中国株の銘柄選び

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中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない――。そんな場合は、香港市場を代表する株価指数であるハンセン指数の構成銘柄の中から探してみるのが基本中の基本。ハンセン指数に選ばれる銘柄の中には、世界的な大企業もあれば、個性的で魅力的な銘柄もたくさん集まっています。このシリーズでは、香港市場の主要銘柄をハンセン指数の構成銘柄の中から選んで紹介していきます。今回もBYD(比亜迪:01211/002594)の続きです。


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自動車事業は苦難の道のり、第一号車は大失敗


2003年に秦川汽車を買収して自動車事業に参入したBYDですが、ここから厳しい道のりが始まります。前回も触れましたが、秦川汽車は自動車メーカーと言ってもエンジンを開発するだけの技術力を持ち合わせていませんでした。秦川汽車の主力車種は「福莱爾(Flyer)」と呼ばれる小型乗用車でしたが、見た目はほぼスズキの「アルト」です。しかも部品はすべて海外から購入していました。自動車メーカーというよりも、組み立て会社と言うのが正しいかもしれません。そんな会社を買ってしまったのですから大変です。王伝福会長も当然こうした事情を知った上で買収しているわけですが、王伝福会長も後に買収の本当の目的は、秦川汽車の持つ自動車製造の「ライセンス」だったと話しています。


自動車製造のライセンスは取得したものの、最初はほぼゼロからのスタートです。自動車の設計も他社に委託します。プロジェクトには2億元以上が費やされます。このプロジェクトは「316」と名付けられました。買収の翌年に当たる2004年、自動車ディーラーを集めた商談会を開きます。しかし、結果は散々なものでした。参加者の約6割が「不満」、と評価したのです。しかも残りの4割は「無回答」。肯定的な評価がほとんどありません。BYDの「316」をちらっと見ただけで、控え室に戻ってしまう参加者もいました。興味さえもない。これ以上ないというほどの惨敗です。


 

BYDの「316」 出所:CarNewsChina.com



原因は明らかでした。「316」が競争力のない秦川汽車の「福莱爾(Flyer)」の改良版に過ぎなかったからです。検討を重ねた結果、王伝福会長は「316」開発計画の中止を決定。「316」は発売されることなく廃棄されます。プロジェクトに投じた資金はすべて無駄になってしまいました。ただ、自動車開発自体は続けなければなりません。王伝福会長このとき、今後は設計を自社で行っていくことを決意したといいます。


トヨタ「カローラ」のコピー車が成功、「F3」が初期の人気車種に


翌年の2005年9月、BYDは最初の自社開発車である「F3」を発表します。しかし、技術的基礎が固まっていなかったため、出来上がった「F3」は日本車や韓国車にどこか似ています。中国語で「山寨(コピー品)」と呼ばれ、揶揄されます。2000年代の中国は自動車に限らず、多くのメーカーが海外製品を真似することから始め、キャッチアップを進めた時期に当たります。BYDもそのうちの一社でした。


BYDの「F3」は、王伝福会長が「尊敬している」と言うトヨタの「カローラ(中国語名:花冠)」に酷似していたのです。部品まで完全代替が可能との都市伝説がまことしやかに語られます。「(自動車の)エンブレム以外はすべて同じ」とも皮肉られますが、トヨタが持つ特許には踏み込まず、ギリギリのところで訴訟沙汰になることは免れます。


 

トヨタの「カローラ」とBYDの「F3」 出所:騰訊網


BYDは海外の大手メーカーの中古車を購入し、部品にまで分解して徹底的に研究する手法を取りました。特許を侵害しないよう一つ一つ独自の改良を加えていきます。こうして出来上がった「F3」の販売価格は最低5万2800元(約117万円)からと、海外の合弁メーカーに比べて大幅に安い価格を実現したのです。低価格を売りにBYDの「F3」は人気に火がつきます。こうして、「316」計画の失敗を教訓にし、「F3」は自動車メーカーとしてのBYDの創業期を支える人気車種に成長したのです。


後に王伝福会長は偉大な科学者アイザック・ニュートンの有名な言葉を引用し、次のように述べています。「巨人の肩に立たせてもらったことで、最初の一歩を踏み出すことができた」。研究者らしい言葉です。


次回もBYDの続きです。お楽しみに。


まとめ:今回紹介した香港市場の主要銘柄


今回紹介した銘柄は、主に自動車と電池を手掛けるBYD(01211/002594)と傘下で電子機器受託製造(EMS)業者を手掛けるBYDエレクトロニック(00285)の2社で、BYDは香港証券取引所メインボードと深セン証券取引所A株市場に重複上場。BYDエレクトロニックは香港証券取引所メインボードに単独上場しています。


【中国の自動車・電池メーカー】電池を祖業とし、03年に自動車事業に参入。22年3月にガソリン車の生産から撤退し、純電気自動車とプラグインハイブリッド車に完全シフトした。自社開発のリン酸鉄リチウム系の「ブレードバッテリー」は米テスラなどにも供給。都市軌道交通事業も手掛ける。子会社のBYDエレクトロニック(00285)を通じてスマホや電子機器の受託製造サービスも展開。米著名投資家のバフェット氏の出資で脚光を浴びた。

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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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