中国株、あのテーマはどうなった?

第91回 勢い止まらぬAI関連の上場、月之暗面は目標評価額500億米ドル

「Kimi」開発の月之暗面、年内に香港でIPOか


香港株式市場で人工知能(AI)関連の上場ラッシュが続いています。第88回では、AIの頭脳に相当する大規模モデルの開発企業を主にご紹介しましたが、AIの計算力を支える半導体チップや、AIがロボットを自律的に制御する「フィジカルAI」に取り組む企業も香港の経済メディアに盛んに取り上げられています。


新規株式公開(IPO)を目指す動きが伝わった企業のうち、世界的な注目を集めているのが、月之暗面(Moonshot AI)です。同社は90回で取り上げた「Kimi K3」の開発元で、中国「AI六小虎」と呼ばれる新興企業の一角を占めています。


ブルームバーグは7月下旬、月之暗面が新たな資金調達ラウンドを完了し、調達規模は当初計画していた10億-20億米ドルを大幅に上回る35億米ドルに達したと報じました。この時の企業評価額は350億米ドルといいます。しかも、同社は次の資金調達ラウンドに向けて潜在的な投資家との接触を始め、目標とする評価額は500億米ドルに引き上げられたと伝えました。関係者によれば、早ければ2026年内に香港でのIPOを開始する前に、最後の資金調達を完了する方針です。


目標評価額は500億米ドル、北京智譜華章科技・ミニマックス上回る


500億米ドルという目標評価額は、中国でAIモデル開発を手掛ける同業を大きく上回り、月之暗面に対する市場の評価の高さを物語っています。例として、同社と並ぶ「AI六小虎」で、2026年1月に相次いで香港上場を果たした北京智譜華章科技(02513)およびミニマックス(00100)と比べてみましょう。


『香港経済日報』によると、北京智譜華章科技のIPO時の評価額は約518億HKドル(約66億米ドル)でした。もっとも上場後に株価が急騰し、時価総額は足元で4800億HKドル(約612億米ドル)付近となっています。ミニマックスも上場後に時価総額が膨らみ、3月には2300億-2500億HKドルに達しました。最近では1000億HKドル(約128億米ドル)前後のレンジで推移しています。両社は一定の売上高を上げているものの、多額の研究開発投資を行っている段階と市場からみられているようです。


なお、月之暗面に先駆けて世界の注目を集めたDeepSeek(ディープシーク)については、『香港経済日報』は5月初め、潜在的な評価額が当初議論されていた100億-300億米ドルの範囲から、約450億-500億米ドル(約3500億-3900億HKドル)へ膨らんだと伝えていました。評価額急騰の背景には同社が進めていた資金調達ラウンドに、中国の国策半導体ファンド「国家集成電路産業投資基金」を筆頭に、テンセント(00700)やアリババ集団(09988)などが参加について協議しているとの報道があったようです。


エンボディドAIの「AGIBOT」、半導体設計の「KiwiMoore」もIPO準備か


エンボディドAI分野では、智元創新(上海)科技(AGIBOT)が香港上場を計画していると何度も伝わっています。『新浪科技』が7月に報じたところによると、評価額200億米ドル(約1560億HKドル)でIPOを目指し、中国では大手の中信証券を上場指導会社として起用しているようです。


AGIBOTは上海に本社を置き、華為技術(ファーウェイ)の「天才少年」と呼ばれた彭志輝氏らが2023年に設立しました。彭氏などの創業者のほか、新エネルギー車メーカーのBYD(01211/002594)、ベンチャーキャピタルの紅杉中国などの出資を受けました。同社は7月に上海で開催された「2026世界人工知能大会(WAIC)」で、新型ヒューマノイド「遠征A3 Ultra」「精霊G2 Max」「霊犀X2 EDU」のほか、高機能ハンド「OmniHand 3 Ultra-M」、世界初の自転車走行ロボット「酷拓」を含む5製品を発表しました。


また、半導体設計の奇異摩爾(上海)集成電路設計(KiwiMoore)が、香港でのIPOを非公開形式で申請したと『経済通』が8月17日伝えました。関係者によれば、目標評価額は約20億米ドル(156億HKドル)で、2027年上半期の香港上場を計画しています。同社は7月の資金調達ラウンドで約7億元を調達し、評価額は80億元(約11億9000万米ドル)に達しました。出資者には中国政府系ファンドや復星国際(00656)傘下の上海復星創富投資管理などがふくまれます。


こうしたIPOを目指すと未上場企業の報道とは別に、上場企業がAI事業資産を本体から切り出して上場する動きが伝わっています。代表的な例が百度(09888)のAI半導体事業である「崑崙芯」でしょう。連載の次回では、こうしたAI事業の分離上場計画をご紹介していきます。

この連載の一覧
第91回 勢い止まらぬAI関連の上場、月之暗面は目標評価額500億米ドル
第90回 「Kimi K3」:米中AI相場を揺るがす高性能モデル
第89回 中国軍事企業:米国防総省、アリババや百度も指定
第88回 AI関連が上場ラッシュ、トップモデルは誰だ
第87回 ハンセンテック指数:ナスダック追走へ、AIモデル開発2社を採用
第86回 中国自動車業界(その2):EVで狙う北米・日本市場
第85回 ハンガリー政権交代:中国企業の欧州進出に逆風か
第84回 オープンクロ-: 中国AI市場のゲームチェンジャー、テンセントに追い風
第83回 HALO:AIブームからの逃避先、中東紛争で脚光
第82回 ステーブルコインは統制可能か、香港が挑む「実験」
第81回 中国自動車業界、輸出から海外生産へシフト
第80回 「閉じる、は即ち開放」海南自由貿易港の逆説
第79回 香港ステーブルコイン:ネット大手と金融機関が免許争奪戦
第78回 香港ステーブルコインの裏表
第77回 中国映画:官民で描く国産作品の成長シナリオ
第76回 中国本土の投資家が香港市場で買った銘柄トップ10
第75回 「国家隊」その3:対トランプ戦線に参画、中国株ETFを買い増し
第74回 銀髪経済:攻守一体の長寿ビジネス
第73回 全固体電池:車載開始は27年、30年に量産化へ
第72回 中国の家電 その2:DeepSeekがゲームチェンジャー
第71回 ヒューマノイド:2025年は量産元年
第70回 ディープシーク その2:米中プラットフォームが続々提供
第69回 ディープシーク:トランプ氏コメントがまともな理由
第68回 人民元の先安観が消えない理由
第67回 2025年の消費:若者がこだわる6つの新潮流
第66回 新中式飲食業:若者を引き付ける「ネオ中華」消費トレンド
第65回 中央政治局会議 その2:金融政策を「緩和」に転換
第64回 「氷雪経済」が熱い!25年に1兆元突破へ
第63回 中国製ゲーム:世界で勝負、先兵は孫悟空
第62回 観光業界: 25年は休日が2日増加、国内旅行ブーム到来か
第61回 鉄鋼業界:経営統合に再点火、業界団体が政策主導を要望
第60回 少子化:「出産・育児しやすい社会」目指す総合措置を発表
第59回 自動運転業界、「スパイ活動疑惑」にヒヤリ
第58回 伝統の「白酒」:ネット世代は「飲まずに投資」
第57回 中央政治局会議:市場が大歓迎した「3つの異例」
第56回 名月も陰る中国景気、月餅も「お手頃価格」が主流
第55回 中国の家電:勝負の分かれ目は海外、ブランドを世界展開
第54回 中国の金融政策 その2:なぜ中央銀行は独立しているべきなのか
第53回 「高配当株」その2:香港市場、主役はバリュー株に交代か
第52回 中国の金融政策:大胆な利下げに踏み出せない事情
第51回 250日移動平均:香港市場に帰ってきた「ベア」
第50回 米大統領選:香港の投資家を悩ます二重の不確実性
第49回 香港市場の「もしトラ」:米インフレ再燃を予想、金融セクターに「買い」
第48回 「肥満症薬」:先発薬の特許切れにらみ、国内企業が参入ラッシュ
第47回 「国家隊」その2:異例の香港入場、6月に中央企業指数ETFを買い入れ
第46回 「水素サプライチェーン」:2025年にFCV5万台、業界は振興策を要望
第45回 「不動産発展の新モデル」その4:地方政府の住宅在庫買い取り、人民銀が支援
第44回 「高配当株」:中国ならではの買われる理由
第43回 「不動産発展の新モデル」その3:中国指導部、住宅在庫の消化策検討を指示
第42回 「国9条」:配当利回り重視の投資戦略に脚光、注目銘柄は国有企業
第41回 「啓航企業」:国有企業のゆりかごでユニコーンは育つか
第40回 「kimi」:市場を沸かせる中国ユニコーンの生成AI
第39回 「不動産発展の新モデル」その2:痛みを伴う改革に踏み込めるか
第38回 期待は高い「低空経済」:eVTOL離陸に投資家も浮き立つ
第37回 「洋上風力発電」:低迷を脱するか、行方は政策の風向き次第
第36回 「24年の香港IPO」: 地位回復に向け中国本土、米国と競り合い
第35回 「辰年の投資戦略」:一押しは日本株、A株市場には慎重
第34回 「美麗中国」:習近平氏肝いりの“生態文明”建設事業
第33回 内巻、寝そべり、潤学、献忠学:ネットに見える若者の本音
第32回 住宅神話と「発展の新モデル」: 待ったなし、中国不動産市場の構造改革
第31回 「十不青年」: 家を買わない中国の若者、投資にも興味なしか
第30回 「国家隊」:株式相場を「実弾」で支える官製チーム、その実力は?
第29回 「生成AI」:中国市場を制する一般向けサービスはどれか
第28回 資本市場の活性化と逆行する「IPO抑制」
第27回 消えた「房住不炒」、投資家を走らす
第26回 医薬品業界に嵐を呼ぶか「反腐敗」
第25回 「ハンセンテック指数」3周年を機に巻き返しなるか
第24回 地方歳入増の妙案になるか「城中村」の改造
第23回 中国通信株の未来を担う「工業インターネット」
第22回 「ハンセン指数」上昇シナリオ実現の根拠と条件
第21回 株式市場を揺るがす「人民元相場」
第20回 習近平氏の肝いり「郷村振興戦略」
第19回 習近平色に染まるシン「新型都市化」
第18回 上半期のネット通販王者を決める「618」開幕
第17回 中国の株式相場を動かす「中特估」とは?
第16回「医薬品ネット通販」アリババとJDがしのぎを削る成長市場
第15回「半導体の国産化」(その3) 腐敗は一掃、戦略を再設計へ
第14回「中国の政策金利」人民銀の景気調節手段「LPR」を読み解こう
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中国株情報部

村山 広介

日本の出版社や外資系出版社に勤務したほか、シンガポールの邦字新聞社でビジネスニュース編集を経験。 2011年8月、T&Cフィナンシャルリサーチ(現・DZHフィナンシャルリサーチ)に入社。

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