中国株、あのテーマはどうなった?

第64回 「氷雪経済」が熱い!25年に1兆元突破へ

冬季の定番、ウインタースポーツと冬季観光


それぞれの季節に定番の投資テーマというものがあります。中国では、旧正月(春節)の連休がある初春に旅行、夏ならビール、秋なら独身の日(11月11日)にあわせたネット通販セールといったところでしょう。近年は冬の訪れとともに「氷雪経済」が注目を集めるようになりました。


「氷雪経済」は、スキーやスケートなどのウインタースポーツと、スキーリゾートやテーマパークなどの冬季観光が2本柱。スキー板、スケート靴、スケートリンクなどの用具・設備の製造と販売、氷の彫刻やアイススケートショーといったイベントや娯楽・芸術活動も含まれます。


2024年は例年にもまして熱いテーマとなっています。中国政府の旗振りに一段と力が入り、メディアが積極的に氷雪経済の成長を伝える記事を掲載しているからです。


黒龍江、吉林、新疆のスキーツアーが人気


例えば国営新華社系の経済情報メディア『新華財経』は12月1日、中国北部のスキーツアー人気を伝えています。生活情報アプリ運営の美団(03690)によると、今年11月にはスキーやスケートに関する検索件数が前月の2倍以上に増え、中国の北東の端に位置する黒龍江省のハルビン市が冬の氷雪観光地の人気ランキングで首位となりました。美団の担当者は、広東省の深セン市や広州市の市民の間でスキー教室の検索が活発になっており、「北雪南移(北の雪を南へ)」ブームにのってスキーを楽しむ中国南部の人が増えている語りました。


黒龍江省の南にある吉林省では北大湖スキーリゾートが11月に開業しました。同リゾートの関係者は「利用者の60%超は上海、杭州、広州、深センなど中国南部の都市からやってくる観光客」と明らかにしました。


新疆ウイグル自治区では、アレタイ地区のスキーリゾートはパウダースノーで名高く、多くのスキーファンが訪れます。今年これまでの売り上げは前年の3.5倍に上ると『新華財経』は伝えています。


習近平氏肝いりの政策、「氷天雪地も金山銀山」がスローガン


氷雪経済の振興に中国政府がこれほど熱心な理由は2つ考えられると思います。一つは習近平国家主席の肝いりであること(今や大半の重点政策に当てはまります)、もう一つは経済発展が遅れているとされる北部地方を成長させる新産業になりうるとの期待です。中央政府は地方政府に対し、土地使用権の販売収入に頼らず、各地の特色を生かした新産業・新業態を興すよう求めています。北部の地方にとって、氷雪産業は最も期待が持てる分野でしょう。


こうした事情は中国の国務院(内閣に相当)が11月6日に公表した「氷雪スポーツの質の高い発展により氷雪経済経済の活性化に関する意見」に見て取れます。


「意見」と題されてはいますが、要するに国務院から地方政府に対する指示です。冒頭で「氷雪スポーツをけん引役として、氷雪装備、氷雪観光の全産業チェーンを発展させ、氷雪経済を新たな成長点とする」とうたっています。続く「総体要求」の項目は、習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想を指導として…といった決まり文句で始まり、「北京冬季五輪精神を高揚し、“氷天雪地も金山銀山なり”の理念をしっかりと樹立して、現代氷雪産業の体系構築を加速する」と続きます。


北京冬季五輪は2022年に開かれましたが、開催地に選ばれたのは2015年7月で、中国の経済調査機関「前瞻産業研究院」は氷雪産業市場が発展段階に入る起点と位置付けています。翌年の2016年3月の全国人民代表大会の時期に習近平総書記が「緑水青山は金山銀山(美しい自然は財産である)であり、氷天雪地もまた金山銀山である」と述べました。発言の後半部分が氷雪経済振興のスローガンとして今も使われているわけです。


北部振興の「一区両帯多節点」構想


「意見」はさらに、氷雪経済の産業チェーンの整備について「一区両帯多節点」と呼ぶ構想を打ち出しました。「一区」とは内モンゴル自治区、遼寧省、吉林省、黒龍江省を中核とする国際影響力を備えた「北方氷雪経済先導区」のことです。「両帯」とは「北京市-張家口市スポーツ文化観光帯」および「氷雪シルクロード」を指します。「多節点」とは、2022年北京冬季五輪の競技開催地だった北京市延慶区、河北省崇礼区、国内最大級のスキーリゾートがある黒龍江省亜布力、世界的知られた景勝地の吉林省長白山、冬季レジャー施設の開発がすすむ新疆ウイグル自治区のアレタイ地区およびイリ地区などに造成する、国際的影響力を持つ氷雪経済の集積エリアです。


長白山


加えて、北京市、河北省、内モンゴル自治区、遼寧省、吉林省、黒龍江省、新疆ウイグル自治区に世界的に知られた氷雪観光の目的地を3-5カ所建設すると明記しました。ウインタースポーツ人口を増やすため、内モンゴル自治区、遼寧省、吉林省、黒龍江省、新疆ウイグル自治区にはトレーニング施設も造り、国際競技会も開催していきます。


「意見」は氷雪経済規模の目標を、2027年に1兆2000万元、2030年に1兆5000万元に設定しました。実際、近年の成長ぶりには目覚ましいもがあります。国家体育総局が今年10月に公表した「中国氷雪産業発展研究報告(2024)」によると、氷雪産業規模は2015年の2700億元から2023年には8900億元へと急拡大しました。2024年には9700億元、2025年には1兆53億元に達すると予測しています。



この連載の一覧
第64回 「氷雪経済」が熱い!25年に1兆元突破へ
第63回 中国製ゲーム:世界で勝負、先兵は孫悟空
第62回 観光業界: 25年は休日が2日増加、国内旅行ブーム到来か
第61回 鉄鋼業界:経営統合に再点火、業界団体が政策主導を要望
第60回 少子化:「出産・育児しやすい社会」目指す総合措置を発表
第59回 自動運転業界、「スパイ活動疑惑」にヒヤリ
第58回 伝統の「白酒」:ネット世代は「飲まずに投資」
第57回 中央政治局会議:市場が大歓迎した「3つの異例」
第56回 名月も陰る中国景気、月餅も「お手頃価格」が主流
第55回 中国の家電:勝負の分かれ目は海外、ブランドを世界展開
第54回 中国の金融政策 その2:なぜ中央銀行は独立しているべきなのか
第53回 「高配当株」その2:香港市場、主役はバリュー株に交代か
第52回 中国の金融政策:大胆な利下げに踏み出せない事情
第51回 250日移動平均:香港市場に帰ってきた「ベア」
第50回 米大統領選:香港の投資家を悩ます二重の不確実性
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第41回 「啓航企業」:国有企業のゆりかごでユニコーンは育つか
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第39回 「不動産発展の新モデル」その2:痛みを伴う改革に踏み込めるか
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第37回 「洋上風力発電」:低迷を脱するか、行方は政策の風向き次第
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中国株情報部

村山 広介

日本の出版社や外資系出版社に勤務したほか、シンガポールの邦字新聞社でビジネスニュース編集を経験。 2011年8月、T&Cフィナンシャルリサーチ(現・DZHフィナンシャルリサーチ)に入社。

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