中国4大国有銀行のA株を買い増し
「“国家隊”が8年ぶりに入場!」。10月12日、中国メディアの証券市場ニュースコーナーでこんな見出しが躍りました。国家隊とは直訳すれば「ナショナルチーム」で、競技大会に出場する国の代表などを指しますが、証券市場関係者の間では中国本土の株式相場を下支えする政府系の資金を意味します。
11日大引け後、4大国有銀行の中国工商銀行、中国建設銀行、中国農業銀行、中国銀行の4大国有銀行がそれぞれ公告を発表し、筆頭株主である中央匯金投資有限責任公司(中央匯金)が上海証券取引所に上場する各行のA株式を買い増したと明らかにしました。取得額は計約4億7700万元に上ります。
「当局の株式相場てこ入れ」に沸き立つ市場
中央匯金は中国のソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)、中国投資有限責任公司(CIC)の子会社で、国家隊の主要メンバーとみなされています。中央匯金が今後6カ月間でさらに追加取得する見通しだと、4行が明らかにしたこともあって、株式市場は沸き立ちました。中国政府が株式相場のてこ入れに動いたとの受け止めが広がり、12日は上海だけでなく深センや香港でも相場が上昇しました。
中央匯金のほかに、上海証取と深セン証取の傘下で証券金融業務を行う中国証券金融股フン有限公司、国家外為管理局、そして関連公募ファンドです。HSBCグローバル・リサーチの推定では、こうした国家隊は2015年9月末時点で約1400社の上場企業のA株を銘柄保有しており、時価総額は3兆元と流通A株全体の8.9%に相当していました。その後は持ち株を減らしましたが、23年6月末時点の保有A株は約300社、時価総額は2.7兆元で流通A株全体の3.8%を占めています。
国家隊のポートフォリオ、金融株が8割
23年6月末時点の国家隊のポートフォリオをセクター別にみると、金融が8割を占めます。その他では工業が5.8%、必需消費財が2.9%などとなっています(図表1参照)。個別銘柄では、金融株の保有規模(時価総額)は中国銀行(601988)を筆頭に、中国工商銀行(601398)、中国農業銀行(601288)が続きます。金融セクター以外では、白酒醸造の貴州茅台酒(600519)、石炭大手の中国神華能源(601088)、白酒醸造の宜賓五糧液(000858)がトップ3です。
中国国際金融(CICC)によると、中央匯金が4大国有銀行のA株を追加取得した例は過去に6回ありました。実施時期は2008年9月、2009年10月、2011年10月、2012年10月、2013年6月、2015年8月と、いずれも相場が落ち込んだ時期です(中国農業銀行は2010年に上場しており、2008年と2009年の追加取得では対象外)。
中央匯金のA株取得、過去6回の戦績は?
ただ、買い増しが必ず銀行A株の上昇につながったわけではありません。平安証券の調べでは、買い増し1カ月後のA株銀行セクターの騰落は上昇が4回、下落が2回で、平均3%上昇しました。3カ月後になると6回とも上昇し、平均上昇率は11%に達しています。しかし6カ月後をみると、当初の4回は上昇したものの、最近の2回は下落しています(図表2参照)。
4大国有銀行は香港市場にH株も上場しています。こちらは中央匯金による買いが入ってはいませんが、10月12日の市場ではA株の上昇につれ高しました。ただ、その後は次第に下落し、足元では11日とほぼ同水準にまで調整しました。
確かに、当初は国家隊の株式買い増しを「カンフル剤」に見立て、「市場心理の改善につながるシグナルを当局が発信した」とはやす声も聞かれました。しかし結局は、国内外の経営環境が改善しなければ株式相場は本格的に上昇しないという冷静な見方が広がりました。国家隊による資金投入が株式市場にとってポジティブ材料であることは間違いありませんが、効果が明らかになるのは数カ月後になるでしょう。