61年ぶりに減少した総人口
「結婚は全く考えていません」――。旧知の中国人(上海出身、30代男性)がこう話してくれました。男女を問わず、中国ではこのような考えを持つ結婚適齢期(そもそも「適齢期」という括りも今や微妙な概念ですが)の人が増えている気がします。その理由を彼に聞くと、「自分の生活を大事にしたい」「家族や子供を持つのが面倒」とのこと。「なんとワガママな!」と怒られるかもしれませんが、これも一つの考え方なのかもしれません。さらに話を進めると、「実は彼女と同棲しています。でも結婚は別問題なんです」とのことでした。相手の家族の気持ちが気になりましたが……。
中国の総人口は昨年、61年ぶりに減少しました。2022年末時点の人口は14億1175万人。前年から85万人の減少です。05年に13億人、17年に14億人を突破するなど、ここ20年間で1億2000万人以上増えてきましたが、ここに来て減少に転じたことは大きな話題になりました。
出生者数はすでに右肩下がりです。直近ピークは16年の1883万人でしたが、そこから6年連続で減少。22年は956万人と1000万人の大台を下回りました。この6年でなんと半減したことになります。これは由々しき事態でしょう。一方、60歳以上の人口比率は12年の14.3%から22年には19.8%まで上昇。まさに「少子高齢化」の様相を呈しています。
結婚はコスパが悪い?
人口動態の変化の背景には婚姻数の減少があります。中国の婚姻データを見ると、08年から18年までは毎年1000万組以上のカップルが誕生していましたが、その後は927万組(19年)、814万組(20年)、764万組(21年)、683万組(22年)と年々減ってきました。12年の1323万組から半分になっています。
冒頭の知人の発言にも繋がりますが、中国の若者の間で結婚の動機や意欲が減退していることを時々感じます。結婚に希望や夢を持ちきれない若者が増加しているとも言えるでしょう。両親や周りの大人が、子育てやマンション購入(多額のローン返済)、果ては夫婦の不仲などで苦労していることが多く、将来の結婚生活に大きな期待は持てないという結論もあるようです。お金の問題も重要で、結婚や子育ては「コスパが悪い」と考える人が多いです。
それゆえ、結婚で苦労するくらいなら、「異性の友人と老いるまで一緒に仲良く暮らせればそれでOK」と願う人もいるそうです(もっとも、これは都市部ならではの考えかもしれませんが)。自分の生活を優先したい、楽しみたいという思いが広まっていることは、ここ数年の中国で強く感じるところ。一方、「結婚はしたくないが子供は欲しい」という声も聞くため、将来観やライフプランは一筋縄では行きません。
少々話がずれるかもしれませんが、若者(20代)の夢で「普通に働いて普通に過ごすこと」の類が多くなっているとも聞きました。これまではモーレツに働いてお金持ちになるという一種のチャイニーズドリームが定番でしたが、ややトーンダウンしているイメージです。背景には、経済や社会状況、生活観や人生観の変化があると思います。いわゆる「草食系」や「仏系」の若者が増えてきた印象を受けます。
今春、北京で利用した配車サービスの滴滴(DiDi)の運転手の言葉も印象的でした。「まずは生きること。それから健康」。新型コロナ禍や苛烈な都市封鎖を経て人生観に変化があったとのことです。金儲けよりも大事なことに気付いた、と安易に結論付けるつもりはありませんが、自身のライフスタイルや健康を重視するスタイルが主流になってくるかもしれません。