安全で充電量が多く、寿命も長い「次世代電池」
中国で、次世代の車載バッテリー「全固体電池」が5年後に量産体制に入るとの予測が伝わり、市場でホットなテーマとなっています。国営テレビ局・中央電視台(CCTV)によると、電気自動車(EV)関連の産官学交流組織である中国電動汽車百人会が2月25日、2027年に自動車への搭載が始まり、2030年までに量産化が実現する見通しを明らかにしました。
現時点でEVを含む新エネルギー車に広く採用されているリチウムイオン電池は電解質が液体ですので、衝撃によって液漏れを起こし、発火するリスクがつきまといます。全固体電池は、固体の電解質を使うため安全性が高い上、充電量が多く、寿命も長いという特長があります。なお、粘土や樹脂など半固体状の物質を電解質に使う「半固体電池」もあり、全固体電池の前段階の技術と位置付けられています。
全固体電池が量産化されれば、EVの性能が一段と向上するのは間違いないところです。ただ、本格的な普及には安定した品質で大量に製造する技術が欠かせません。2月に入り、中国の電池業界はこの点でめどをつけたことを示す発表・報道が相次ぎました。
27年に量産体制が確立、エネルギー密度も向上
中国電動車百人会によると、中国の全固体電池に関する特許出願は2024年下半期以降に急増し、日本の3倍に達しました。また、中国の主要な車載電池企業はそろって硫化物を主体とする電解質を用いた全固体電池の開発に力を入れています。
同会の副理事長で、中国科学院院士である欧陽明高氏は2月15日に開催された「第2回中国全固体電池革新発展サミットフォーラム」において、硫化物系電解質を用いた第1世代の全固体電池が2025年から2027年にかけて量産が実現するとの予測を示しました。この間にエネルギー密度は1キログラムあたり400ワット時(Wh)に達するとみています。続く第2世代は量産が2027年から2030年でエネルギー密度は500 Wh/kg、さらに第3世代が2030年から2035年に登場し、エネルギー密度は600Wh/kg超えが目標になるとしました。
BYDやCATLなどが開発競争
硫化物系の全固体電池の開発は世界の自動車・電池企業がしのぎを削っています。中国では寧徳時代新能源科技(300750)、BYD(01211/002594)、江西カン鋒リチウム(01772/002460)、国軒高科(002074)、広州汽車集団(02238/601238)傘下の広汽埃安新能源汽車(AION)などの上場企業が参入しています。
中国電池業界ポータルサイト『電池網』によると、中国新エネルギー車最大手のBYDで電池事業部門の技術責任者を務める孫華軍氏は「サミットフォーラム」に参加した際、同社が2024年に出力60アンペア時(Ah)の全固体電池を試作(中規模試験生産)したと明かしました。2027年をめどに全固体電池を搭載する大規模な実証試験を開始し、2030年以降に本格的な大規模量産を実現する計画です。
車載電池の世界的大手である寧徳時代新能源科技(CATL)も、2027年ごろに全固体電池を小規模生産する計画です。同社主席サイエンティストの呉凱氏は「サミットフォーラム」で、計画が実現する可能性は高いと自信を示しました。同氏は「今のところ、固体電池ソリューションの中で最も進展が速いのは硫化物路線」と述べ、すでに10Ahクラスの全固体電池を検証するプラットフォームを構築したと明らかにしました。
「Gotion」ブランドで知られる国軒高科は、2024年上半期に車載用「金石電池(Stellary Battery)」の開発に成功したと発表しました。同製品は硫化物系全固体電池で、出力は30Ah。2027年には小規模生産および車載実証試験を実施する予定です。
中国当局、新型エネルギー貯蔵製品・技術の支援政策を公表
各社がそろって2027年に狙いを定めているのは、理由があってのことです。中国当局が、2027年までに中国の新型エネルギー貯蔵製造業の全産業チェーンの国際競争力を確立する目標を掲げているからです。工業情報化部など8部局が「新型エネルギー貯蔵製造業の高品質発展の行動方案」として各地方に通知し、実施を指示しました。
「行動方案」には新型エネルギー貯蔵技術の革新、産業協調発展の推進、産業構造の転換と高度化、モデルとなる応用の開拓、産業エコシステム体系の整備、貿易・投資協力の6項目が盛り込まれました。このうち技術革新の重点分野の一つとして固体電池がリストアップされています。