中国株、あのテーマはどうなった?

第83回 HALO:AIブームからの逃避先、中東紛争で脚光

「重資産、低陳腐化」企業、ホットな投資テーマに


中国の株式市場で「HALOトレード」がホットなテーマとして注目を集めています。HALOとは「Heavy Assets、Low Obsolescence(重資産、低陳腐化)」の頭字語で、米資産運用会社リソルツ・ウェルス・マネジメントのジョシュ・ブラウン最高経営責任者(CEO)が先月に提唱しました。資産規模が大きく、参入障壁が極めて高い業界の企業を指します。言葉を換えれば、人工知能(AI)の普及によって事業が「破壊されない会社」のことです。


3月4日の『香港経済日報』に掲載された解説記事「軽資産Out重資産In 新たな投資ロジックとなったHALOトレード」のなかで、HALO銘柄の特長は「低い代替・淘汰リスク」であり、電力網や石油・ガスのパイプライン、鉄道、港湾、鉱山、高度に複雑な産業設備を抱えるセクターが該当するとされています。


「26年の最重要テーマはHALO」


HALOへの関心は、まず米国の株式市場で広がりました。背景には、今年に入ってAIブームの過熱に投資家が不安を覚え始めたという事情があります。ブラウンCEOは2月9日に自身のウェブサイトで公開したコラムのなかで、HALOとは「AIの被害者候補になりそうな株から資金を引き揚げた人が代わりに買う銘柄」だと述べています。代表的なHALO銘柄として、米石油メジャーのエクソンモービルを挙げました。


「金融危機後に支配的だった株式市場の内輪のロジックは、ひっくり返されつつある。我々は過去15年間、アセットライトなビジネスモデル、つまり高い利益率、安定したキャッシュフロー、着実な売り上げを追い求めてきた。しかし、そのキャッシュフローこそが、AI大手に狙われている」――ブラウン氏はこう説明し、「2026年の最も重要な投資テーマはHALOだ」と断定しました。


2月末には、ブラウン氏の断定をいっそう補強する材料が飛び込んできました。米国とイスラエルによるイランへの攻撃開始です。中国メディアの『21世紀経済報道』は3月2日、エネルギー供給や輸送の混乱への警戒感が強まるなか、簡単には構築できない実物資産を保有する企業が再評価され、HALOトレードに資金が集まるとの見方を示しました。


資金のローテーション、軽資産のテック企業から重厚長大型産業へ


HALOのロジックについては、結局のところセクターローテーションの変奏に過ぎないとの見方もあります。例えば『香港経済日報』は前述の解説記事のなかで、「HALOトレードの本質は、経済学の最も単純かつ古典的な枠組みである需要と供給に立脚し、資金のローテーションを促すものだ。市場資金は、評価が高くAIに代替されやすい軽資産のテック株から、複製困難な実物の生産能力を持ち、AI関連投資の拡大の恩恵を受ける重資産企業へと向かいつつある」と述べました。


注目銘柄はエネルギー大手、国有企業テーマが再浮上か


もう一つ、HALOトレードは結果として、中国の株式市場ではおなじみのテーマである「国有企業」が対象となりやすく、香港や中国本土の証券会社にとって薦めやすいという事情もあると思います。例えば『香港経済日報』は、香港に上場するHALOトレードの代表的銘柄は石油、海運、石炭、油田サービス、電力などの業界大手だとしました。具体例として挙がったのは石油輸送会社の中遠海運能源運輸(01138/600026)、石炭最大手の中国神華能源(01088/601088)、発電最大手の華能国際電力(00902/600011)などで、いずれも中国の国有資産監督管理委員会が管轄する「中央企業」と呼ばれる国有企業の傘下です。


国有企業銘柄を巡っては、この連載の第17回「中特估」第42回「国9条」でそれぞれ別のテーマで取り上げました。ともに、テーマ株として中央企業の傘下上場企業をご紹介しました。


HALOは英単語でいえば、「後光」や「暈」という意味です。心理学でいう「ハロー効果」という現象でも知られているでしょう。この現象は、ある対象を評価する際、目立つ特徴が全体的な評価に影響を与えてしまう認知のゆがみを指します。「色の白いは七難隠す」と言い習わされている通り、とても良い点があるので弱点は見えなくなってしまうことがあるわけです。HALOトレードについても、投資家は目がくらまないよう留意すべきかもしれません。


この連載の一覧
第83回 HALO:AIブームからの逃避先、中東紛争で脚光
第82回 ステーブルコインは統制可能か、香港が挑む「実験」
第81回 中国自動車業界、輸出から海外生産へシフト
第80回 「閉じる、は即ち開放」海南自由貿易港の逆説
第79回 香港ステーブルコイン:ネット大手と金融機関が免許争奪戦
第78回 香港ステーブルコインの裏表
第77回 中国映画:官民で描く国産作品の成長シナリオ
第76回 中国本土の投資家が香港市場で買った銘柄トップ10
第75回 「国家隊」その3:対トランプ戦線に参画、中国株ETFを買い増し
第74回 銀髪経済:攻守一体の長寿ビジネス
第73回 全固体電池:車載開始は27年、30年に量産化へ
第72回 中国の家電 その2:DeepSeekがゲームチェンジャー
第71回 ヒューマノイド:2025年は量産元年
第70回 ディープシーク その2:米中プラットフォームが続々提供
第69回 ディープシーク:トランプ氏コメントがまともな理由
第68回 人民元の先安観が消えない理由
第67回 2025年の消費:若者がこだわる6つの新潮流
第66回 新中式飲食業:若者を引き付ける「ネオ中華」消費トレンド
第65回 中央政治局会議 その2:金融政策を「緩和」に転換
第64回 「氷雪経済」が熱い!25年に1兆元突破へ
第63回 中国製ゲーム:世界で勝負、先兵は孫悟空
第62回 観光業界: 25年は休日が2日増加、国内旅行ブーム到来か
第61回 鉄鋼業界:経営統合に再点火、業界団体が政策主導を要望
第60回 少子化:「出産・育児しやすい社会」目指す総合措置を発表
第59回 自動運転業界、「スパイ活動疑惑」にヒヤリ
第58回 伝統の「白酒」:ネット世代は「飲まずに投資」
第57回 中央政治局会議:市場が大歓迎した「3つの異例」
第56回 名月も陰る中国景気、月餅も「お手頃価格」が主流
第55回 中国の家電:勝負の分かれ目は海外、ブランドを世界展開
第54回 中国の金融政策 その2:なぜ中央銀行は独立しているべきなのか
第53回 「高配当株」その2:香港市場、主役はバリュー株に交代か
第52回 中国の金融政策:大胆な利下げに踏み出せない事情
第51回 250日移動平均:香港市場に帰ってきた「ベア」
第50回 米大統領選:香港の投資家を悩ます二重の不確実性
第49回 香港市場の「もしトラ」:米インフレ再燃を予想、金融セクターに「買い」
第48回 「肥満症薬」:先発薬の特許切れにらみ、国内企業が参入ラッシュ
第47回 「国家隊」その2:異例の香港入場、6月に中央企業指数ETFを買い入れ
第46回 「水素サプライチェーン」:2025年にFCV5万台、業界は振興策を要望
第45回 「不動産発展の新モデル」その4:地方政府の住宅在庫買い取り、人民銀が支援
第44回 「高配当株」:中国ならではの買われる理由
第43回 「不動産発展の新モデル」その3:中国指導部、住宅在庫の消化策検討を指示
第42回 「国9条」:配当利回り重視の投資戦略に脚光、注目銘柄は国有企業
第41回 「啓航企業」:国有企業のゆりかごでユニコーンは育つか
第40回 「kimi」:市場を沸かせる中国ユニコーンの生成AI
第39回 「不動産発展の新モデル」その2:痛みを伴う改革に踏み込めるか
第38回 期待は高い「低空経済」:eVTOL離陸に投資家も浮き立つ
第37回 「洋上風力発電」:低迷を脱するか、行方は政策の風向き次第
第36回 「24年の香港IPO」: 地位回復に向け中国本土、米国と競り合い
第35回 「辰年の投資戦略」:一押しは日本株、A株市場には慎重
第34回 「美麗中国」:習近平氏肝いりの“生態文明”建設事業
第33回 内巻、寝そべり、潤学、献忠学:ネットに見える若者の本音
第32回 住宅神話と「発展の新モデル」: 待ったなし、中国不動産市場の構造改革
第31回 「十不青年」: 家を買わない中国の若者、投資にも興味なしか
第30回 「国家隊」:株式相場を「実弾」で支える官製チーム、その実力は?
第29回 「生成AI」:中国市場を制する一般向けサービスはどれか
第28回 資本市場の活性化と逆行する「IPO抑制」
第27回 消えた「房住不炒」、投資家を走らす
第26回 医薬品業界に嵐を呼ぶか「反腐敗」
第25回 「ハンセンテック指数」3周年を機に巻き返しなるか
第24回 地方歳入増の妙案になるか「城中村」の改造
第23回 中国通信株の未来を担う「工業インターネット」
第22回 「ハンセン指数」上昇シナリオ実現の根拠と条件
第21回 株式市場を揺るがす「人民元相場」
第20回 習近平氏の肝いり「郷村振興戦略」
第19回 習近平色に染まるシン「新型都市化」
第18回 上半期のネット通販王者を決める「618」開幕
第17回 中国の株式相場を動かす「中特估」とは?
第16回「医薬品ネット通販」アリババとJDがしのぎを削る成長市場
第15回「半導体の国産化」(その3) 腐敗は一掃、戦略を再設計へ
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中国株情報部

村山 広介

日本の出版社や外資系出版社に勤務したほか、シンガポールの邦字新聞社でビジネスニュース編集を経験。 2011年8月、T&Cフィナンシャルリサーチ(現・DZHフィナンシャルリサーチ)に入社。

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