中国現地Now!

中国でコロナ感染再拡大、それでも市民の多くはノーマスク

新型コロナの統計欄がない?


中国で新型コロナウイルスの感染が再拡大しています。私の周りでも陽性者が増えており、「2回目の感染」という人がほとんどです。その多くがセルフ抗原検査で陽性判明となっていますが、当局や病院への報告義務もないため、感染の実態はよく分かりません。


思い返せば、「感染者が増え始めた」という話を聞いたのは4月下旬頃でした。上海ではモーターショーが開催され、100万人規模の来場者で賑わっていた頃です。そのモーターショーでコロナのクラスターが起きた、という噂が飛び交いましたが、確かに私の知り合いも観覧中に具合が悪くなっていました。そして、5月初頭の労働節(メーデー)連休前後から感染者がさらに増えてきた印象です。


とは言え、コロナ感染の実態はつかみにくく、知人からの情報や肌感覚に頼るしかありません。なぜなら統計がほぼ機能していないから。これは、今年1月に新型コロナの感染症レベルが引き下げられ、それまで毎日発表されていた感染者統計が週次や月次での公表に変更されたためです。4月までは一応、毎週発表されていましたが、5月に入ってはそれすらなくなってしまいました。


伝染病などの管理当局に当たる「疾病予防控制局」は5月25日、4月の感染状況を発表しました。ただ、新型コロナの詳細は示さず、重要度で2番目に当たる「乙類」(新型コロナもこれに含まれます)の発病例が29万1128例、死亡者が2185人に上ったという数字を明らかにしただけ。この29万1128例のうち、ウイルス性肝炎や肺結核など5種類の疾病が96%を占めるとしていますが、これだけでは新型コロナの感染者数は分かりません。


気になったので地方政府のデータを調べてみると、4月の新型コロナの発病例は、重慶市が1万2020例、河南省が3701例、四川省が2268例などとなっています。他のほとんどの省は未公表か、発表したとしても国に倣うように「その他の病気」程度の扱いです。浙江省は各伝染病の発病例や死亡者数を表形式でまとめていますが、なぜか新型コロナの欄がありません。統計が取れないからカテゴリーから外してしまえ!という荒業にも見えるのですが……。ちなみに、インフルエンザ患者が異常に多かった(18万3105例)のも気になりました。


いずれにせよ、感染の実態はもう追えていないのが実情。「6月下旬には週に6500万人の新規感染者が出る」という専門家予測もありますが、「何を基準に算出しているのだろう?」という疑問すら感じてしまいます。



中国に周回遅れでやってくる「感染の波」


さて、「中国で新型コロナ感染が再拡大」というニュースが独り歩きしているため、日本からも「大丈夫ですか?」「またロックダウンなどあるのでしょうか」などと聞かれることも多くなりました。結論を言うと、中国現地では感染拡大によるパニックや懸念は全く起きておらず、対応的にもかつてのような大規模検査や隔離、ロックダウンの可能性はほぼありません。ゼロコロナ政策は不可逆的に終了したため、今さら後戻りできないのが現実です。資金面でも厳しく、また、もう一回都市封鎖などを行ったら市民の激しい抵抗に遭うことは目に見えています。


上海をはじめ、各都市は落ち着いています。北京市衛生当局は、公共交通機関を利用する際のマスク着用を奨励していますが、お願いレベルで強制ではありません。街中を見ても、最近暑くなってきたこともあり、マスク姿の市民は半分もいません。日本よりもノーマスク姿が多いと思います。


5月24日、上海で行われていた太陽光エネルギー関連の大規模展示会に行ってきましたが、会場内は大混雑だったのにもかかわらず、マスク姿は大体2~3割程度でした。新型コロナなどお構いなしに、顔を突き合わせて商談する姿も多く見られました。皆、気持ち的には「コロナは終わった」という単純な感覚なのでしょう。


ただ、昨年末の大規模感染から半年ほどが経過して免疫が落ちていること、ワクチン接種の機運がなくなっていること(自治体からのささやかな呼びかけはありますが、ワクチン事業は事実上の停止状態に近いです)、マスク姿が減り感染防止ムードが低下していること、などの各点から考えると、これから大きな感染の波がやってくると考えられます。中国は幸か不幸か、この3年間、他国・地域が経験してきた感染のピークや波がありませんでした。今後もこの傾向が続くかどうかは分かりませんが、中国はかなりの周回遅れで第2、第3の感染の波を迎えようとしています。これまでと異なるのは、ウイルスが弱毒化していることと、統計不備で感染状況が把握できないこと。付け加えれば、市民の過度な不安がなくなっていることでしょうか。世界と同じく、「罹ったら仕方ない」程度まで来ていると感じます。


さて、中国はこれから受験シーズンです。6月7日と8日には、日本の大学入試センター試験にあたる全国統一大学入学試験(通称「高考」)が行われます。受験生や家族は新型コロナには十分気を付けたいところでしょう。上海では登下校時の学生はほとんどがマスク姿ですが、この光景を見るたびに「コロナとの戦いはまだ続いている」と感じています。


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東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長

奥山 要一郎

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。本社シニアストラテジストを務め、2015年より現職。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

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