中国株、あのテーマはどうなった?

第94回 AIショートドラマが描く、中国経済圏の海外進出

AIモデルからプラットフォームまで中国製で完結


中国企業は人工知能(AI)の活用により、スマートフォンで視聴する「ショートドラマ」のエコシステムを海外市場に広げているようです。中国発のAIモデルと編集ツール、配信プラットフォームを連携させて海外の視聴者に提供することで、国産サービスを国外で展開しています。


例えばTikTokを運営する中国ネット大手の字節跳動(バイトダンス)は、動画生成のAIモデル「Seedance」と、動画編集アプリ「CapCut(キャップカット)」も提供しています。つまり、Seedanceでキャラクターの設定、脚本制作、映像生成、吹き替えを行い、CapCutを使ったポストプロダクション編集で作品を仕上げ、TikTokを通じて公開できるわけです。ショートドラマの企画から配信までのプロセスを自社サービス内で完結する体制が整っています。


バイトダンスの海外ビジネスモデルは成果を挙げています。中国メディア『科創板日報』データによると、「Seedance」の売上高に占める海外売上高の割合は50%に達しました。同社の法人向けクラウドサービス・AIプラットフォーム「火山引擎(Volcengine)」の関係者によると、今年10月までの6カ月間にSeedanceの海外市場売上高はおよそ5倍に膨らみました。


『科創板日報』は、バイトダンスが2026年2月12日に投入した最新版モデル「Seedance 2.0」をCapCutに直接組み込んだことが、急成長のきっかけになったとの見方を示しました。同ツールは現在、100カ国以上で提供され、2億人のユーザーを抱えています。2026年6月末時点で、Seedance 2.0の海外での利用割合は全体の3分の1から2分の1に上昇しました。


CapCutの公式サイト



25年世界市場規模は180億米ドル、北米で成長


ショートドラマとは、尺が2分以内のスマホ向けドラマを指し、中国で生み出され、海外で人気を博したネット業態の一つです。中国語では「微短劇」、米国では「マイクロドラマ」または「バーティカルズ(縦型)」と呼ばれています。


『ニューヨーク・タイムズ』は10月6日付の日曜版で「このフォーマットは2018年ごろに中国で生まれ、同国では収益が通常の映画産業を上回っている」と指摘しました。同紙によれば、当初は米エンターテインメント業界から「ジェネレーションX向けのソープオペラであり、性的描写が過剰で、ドラマ展開に節操がない」と受け止められていました。しかし、ショートドラマの人気は年々高まり、2026年の収益は15億米ドルに達する勢いといいます。こうなるとハリウッドの業界関係者も無視できず、メジャースタジオ系のフォックス・エンターテインメントやディズニープラス、パラマウントプラスなどが制作に乗り出しています。


中国国家広播電視総局発展研究センターなどが今年4月に発表した「AI駆動グローバル微短劇の発展に関する報告書」によると、2025年の世界のショートドラマ市場規模は180億米ドル近くに達しました。うち、中国市場は140億米ドル超と、世界全体の78%を占めています。2025年末時点で、中国のショートドラマの海外市場売上高は国内市場売上高の約25%となりました。


地域別の売上高を見ると、中国のショートドラマの海外アプリ内課金売上高の上位は北米、欧州、日本・韓国の順です。うち北米市場が海外ショートドラマのアプリ内課金売上高の45%を占めました。海外の主要プラットフォームでは、中国のショートドラマ関連チャンネルの登録者数が延べ4億2200万人、総再生回数は700億回近くに上っています。


現地制作モデルで成功した「ReelShort」


同報告書はショートドラマ事業の海外展開をリードする企業・組織として、楓葉互動(Crazy Maple Studio)や、深セン証券取引所「創業板」に上場する崑崙万維科技(300418)、重慶麦芽伝媒(Maya Media)など10社を挙げました。


中国メディア『科創板日報』によると、楓葉互動は2022年に北米市場で初のショートドラマアプリ「ReelShort」を投入した、海外展開の先駆者といえる企業です。同社は「現地制作」モデルを採用し、俳優、脚本家から撮影スタッフに至るまで、現地人材を起用する手法で米国の業界に参入しました。「創業板」上場の中文在線集団(300364)が持ち株比率49.24%の筆頭株主ですが、本社は米カリフォルニア州に置いています。


「現地制作」ビジネスモデルはその後、海外のショートドラマ市場に急速に広がりました。中国の証券最大手、中信証券によれば、2023年末時点では海外展開していた中国ショートドラマプラットフォームはReelShortなど少数に限られていましたが、現在では海外でのショートドラマアプリの売上高上位50のうち41は中国企業が開発したものです。


Sensor Towerのショートドラマ世界市場リポートをみると、2026年1-3月期のアプリ内課金ランキングでReelShortと北京点衆科技の傘下企業が運営する「DramaBox」がともに約1億4000万米ドルを売り上げ、首位を争っています。


ReelShortの作品リスト


AIによる業務効率化進む、政策の後押しにも期待


株式市場が中国ショートドラマの今後に強い期待を寄せる理由は主に2つあると思います。一つはAIによる急速な業務効率化です。前述したReelShortなども、AIツールの導入によって経営効率を高める方針です。『ニューヨーク・タイムズ』によれば、ReelShortを傘下に抱える中文在線集団は、中国でリリースする作品について俳優の75%をAIで代替する方針を明らかにしています。これまでは現地人材の活用を徹底することでコンテンツと制作能力の優位を確立してきましたが、今後は人材ではなくAIが事業の中核を担うモデルに転換することになりそうです。


もう一つが中国政府の後押しです。中国で独自の業態を作り出し、国内で発展するだけでなく、海外に進出して主導的な地位を確立したショートドラマは、習近平国家主席が掲げる「国際国内双循環」を体現したと言えるからです。中国国家広播電視総局の報告書は、2025年末時点で中国ショートドラマの海外市場売上高は国内市場売上高の約25%に達したと明らかにした上で、「国内の巨大市場を主軸としながら、国内と海外の双循環を発展させる新たな構造が初歩的に形成された」と評価しています。


中国経済のこれまでの発展を支えてきた柱の一つは、先進国から技術を取り入れた上で高い生産効率によって競争力を高め、輸出を振興する「キャッチアップ」経済戦略でした。しかし、貿易摩擦や米国とのハイテク覇権争いを経て、習氏は海外依存を減らす方針を決めました。後追いではなく、中国が先行して切り開いた技術・業態を国内市場で発展させた上で、世界標準として海外市場を開拓していこう、という主旨です。


その成功例が「AIショートドラマ」という形で実現するとは、明敏な中国当局の担当者も予見できなかったのではないかと思います。次回の連載では、中国の政策枠組みの中でのショートドラマの位置付けの変化や、米国での反応をさらにご紹介する予定です。

この連載の一覧
第94回 AIショートドラマが描く、中国経済圏の海外進出
第93回 中国AI・半導体株IPO、米中対立が冷水
第92回 中国AI半導体新興が相次ぎ上場、「四小龍」そろい踏み
第91回 勢い止まらぬAI関連の上場、月之暗面は目標評価額500億米ドル
第90回 「Kimi K3」:米中AI相場を揺るがす高性能モデル
第89回 中国軍事企業:米国防総省、アリババや百度も指定
第88回 AI関連が上場ラッシュ、トップモデルは誰だ
第87回 ハンセンテック指数:ナスダック追走へ、AIモデル開発2社を採用
第86回 中国自動車業界(その2):EVで狙う北米・日本市場
第85回 ハンガリー政権交代:中国企業の欧州進出に逆風か
第84回 オープンクロ-: 中国AI市場のゲームチェンジャー、テンセントに追い風
第83回 HALO:AIブームからの逃避先、中東紛争で脚光
第82回 ステーブルコインは統制可能か、香港が挑む「実験」
第81回 中国自動車業界、輸出から海外生産へシフト
第80回 「閉じる、は即ち開放」海南自由貿易港の逆説
第79回 香港ステーブルコイン:ネット大手と金融機関が免許争奪戦
第78回 香港ステーブルコインの裏表
第77回 中国映画:官民で描く国産作品の成長シナリオ
第76回 中国本土の投資家が香港市場で買った銘柄トップ10
第75回 「国家隊」その3:対トランプ戦線に参画、中国株ETFを買い増し
第74回 銀髪経済:攻守一体の長寿ビジネス
第73回 全固体電池:車載開始は27年、30年に量産化へ
第72回 中国の家電 その2:DeepSeekがゲームチェンジャー
第71回 ヒューマノイド:2025年は量産元年
第70回 ディープシーク その2:米中プラットフォームが続々提供
第69回 ディープシーク:トランプ氏コメントがまともな理由
第68回 人民元の先安観が消えない理由
第67回 2025年の消費:若者がこだわる6つの新潮流
第66回 新中式飲食業:若者を引き付ける「ネオ中華」消費トレンド
第65回 中央政治局会議 その2:金融政策を「緩和」に転換
第64回 「氷雪経済」が熱い!25年に1兆元突破へ
第63回 中国製ゲーム:世界で勝負、先兵は孫悟空
第62回 観光業界: 25年は休日が2日増加、国内旅行ブーム到来か
第61回 鉄鋼業界:経営統合に再点火、業界団体が政策主導を要望
第60回 少子化:「出産・育児しやすい社会」目指す総合措置を発表
第59回 自動運転業界、「スパイ活動疑惑」にヒヤリ
第58回 伝統の「白酒」:ネット世代は「飲まずに投資」
第57回 中央政治局会議:市場が大歓迎した「3つの異例」
第56回 名月も陰る中国景気、月餅も「お手頃価格」が主流
第55回 中国の家電:勝負の分かれ目は海外、ブランドを世界展開
第54回 中国の金融政策 その2:なぜ中央銀行は独立しているべきなのか
第53回 「高配当株」その2:香港市場、主役はバリュー株に交代か
第52回 中国の金融政策:大胆な利下げに踏み出せない事情
第51回 250日移動平均:香港市場に帰ってきた「ベア」
第50回 米大統領選:香港の投資家を悩ます二重の不確実性
第49回 香港市場の「もしトラ」:米インフレ再燃を予想、金融セクターに「買い」
第48回 「肥満症薬」:先発薬の特許切れにらみ、国内企業が参入ラッシュ
第47回 「国家隊」その2:異例の香港入場、6月に中央企業指数ETFを買い入れ
第46回 「水素サプライチェーン」:2025年にFCV5万台、業界は振興策を要望
第45回 「不動産発展の新モデル」その4:地方政府の住宅在庫買い取り、人民銀が支援
第44回 「高配当株」:中国ならではの買われる理由
第43回 「不動産発展の新モデル」その3:中国指導部、住宅在庫の消化策検討を指示
第42回 「国9条」:配当利回り重視の投資戦略に脚光、注目銘柄は国有企業
第41回 「啓航企業」:国有企業のゆりかごでユニコーンは育つか
第40回 「kimi」:市場を沸かせる中国ユニコーンの生成AI
第39回 「不動産発展の新モデル」その2:痛みを伴う改革に踏み込めるか
第38回 期待は高い「低空経済」:eVTOL離陸に投資家も浮き立つ
第37回 「洋上風力発電」:低迷を脱するか、行方は政策の風向き次第
第36回 「24年の香港IPO」: 地位回復に向け中国本土、米国と競り合い
第35回 「辰年の投資戦略」:一押しは日本株、A株市場には慎重
第34回 「美麗中国」:習近平氏肝いりの“生態文明”建設事業
第33回 内巻、寝そべり、潤学、献忠学:ネットに見える若者の本音
第32回 住宅神話と「発展の新モデル」: 待ったなし、中国不動産市場の構造改革
第31回 「十不青年」: 家を買わない中国の若者、投資にも興味なしか
第30回 「国家隊」:株式相場を「実弾」で支える官製チーム、その実力は?
第29回 「生成AI」:中国市場を制する一般向けサービスはどれか
第28回 資本市場の活性化と逆行する「IPO抑制」
第27回 消えた「房住不炒」、投資家を走らす
第26回 医薬品業界に嵐を呼ぶか「反腐敗」
第25回 「ハンセンテック指数」3周年を機に巻き返しなるか
第24回 地方歳入増の妙案になるか「城中村」の改造
第23回 中国通信株の未来を担う「工業インターネット」
第22回 「ハンセン指数」上昇シナリオ実現の根拠と条件
第21回 株式市場を揺るがす「人民元相場」
第20回 習近平氏の肝いり「郷村振興戦略」
第19回 習近平色に染まるシン「新型都市化」
第18回 上半期のネット通販王者を決める「618」開幕
第17回 中国の株式相場を動かす「中特估」とは?
第16回「医薬品ネット通販」アリババとJDがしのぎを削る成長市場
第15回「半導体の国産化」(その3) 腐敗は一掃、戦略を再設計へ
第14回「中国の政策金利」人民銀の景気調節手段「LPR」を読み解こう
【中国株、あのテーマはどうなった?】第13回「国産旅客機」苦節15年、来春にも商業運航へ
【中国株、あのテーマはどうなった?】第12回「マカオのカジノ免許」既存6社が順当に当選、勝負はカジノ場外へ
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【中国株、あのテーマはどうなった?】第10回「リチウムイオン電池」大成功の代償?EV大国を悩ませるサプライチェーンのひずみ
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【中国株、あのテーマはどうなった?】第8回「国有企業改革」(その2) 習近平氏の旗振りで「より強く、より優れ、より大きく」
【中国株、あのテーマはどうなった?】第7回「国有企業改革」(その1)
【中国株、あのテーマはどうなった?】第6回「半導体の国産化」(その2) 断裂する半導体の世界、米中が相互排除
【中国株、あのテーマはどうなった?】第5回「半導体の国産化」(その1) 国策を脅かす前門の米国、後門の腐敗
【中国株、あのテーマはどうなった?】第4回 ハイテク全部乗せの経済政策「新型インフラ」
【中国株、あのテーマはどうなった?】第3回 香港に取って代わるか、海南島「自由貿易港」
【中国株、あのテーマはどうなった?】第2回 株式市場となじみきれない「軍民融合」
【中国株、あのテーマはどうなった?】第1回 「一帯一路」の行方

中国株情報部

村山 広介

日本の出版社や外資系出版社に勤務したほか、シンガポールの邦字新聞社でビジネスニュース編集を経験。 2011年8月、T&Cフィナンシャルリサーチ(現・DZHフィナンシャルリサーチ)に入社。

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