中国現地Now!

中国に「デフレ」という言葉はない?

直近CPIは横ばい


中国のデフレ懸念が話題になっています。デフレは物価の下落、つまりモノやサービス価格の継続的な下落を指しますが、その傾向が見られるのは事実です。ただ、中国当局はデフレの存在を認めておらず、内外で認識ギャップが広がっています。


まずは直近の数字を見てみましょう。10月13日に発表された9月の中国CPI(消費者物価指数)は前年同月比で横ばい(0.0%)でした。市場予想の0.2%上昇を下回った形です。直近では、6月が横ばい、7月が0.3%下落、8月が0.1%上昇となっており、この数字だけを見ると低迷していると言えそうです。


中身を見ると、「財」が0.9%下落、「サービス」が1.3%上昇と好対照です。前者の「財」、いわば「モノ消費」は4月から6カ月連続でマイナス状態。ゼロコロナ政策の終了でリオープン(経済再開)期待が高まっていましたが、市民の財布の紐は思ったより固かったようです。


一方、後者の「サービス」は堅調です。7月が1.2%上昇、8月が1.3%上昇、そして9月が同じく1.3%上昇と、全体を上回って推移しています。これをけん引しているのが行楽需要。項目別で「旅行」のCPIを見ると、7月以降の上昇率は13.1%、14.8%、12.3%と非常に高くなっています。背景には、夏場の旅行・観光シーズンにホテルや航空チケット価格の上昇があります。国家統計局は9月の時点で、中秋節・国慶節の連休前後に食品やサービスの需要が増え、関連価格を押し上げるとしていました。10月の統計でもサービス価格の上昇が期待され、また秋の行楽シーズンや春節(旧正月)にかけてもCPIは堅調に推移するでしょう。


小売統計も考慮する必要がありますが、全体的に言えば、「モノよりサービス」という市民の消費傾向が読み取れます。ただ、個人的にはモノ消費について、ファーウェイの新作スマホに期待したいところです。久しぶりのハイスペック機種としてアップルの「iPhone15」との比較や販売競争が話題になっており、市民の購入ムードがさらに高まれば消費市場の明るい話題になるでしょう。



「下がっていないが、上がらなくなった」


さて、冒頭にあるように、中国当局はデフレの存在を認めていません。これを「頑なに認めていない」と書くと語弊がありますが、何らかの忖度がある気がしなくもありません。「デフレ論が高まると対外的イメージが悪くなる」という類の深謀遠慮があるのかもしれません。実際、中国のエコノミストやアナリストは「マイナスの情報」の発信を自粛しているようにも感じられます。


中国人民銀行(中央銀行)の劉国強・副総裁は7月14日、中国はデフレに陥っていないと明言しました。加えて、下半期にデフレリスクに直面することはないとし、中国の物価は相対的に安定していると説明しています。この直前、7月10日に発表された6月のCPIが横ばいまで落ち込んだことを受けての強気発言でしょう。劉副総裁は、政策効果と共に、8月以降のCPIは徐々に上昇に転じると予想していましたが、足元の数値はやや下ブレています。


実際の現地の物価ですが、私の市場調査や肌感覚では「必ずしも下がったとは言えないものの、上がらなくなった」というイメージです。とは言え、「毎年2~3%の上昇は当たり前」と思っていた身からするとだいぶ落ち着いたなぁという印象を受けます。


上海のタクシーの初乗り料金は14元もしくは16元(車種によって異なります)。これは2011年の改訂から基本的に変わっていません。実はこの年、CPI(中国全体)は前年同月比で5.4%上昇し、まさにインフレの時代でした。ただ、その後は公共交通機関の料金目立った値上げはありません。


この背景には、中国の市民は物価動向に非常に敏感で、買物などの場面では少しでも安く買おうというモチベーションが日本人以上に働くという事情もありそうです(ネットで血眼になってセール品を探したり、食べ放題のレストランでこれでもかと料理を皿に盛る姿などから日々実感しています……)。そのため、物価安定は中国政府の至上命題で、インフレ退治は必須。インフレを防ぐ一方で、もちろんデフレもダメ……。なかなか難しいところです。


いずれにせよ、デフレであるかどうかは議論の余地があるものの、中国政府には「デフレに陥ってはならない」という強い決意があることは確かです。そのためには経済を活性化させて需要創出を図り、雇用や所得を安定させる必要があります。それにより市民が将来に対して自信を持ち、消費マインドも上がっていくでしょう。不動産市場の不振などネガティブ要因を挙げればキリがありませんが、政府が何らかのきっかけを作っていくことが求められます。


この連載の一覧
不動産価格は下落見込み、中銀アンケートから市況を読む
大卒者の就職率は55.5%、厳しさ続く雇用市場
外食各社の業績低迷、価格に敏感な一般市民
プリペイドにはご用心、突然の閉店で泣き寝入りも
進む少子高齢化と人口減少、三中全会での対策は?
中国で高まる節約志向、大都市でも消費不振
ホントに静か? 中国の「クワイエット・カー」に乗ってみた
「中国式」で独自に発展中、ネット配車最前線
中国人はアリババ株を買えないの?
マオタイ価格が急落、株価も連れ安でプチ混乱
便利な出張サービス、「ネット+リアル」で進化中
住宅在庫の消化は進む? あの手この手で業界支援
観光業を支えるレッドツーリズム
「デジタル+アナログ」で発展する中国スマホ社会
中国はこれから卒業シーズン、1179万人が就職市場へ
ティードリンク市場がアツい! 上場予備軍も続々
不動産市場にまつわるエトセトラ
アンケートから景況感を探る! 貯蓄志向は依然高め
「消費降級」で明暗、外食チェーンの激しい争い
何はなくともカップ麺、鉄道旅のマストアイテム
アジア最大の家電見本市、スマート化に注目
大学生にゲーム規制? 全人代の提議あれこれ
ジェットコースター相場、波乱の1月と2月
変わる中国新エネ車業界、テック系が続々進出
春節前の政策相場、底打ち機運の中国株
朝から「メンクイ」、好みの麺をご賞味あれ
“ポスト・コロナ”の中国、外国人の目にはどう映る?
2年連続で前年割れ、人口減社会に直面する中国
“コロナ前”の水準回復へ、中国旅行市場の現地温度感
「元旦快楽」で辰年スタート、2024年の中国はどうなる?
並ぶのも一苦労、中国ならではの行列事情
ネット通販の主役交代? 好調続くPDD
頼りになる「即時配送」、旅先でも気軽にデリバリー
中国人のリアルボイス、不動産や就職事情を聞いてみた
「有軌電車」でGO! 着々広がる中国の都市交通網
白酒値上げのカラクリ、マオタイの時価を探れ
火鍋を語ろう、中国発のナベトーーク!
スマホオーダーで気軽に一杯、中国コーヒー最新事情
交通規制は突然に、中国式厳戒態勢
中国に「デフレ」という言葉はない?
行楽シーズン到来! 中国のオススメ観光地を大紹介
大型連休がやって来る! 9億人が大移動
ライバル逆襲と使用禁止令、中国でiPhoneはどうなる?
政策後押しで復活なるか、中国の不動産最前線
「水問題」で非難一色の中国、日本バスケで思わぬ展開に?
アリババ&テンセント、進む人員削減とスリム化
イベント消費で経済を回せ、政府も積極支援中
デフレ懸念も何のその、ホテル料金が上昇中
街に活気戻り売上が回復中、中国外食産業の現在地
人口と婚姻数が減少中、中国の若者の人生観とは
空港着いたらライドシェア専用乗り場へGO!
待ちぼうけはつらいよ、夏場のフライトあるある
「貯蓄重視で投資は控え目」、中国人のお金はどこへ向かう?
家族連れで賑わう場面も、端午節のプチ旅行
今年も猛暑? 早くも節電の呼びかけ
「618商戦」がやって来る! ネット通販で買い物三昧
キーワードは「頭文字C」、注目される国有企業の行方
中国でコロナ感染再拡大、それでも市民の多くはノーマスク
中国の若年失業率は20%超、雇用確保が優先課題に
現金要らずの連休旅行、何でもスマホとキャッシュレス
大盛況の上海モーターショー、中国地場系の躍進目立つ
「スラムダンク」が中国でも大人気、初日興収18億円!
「ラストワンマイル」はアナログリレーで解決?
火鍋チェーンの「呷哺呷哺」、一人鍋で存在感
ドライヤー市場に新風来たる、Z世代に人気の新興ブランド
日中間の移動がスムーズに! 国際線の増便・復便進む
復活する消費市場、北京の街に賑わい戻る
復活中の結婚式ニーズ、動き始めたヒト・モノ・カネ
改札時間は15分ジャスト! 中国の鉄道事情あれこれ
酒と言えば白酒! 宴席需要でニーズ増へ
たかが発票、されどファーピャオ
春節映画からの岳飛ブームと聖地巡礼
ノーマスクで新年快楽!? 中国春節の珍プレー好プレー
深夜の配車2時間待ち、春節前ならではの事情とは
中国で旅行ブーム再燃か、海外渡航はそろりスタートへ
賑わい消えた師走の上海、配送バイクも不足気味
中国現地Now!政策緩和と感染急増、混乱する中国市民
中国現地Now!コロナ規制見直しも感染拡大を警戒する中国
中国現地Now!上海デモの最前線、市民の反応と後始末
中国現地Now!政策と実態に大きな矛盾、「中の人」から見た中国コロナ対策
中国現地Now!スマホで気軽にグルメ堪能、中国“ワイマイ”市場最前線
中国現地Now!生活に欠かせない中国の“スーパーアプリ”とは
中国現地Now!Go To 海南!Go To 免税!
中国現地Now!波に乗れない中国消費、逆風下で盛況の飲食店は?
中国現地Now!上海で「水騒動」勃発! パニック買いの背景とは……
中国現地Now!屋台経済が中国を救う? 上海で復活の兆し
中国現地Now!日系外食が苦戦、中国人の胃袋をつかむ戦いは続く
中国現地Now!「映える」火鍋料理、極上の牛肉麺
中国現地Now!円安の恩恵はいずこ? 中国人の海外旅行は夢のまた夢
中国現地Now!中国入国時の“ガチ隔離”を見てみよう
中国現地Now!猛暑と干ばつで電力不足、今年の夏はキツい!
中国現地Now!訪問先で隔離リスク、中国国内旅行は綱渡り状態
中国現地Now!新エネ車が快走中、550万台市場へ視界良好
中国現地Now!勝ち組と負け組で明暗、上海の外食産業の現在地
中国現地Now!上海はその後どうなった? “ポスト都市封鎖”のリアル
中国現地Now!ナイキとアディダスの牙城を崩す中国ブランド
中国現地Now!復権なるか、中国のシェア自転車最新事情

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長

奥山 要一郎

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。本社シニアストラテジストを務め、2015年より現職。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

奥山 要一郎の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております