中国株、あのテーマはどうなった?

第93回 中国AI・半導体株IPO、米中対立が冷水

規制リスクが米中で顕在化


先月半ばに掲載した前回記事のなかで、中国の人工知能(AI)・半導体企業による新規株式公開(IPO)ラッシュを鈍化させるリスク要因として、米国政府による対中規制と、業界競争激化を背景とする中国当局の監督強化を挙げました。残念ながら、このリスクは2つとも現実化してしまったようです。


まず、ロイター通信が9月21日、事情に詳しい複数の関係者の話として、中国当局が「窓口指導」を通じて人型ロボット企業の上場を抑制していると伝えました。IPOの準備手続きを進めている企業が、上場基準を満たすため、実需に基づかない売上高を膨らませていないかなどを精査することが目的といいます。背景には、ロボットの訓練を行うデータ収集センターや、地方政府が初期投資の80-90%を拠出する官民共同事業が、一部企業に多額の売上高をもたらしている状況があるようです。


月之暗面のIPO、バンカメが主幹事候補から撤退


続いてブルームバーグは10月14日、米バンク・オブ・アメリカ(BAC)が月之暗面(Moonshot AI)のIPOの主幹事候補から外れたと報じました。同記事によると、トランプ米政権が月之暗面を含む中国のAI企業に対し、米国製高性能モデルの成果を使って新たなAIを訓練する「蒸留」と呼ばれる手法を不正利用していると非難していることから、「IPO業務を手掛ける米系銀行は慎重な判断を迫られている」と関係者は述べました。


これに先立ち、ブルームバーグは関係者の話として、月之暗面がIPOを前にした最後の資金調達ラウンドを完了し、評価額は約500億米ドルとなったと伝えていました。さらに、2027年1-3月期の香港上場に向けて準備を進めているとしました。


米中対立の余波は、中国で創業した人工知能(AI)新興、Manus(マナス)にも及びました。2025年12月に米メタによるManus買収が明らかになったものの、中国商務部が技術輸出規制に違反していないかの審査を開始。結局、Manusは2026年9月1日、「独立経営を再開した」と発表しました。関係者によれば、Manusの創業者やテンセント(00700)、紅杉中国、真格基金などの初期出資者が評価額20億米ドルを基準にメタから株式を買い戻しました。


中国メディア『経済通』によると、シンガポールに本社を置くManusは、香港でのIPOに向けて、組織再編を検討しています。調達目標額は5億米ドルで、企業評価額を40億米ドルに引き上げることを目指しています。なお、現時点でテンセントがManus創業者以外で最大の株主となっています。



百度や快手科技、AI事業の分離上場を準備


中国インターネット・プラットフォーム企業がAI事業部門を分離上場させる動きは活発です。百度(09888)の李彦宏(ロビン・リー)最高経営責任者(CEO)は8月に開いた4-6月期業績説明会で、AI半導体子会社の崑崙芯科技が同四半期も力強い勢いを維持しており、上場準備を引き続き進めていると明らかにしました。


また、快手科技(01024)傘下のAI動画サービス「可霊AI(Kling AI)」は、香港でのIPOに向けて主幹事会社を選定し、準備を進めているようです。早ければ来年の上場を目指しており、調達額は10億米ドルに達する可能性があります。ブルームバーグが10月6日、関係者の話として伝えました。


ブルームバーグによれば、可霊AIと競合するサービスを展開している生数科技(Shengshu Technology)と愛詩科技(AIsphere)も香港でのIPOを計画しています。動画生成モデル「Vidu」で知られる生数科技は、2027年の香港上場を目指し、5億米ドル超の資金調達を見込んでいるとされます。同社は清華大学の研究チームを母体として2023年3月に設立され、アリババ集団(09988)が大株主。今年4月にはアリババクラウドが主導する約20億元のBラウンド資金調達を完了しました。


愛詩科技は2023年4月、「TikTok(ティックトック)」の開発会社である字節跳動(バイトダンス)の映像技術責任者を務めた王長虎氏が設立しました。主力サービスは動画生成AI「PixVerse」です。テック系メディア『36kr』によると、2026年8月にアリババ集団などが参加したシリーズC資金調達を完了し、累計調達額が29億8000万元に達しました。


人型ロボット業界、IPO準備が停滞か


人型ロボット業界については、IPOを目指す動きが今年夏までは盛んに伝わっていました。第91回でご紹介した智元機器人(AGIBOT)や、車輪走行型の双腕人型ロボット「量子(Quanta)」シリーズを展開する自変量機器人(X Square Robot)、四足歩行ロボットを開発する雲深処科技(ディープ・ロボティクス)、産業用の知能型移動ロボットおよび工場全体のスマート物流ソリューションに特化した広州藍海機器人系統などです。


雲深処科技は2026年5月に上海のハイテク新興企業向けの市場「科創板」への上場申請を提出しました。一方、『科創板日報』によると、広州藍海機器人系統はIPOに向けた手続きを開始しており、早ければ2026年末に香港証券取引所に上場申請書類を提出し、2027年に上場する見通しとされていました。ただ、中国当局による「窓口指導」が伝わって以降、目立った動きがありません。


この連載の一覧
第93回 中国AI・半導体株IPO、米中対立が冷水
第92回 中国AI半導体新興が相次ぎ上場、「四小龍」そろい踏み
第91回 勢い止まらぬAI関連の上場、月之暗面は目標評価額500億米ドル
第90回 「Kimi K3」:米中AI相場を揺るがす高性能モデル
第89回 中国軍事企業:米国防総省、アリババや百度も指定
第88回 AI関連が上場ラッシュ、トップモデルは誰だ
第87回 ハンセンテック指数:ナスダック追走へ、AIモデル開発2社を採用
第86回 中国自動車業界(その2):EVで狙う北米・日本市場
第85回 ハンガリー政権交代:中国企業の欧州進出に逆風か
第84回 オープンクロ-: 中国AI市場のゲームチェンジャー、テンセントに追い風
第83回 HALO:AIブームからの逃避先、中東紛争で脚光
第82回 ステーブルコインは統制可能か、香港が挑む「実験」
第81回 中国自動車業界、輸出から海外生産へシフト
第80回 「閉じる、は即ち開放」海南自由貿易港の逆説
第79回 香港ステーブルコイン:ネット大手と金融機関が免許争奪戦
第78回 香港ステーブルコインの裏表
第77回 中国映画:官民で描く国産作品の成長シナリオ
第76回 中国本土の投資家が香港市場で買った銘柄トップ10
第75回 「国家隊」その3:対トランプ戦線に参画、中国株ETFを買い増し
第74回 銀髪経済:攻守一体の長寿ビジネス
第73回 全固体電池:車載開始は27年、30年に量産化へ
第72回 中国の家電 その2:DeepSeekがゲームチェンジャー
第71回 ヒューマノイド:2025年は量産元年
第70回 ディープシーク その2:米中プラットフォームが続々提供
第69回 ディープシーク:トランプ氏コメントがまともな理由
第68回 人民元の先安観が消えない理由
第67回 2025年の消費:若者がこだわる6つの新潮流
第66回 新中式飲食業:若者を引き付ける「ネオ中華」消費トレンド
第65回 中央政治局会議 その2:金融政策を「緩和」に転換
第64回 「氷雪経済」が熱い!25年に1兆元突破へ
第63回 中国製ゲーム:世界で勝負、先兵は孫悟空
第62回 観光業界: 25年は休日が2日増加、国内旅行ブーム到来か
第61回 鉄鋼業界:経営統合に再点火、業界団体が政策主導を要望
第60回 少子化:「出産・育児しやすい社会」目指す総合措置を発表
第59回 自動運転業界、「スパイ活動疑惑」にヒヤリ
第58回 伝統の「白酒」:ネット世代は「飲まずに投資」
第57回 中央政治局会議:市場が大歓迎した「3つの異例」
第56回 名月も陰る中国景気、月餅も「お手頃価格」が主流
第55回 中国の家電:勝負の分かれ目は海外、ブランドを世界展開
第54回 中国の金融政策 その2:なぜ中央銀行は独立しているべきなのか
第53回 「高配当株」その2:香港市場、主役はバリュー株に交代か
第52回 中国の金融政策:大胆な利下げに踏み出せない事情
第51回 250日移動平均:香港市場に帰ってきた「ベア」
第50回 米大統領選:香港の投資家を悩ます二重の不確実性
第49回 香港市場の「もしトラ」:米インフレ再燃を予想、金融セクターに「買い」
第48回 「肥満症薬」:先発薬の特許切れにらみ、国内企業が参入ラッシュ
第47回 「国家隊」その2:異例の香港入場、6月に中央企業指数ETFを買い入れ
第46回 「水素サプライチェーン」:2025年にFCV5万台、業界は振興策を要望
第45回 「不動産発展の新モデル」その4:地方政府の住宅在庫買い取り、人民銀が支援
第44回 「高配当株」:中国ならではの買われる理由
第43回 「不動産発展の新モデル」その3:中国指導部、住宅在庫の消化策検討を指示
第42回 「国9条」:配当利回り重視の投資戦略に脚光、注目銘柄は国有企業
第41回 「啓航企業」:国有企業のゆりかごでユニコーンは育つか
第40回 「kimi」:市場を沸かせる中国ユニコーンの生成AI
第39回 「不動産発展の新モデル」その2:痛みを伴う改革に踏み込めるか
第38回 期待は高い「低空経済」:eVTOL離陸に投資家も浮き立つ
第37回 「洋上風力発電」:低迷を脱するか、行方は政策の風向き次第
第36回 「24年の香港IPO」: 地位回復に向け中国本土、米国と競り合い
第35回 「辰年の投資戦略」:一押しは日本株、A株市場には慎重
第34回 「美麗中国」:習近平氏肝いりの“生態文明”建設事業
第33回 内巻、寝そべり、潤学、献忠学:ネットに見える若者の本音
第32回 住宅神話と「発展の新モデル」: 待ったなし、中国不動産市場の構造改革
第31回 「十不青年」: 家を買わない中国の若者、投資にも興味なしか
第30回 「国家隊」:株式相場を「実弾」で支える官製チーム、その実力は?
第29回 「生成AI」:中国市場を制する一般向けサービスはどれか
第28回 資本市場の活性化と逆行する「IPO抑制」
第27回 消えた「房住不炒」、投資家を走らす
第26回 医薬品業界に嵐を呼ぶか「反腐敗」
第25回 「ハンセンテック指数」3周年を機に巻き返しなるか
第24回 地方歳入増の妙案になるか「城中村」の改造
第23回 中国通信株の未来を担う「工業インターネット」
第22回 「ハンセン指数」上昇シナリオ実現の根拠と条件
第21回 株式市場を揺るがす「人民元相場」
第20回 習近平氏の肝いり「郷村振興戦略」
第19回 習近平色に染まるシン「新型都市化」
第18回 上半期のネット通販王者を決める「618」開幕
第17回 中国の株式相場を動かす「中特估」とは?
第16回「医薬品ネット通販」アリババとJDがしのぎを削る成長市場
第15回「半導体の国産化」(その3) 腐敗は一掃、戦略を再設計へ
第14回「中国の政策金利」人民銀の景気調節手段「LPR」を読み解こう
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中国株情報部

村山 広介

日本の出版社や外資系出版社に勤務したほか、シンガポールの邦字新聞社でビジネスニュース編集を経験。 2011年8月、T&Cフィナンシャルリサーチ(現・DZHフィナンシャルリサーチ)に入社。

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