中国現地Now!

ライバル逆襲と使用禁止令、中国でiPhoneはどうなる?

ファーウェイの華麗なる復活


米国現地時間の9月12日、アップルが最新型スマートフォン「iPhone15」を発表しました。中国でもiPhone人気は高く、ファンが新製品レビューをチェックし、ネットの記事に対して思い思いのコメントを書き込んでいました。「カラーのバリエーションが豊富でうれしい」「カメラの機能がアップした」などのプラス内容もあれば、「新しみに欠ける」「やっぱり国産でファーウェイ推し」なども声も聞かれます。


先日、株式市場で「アップル・ショック」と言われる出来事がありました。9月6日から7日にかけて、米国株式市場でアップル株(AAPL)が連日の大幅安となったのです。時価総額は2日間で約1900億米ドル減少。背景には、①ファーウェイ(華為技術)の新機種投入、②中国政府によるiPhoneなど海外製スマホの使用規制観測、などがあります。


まずはファーウェイについて。同社は8月末の「Mate60 Pro」に続き、9月8日に「Mate60 Proプラス」「Mate X5」の予約販売を開始しました。機能やスペックの詳細は一部不明ですが、いずれも5G対応とされ、回路線幅7nmの半導体チップを使用しているようです。中国現地のスマホ市場はこの話題で持ち切りとなり、ネット上では「米国の半導体規制の壁を突破した!」と勇ましい意見も見られます。


ファーウェイは2020年の米商務省による事実上の禁輸措置強化により、高性能半導体チップの調達に支障をきたすようになりました。5G対応のスマホ製造が実質不可能になり、次世代通信規格の市場から“脱落”を余儀なくされたのは記憶に新しいところです。これ以降、中国の中・高価格帯スマホ市場ではアップルがシェアを伸ばしていましたが、ここに来てファーウェイが巻き返しにかかってきたというわけです。


SMICが製造を請け負ったとされる7nmの半導体チップ。果たしてどのような工程を経たのか。米規制を逃れる抜け道はあったのか。今後の米政府の対応はどうなるか。様々な論点があり、はっきりしないことも多いですが、ファーウェイの新型スマホがグレードアップし、それを称賛する中国人が増え、予約販売も伸びているということは事実です。


 


アップルの中国シェアは16%


さて、冒頭の②の使用規制。発端は、中国政府が政府職員に対してiPhoneなど海外製スマホの業務使用と職場への持ち込みを禁じたという報道です(ウォール・ストリート・ジャーナル=WSJ、9/6付)。この動きが今後、国有企業全体に広がる可能性もあります。また、企業や団体によっては、アップル製のノートPCも使用禁止範囲に入る例が伝えられており、中国での「アップル離れ」、いや、大きな意味での「海外製離れ」の動きが気になるところです。


もっとも、中国スマホ市場におけるアップルのシェアは日本や他の市場ほどは大きくはありません。23年4~6月期で見ると、OPPOとvivoが18%で同率首位、アップルが16%で3位です。以下、ファーウェイから分離独立したHONORが15%、小米(シャオミ)が14%となっています(Counterpointより)。なお、ファーウェイは13%程度とされています。国産ブランドが強いのが中国の特徴です。



アップルはシェア16%に過ぎませんが、それでもファーウェイが米規制を受ける前(20年以前)の10%程度からじわり伸ばしてきました。中国市場で21年は5040万台、22年は4800万台を売り上げたとされます。ただ、今回の“ファーウェイの逆襲”に伴う一定の影響はあるでしょう。新機種販売時期などを考えず、仮に3%(pt)程度がファーウェイに“奪還”されるとなれば、単純計算で800万台ほど販売が減少することになります。アップルは売上高の約2割を中華圏市場で稼いでおり、中国市場のシェア縮小は全体にも響いてくると思われます。


もっとも、これは机上の空論。iPhone15は中国でも大きな話題で、アップル人気は健在と言えます。「スマホゲームはiPhoneの方が操作しやすい」「2台持ちのニーズが高い」という中国ならではの事情もあり、影響は思ったよりも小さいかもしれません。


ゲームで言うと、以前聞いた知人の話が思い出されます。彼は無類のスマホゲーム好きで、サクサク動くiPhoneを愛用しています。ファーウェイなどアンドロイド陣営のスマホは、ゲーム時に動きがカクカクすることがあり、非常にストレスがたまると嘆いていました。心理的にはファーウェイを応援したいものの、ゲームの面では断然iPhoneを支持しています。また、「ファーウェイは地方の中年層が持つもの」という中国人らしい一方的な思い込み(イメージ?)もごく一部であり、都市部ではiPhone人気が高いのも事実。いずれにせよ、両陣営とも新機種が出たばかりなので、少なくとも年内は販売の行方を見守るほかありません。


私はと言えば、長年のiPhoneユーザーです。理由は簡単。ファーウェイの機種ではGoogleの機能が全く使えませんので……。


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東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長

奥山 要一郎

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。本社シニアストラテジストを務め、2015年より現職。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

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