AIモデルからプラットフォームまで中国製で完結
中国企業は人工知能(AI)の活用により、スマートフォンで視聴する「ショートドラマ」のエコシステムを海外市場に広げているようです。中国発のAIモデルと編集ツール、配信プラットフォームを連携させて海外の視聴者に提供することで、国産サービスを国外で展開しています。
例えばTikTokを運営する中国ネット大手の字節跳動(バイトダンス)は、動画生成のAIモデル「Seedance」と、動画編集アプリ「CapCut(キャップカット)」も提供しています。つまり、Seedanceでキャラクターの設定、脚本制作、映像生成、吹き替えを行い、CapCutを使ったポストプロダクション編集で作品を仕上げ、TikTokを通じて公開できるわけです。ショートドラマの企画から配信までのプロセスを自社サービス内で完結する体制が整っています。
バイトダンスの海外ビジネスモデルは成果を挙げています。中国メディア『科創板日報』データによると、「Seedance」の売上高に占める海外売上高の割合は50%に達しました。同社の法人向けクラウドサービス・AIプラットフォーム「火山引擎(Volcengine)」の関係者によると、今年10月までの6カ月間にSeedanceの海外市場売上高はおよそ5倍に膨らみました。
『科創板日報』は、バイトダンスが2026年2月12日に投入した最新版モデル「Seedance 2.0」をCapCutに直接組み込んだことが、急成長のきっかけになったとの見方を示しました。同ツールは現在、100カ国以上で提供され、2億人のユーザーを抱えています。2026年6月末時点で、Seedance 2.0の海外での利用割合は全体の3分の1から2分の1に上昇しました。

CapCutの公式サイト
25年世界市場規模は180億米ドル、北米で成長
ショートドラマとは、尺が2分以内のスマホ向けドラマを指し、中国で生み出され、海外で人気を博したネット業態の一つです。中国語では「微短劇」、米国では「マイクロドラマ」または「バーティカルズ(縦型)」と呼ばれています。
『ニューヨーク・タイムズ』は10月6日付の日曜版で「このフォーマットは2018年ごろに中国で生まれ、同国では収益が通常の映画産業を上回っている」と指摘しました。同紙によれば、当初は米エンターテインメント業界から「ジェネレーションX向けのソープオペラであり、性的描写が過剰で、ドラマ展開に節操がない」と受け止められていました。しかし、ショートドラマの人気は年々高まり、2026年の収益は15億米ドルに達する勢いといいます。こうなるとハリウッドの業界関係者も無視できず、メジャースタジオ系のフォックス・エンターテインメントやディズニープラス、パラマウントプラスなどが制作に乗り出しています。
中国国家広播電視総局発展研究センターなどが今年4月に発表した「AI駆動グローバル微短劇の発展に関する報告書」によると、2025年の世界のショートドラマ市場規模は180億米ドル近くに達しました。うち、中国市場は140億米ドル超と、世界全体の78%を占めています。2025年末時点で、中国のショートドラマの海外市場売上高は国内市場売上高の約25%となりました。
地域別の売上高を見ると、中国のショートドラマの海外アプリ内課金売上高の上位は北米、欧州、日本・韓国の順です。うち北米市場が海外ショートドラマのアプリ内課金売上高の45%を占めました。海外の主要プラットフォームでは、中国のショートドラマ関連チャンネルの登録者数が延べ4億2200万人、総再生回数は700億回近くに上っています。
現地制作モデルで成功した「ReelShort」
同報告書はショートドラマ事業の海外展開をリードする企業・組織として、楓葉互動(Crazy Maple Studio)や、深セン証券取引所「創業板」に上場する崑崙万維科技(300418)、重慶麦芽伝媒(Maya Media)など10社を挙げました。
中国メディア『科創板日報』によると、楓葉互動は2022年に北米市場で初のショートドラマアプリ「ReelShort」を投入した、海外展開の先駆者といえる企業です。同社は「現地制作」モデルを採用し、俳優、脚本家から撮影スタッフに至るまで、現地人材を起用する手法で米国の業界に参入しました。「創業板」上場の中文在線集団(300364)が持ち株比率49.24%の筆頭株主ですが、本社は米カリフォルニア州に置いています。
「現地制作」ビジネスモデルはその後、海外のショートドラマ市場に急速に広がりました。中国の証券最大手、中信証券によれば、2023年末時点では海外展開していた中国ショートドラマプラットフォームはReelShortなど少数に限られていましたが、現在では海外でのショートドラマアプリの売上高上位50のうち41は中国企業が開発したものです。
Sensor Towerのショートドラマ世界市場リポートをみると、2026年1-3月期のアプリ内課金ランキングでReelShortと北京点衆科技の傘下企業が運営する「DramaBox」がともに約1億4000万米ドルを売り上げ、首位を争っています。

ReelShortの作品リスト
AIによる業務効率化進む、政策の後押しにも期待
株式市場が中国ショートドラマの今後に強い期待を寄せる理由は主に2つあると思います。一つはAIによる急速な業務効率化です。前述したReelShortなども、AIツールの導入によって経営効率を高める方針です。『ニューヨーク・タイムズ』によれば、ReelShortを傘下に抱える中文在線集団は、中国でリリースする作品について俳優の75%をAIで代替する方針を明らかにしています。これまでは現地人材の活用を徹底することでコンテンツと制作能力の優位を確立してきましたが、今後は人材ではなくAIが事業の中核を担うモデルに転換することになりそうです。
もう一つが中国政府の後押しです。中国で独自の業態を作り出し、国内で発展するだけでなく、海外に進出して主導的な地位を確立したショートドラマは、習近平国家主席が掲げる「国際国内双循環」を体現したと言えるからです。中国国家広播電視総局の報告書は、2025年末時点で中国ショートドラマの海外市場売上高は国内市場売上高の約25%に達したと明らかにした上で、「国内の巨大市場を主軸としながら、国内と海外の双循環を発展させる新たな構造が初歩的に形成された」と評価しています。
中国経済のこれまでの発展を支えてきた柱の一つは、先進国から技術を取り入れた上で高い生産効率によって競争力を高め、輸出を振興する「キャッチアップ」経済戦略でした。しかし、貿易摩擦や米国とのハイテク覇権争いを経て、習氏は海外依存を減らす方針を決めました。後追いではなく、中国が先行して切り開いた技術・業態を国内市場で発展させた上で、世界標準として海外市場を開拓していこう、という主旨です。
その成功例が「AIショートドラマ」という形で実現するとは、明敏な中国当局の担当者も予見できなかったのではないかと思います。次回の連載では、中国の政策枠組みの中でのショートドラマの位置付けの変化や、米国での反応をさらにご紹介する予定です。



