の減免が検討されていると報じられました。中国本土では個人が受け取った配当に20%の所得税がかかりますが(香港では受取配当金は非課税)、この報道によれば、中国当局はストックコネクト経由で購入した香港株に限って課税免除とする案を検討しているようです。


香港市場に資金流入、背景に「AH株価格差」

同報道を手掛かりに、中国本土市場に上場している国有企業が香港市場に重複上場する「H株」が買いを集めました。香港市場では国有企業は「高配当・低バリュエーション」の代表的な銘柄とみなされているからです。


バリュエーションについては中国市場特有の事情が強く影響しています。中国企業が本土の上海市場・深セン市場に上場しているA株と比べ、H株は同一権利、同一額面でありながら株価が総じて割安な水準にとどまっているのです。『香港経済日報』よれば、A株とH株を重複上場する銘柄は100以上あり、A株価格がH株価格を平均20%上回ります。なお、AH価格差配当利回りの上位銘柄ランキングは二季報WEBで確認できます。


実は、A株H株の株価のかい離(AH価格差)はストックコネクトの効果で縮小していくと以前から考えられていました。今回の報道通りに配当課税が免除されるとの見方が広がれば、重複上場のH株を買う動きが加速しそうです。「ハンセン・ストックコネクト・チャイナAHプレミアム指数」をみると、すでにH株と比べたA株の割高度合いは小さくなっています。同指数は2月中旬に過去最高の157台に達した後、下落基調が4月以降に加速して13日には136付近に低下しました。



国有企業株に新たな買い材料

繰り返しになりますが、「ストックコネクト経由で香港株を購入した中国本土の個人投資家の配当課税が免除される」と報じたのは外電で、中国の官製メディアではありません。ましてや中国当局から公式発表はありません。仮に報道が正確だったとしても、あくまで「検討中」という話です。


ただ興味深いことに、この報道によって国有企業銘柄を買う動きが一段と活発になりました。報道が流れた10日の香港市場で上昇が目立ったセクターは中国本土系の銀行と保険、通信、電力、エネルギーなどで、いずれも国有企業が強い産業です。こうした伝統的産業セクターがハンセン指数の19000ポイント超えの原動力になるとは香港市場の関係者は予期していなかったようで、11日付『信報』は「高配当株が急騰、意外にもハンセン指数の節目突破をアシスト」と題した評論を掲載しました。


もっとも、市場関係者の間で国有企業に対する評価が高まっているという文脈で考えれば、「意外」とは言い切れません。この連載でご紹介した通り、2023年以降に市場で「中国の特色あるバリュエーション体系」(第17回)がはやされるようになり、2024年4月に中国政府が発表した資本市場振興策「国9条」(第42回)には「配当政策が優良な企業にインセンティブを与え、配当利回りを高める措置を講じる」方針が盛り込まれました。外電が伝えた配当課税免除が実現するかは現時点では定かではありません。ただ、国有企業銘柄のバリュエーション見直しを加速させる新たな材料になったことは間違いないでしょう。市場で盛り上がった期待が果たして実現するのか、投資家は目を凝らすことになりそうです。

この連載の一覧
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第56回 名月も陰る中国景気、月餅も「お手頃価格」が主流
第55回 中国の家電:勝負の分かれ目は海外、ブランドを世界展開
第54回 中国の金融政策 その2:なぜ中央銀行は独立しているべきなのか
第53回 「高配当株」その2:香港市場、主役はバリュー株に交代か
第52回 中国の金融政策:大胆な利下げに踏み出せない事情
第51回 250日移動平均:香港市場に帰ってきた「ベア」
第50回 米大統領選:香港の投資家を悩ます二重の不確実性
第49回 香港市場の「もしトラ」:米インフレ再燃を予想、金融セクターに「買い」
第48回 「肥満症薬」:先発薬の特許切れにらみ、国内企業が参入ラッシュ
第47回 「国家隊」その2:異例の香港入場、6月に中央企業指数ETFを買い入れ
第46回 「水素サプライチェーン」:2025年にFCV5万台、業界は振興策を要望
第45回 「不動産発展の新モデル」その4:地方政府の住宅在庫買い取り、人民銀が支援
第44回 「高配当株」:中国ならではの買われる理由
第43回 「不動産発展の新モデル」その3:中国指導部、住宅在庫の消化策検討を指示
第42回 「国9条」:配当利回り重視の投資戦略に脚光、注目銘柄は国有企業
第41回 「啓航企業」:国有企業のゆりかごでユニコーンは育つか
第40回 「kimi」:市場を沸かせる中国ユニコーンの生成AI
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第24回 地方歳入増の妙案になるか「城中村」の改造
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中国株情報部

村山 広介

日本の出版社や外資系出版社に勤務したほか、シンガポールの邦字新聞社でビジネスニュース編集を経験。 2011年8月、T&Cフィナンシャルリサーチ(現・DZHフィナンシャルリサーチ)に入社。

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