規制リスクが米中で顕在化
先月半ばに掲載した前回記事のなかで、中国の人工知能(AI)・半導体企業による新規株式公開(IPO)ラッシュを鈍化させるリスク要因として、米国政府による対中規制と、業界競争激化を背景とする中国当局の監督強化を挙げました。残念ながら、このリスクは2つとも現実化してしまったようです。
まず、ロイター通信が9月21日、事情に詳しい複数の関係者の話として、中国当局が「窓口指導」を通じて人型ロボット企業の上場を抑制していると伝えました。IPOの準備手続きを進めている企業が、上場基準を満たすため、実需に基づかない売上高を膨らませていないかなどを精査することが目的といいます。背景には、ロボットの訓練を行うデータ収集センターや、地方政府が初期投資の80-90%を拠出する官民共同事業が、一部企業に多額の売上高をもたらしている状況があるようです。
月之暗面のIPO、バンカメが主幹事候補から撤退
続いてブルームバーグは10月14日、米バンク・オブ・アメリカ(BAC)が月之暗面(Moonshot AI)のIPOの主幹事候補から外れたと報じました。同記事によると、トランプ米政権が月之暗面を含む中国のAI企業に対し、米国製高性能モデルの成果を使って新たなAIを訓練する「蒸留」と呼ばれる手法を不正利用していると非難していることから、「IPO業務を手掛ける米系銀行は慎重な判断を迫られている」と関係者は述べました。
これに先立ち、ブルームバーグは関係者の話として、月之暗面がIPOを前にした最後の資金調達ラウンドを完了し、評価額は約500億米ドルとなったと伝えていました。さらに、2027年1-3月期の香港上場に向けて準備を進めているとしました。
米中対立の余波は、中国で創業した人工知能(AI)新興、Manus(マナス)にも及びました。2025年12月に米メタによるManus買収が明らかになったものの、中国商務部が技術輸出規制に違反していないかの審査を開始。結局、Manusは2026年9月1日、「独立経営を再開した」と発表しました。関係者によれば、Manusの創業者やテンセント(00700)、紅杉中国、真格基金などの初期出資者が評価額20億米ドルを基準にメタから株式を買い戻しました。
中国メディア『経済通』によると、シンガポールに本社を置くManusは、香港でのIPOに向けて、組織再編を検討しています。調達目標額は5億米ドルで、企業評価額を40億米ドルに引き上げることを目指しています。なお、現時点でテンセントがManus創業者以外で最大の株主となっています。

百度や快手科技、AI事業の分離上場を準備
中国インターネット・プラットフォーム企業がAI事業部門を分離上場させる動きは活発です。百度(09888)の李彦宏(ロビン・リー)最高経営責任者(CEO)は8月に開いた4-6月期業績説明会で、AI半導体子会社の崑崙芯科技が同四半期も力強い勢いを維持しており、上場準備を引き続き進めていると明らかにしました。
また、快手科技(01024)傘下のAI動画サービス「可霊AI(Kling AI)」は、香港でのIPOに向けて主幹事会社を選定し、準備を進めているようです。早ければ来年の上場を目指しており、調達額は10億米ドルに達する可能性があります。ブルームバーグが10月6日、関係者の話として伝えました。
ブルームバーグによれば、可霊AIと競合するサービスを展開している生数科技(Shengshu Technology)と愛詩科技(AIsphere)も香港でのIPOを計画しています。動画生成モデル「Vidu」で知られる生数科技は、2027年の香港上場を目指し、5億米ドル超の資金調達を見込んでいるとされます。同社は清華大学の研究チームを母体として2023年3月に設立され、アリババ集団(09988)が大株主。今年4月にはアリババクラウドが主導する約20億元のBラウンド資金調達を完了しました。
愛詩科技は2023年4月、「TikTok(ティックトック)」の開発会社である字節跳動(バイトダンス)の映像技術責任者を務めた王長虎氏が設立しました。主力サービスは動画生成AI「PixVerse」です。テック系メディア『36kr』によると、2026年8月にアリババ集団などが参加したシリーズC資金調達を完了し、累計調達額が29億8000万元に達しました。
人型ロボット業界、IPO準備が停滞か
人型ロボット業界については、IPOを目指す動きが今年夏までは盛んに伝わっていました。第91回でご紹介した智元機器人(AGIBOT)や、車輪走行型の双腕人型ロボット「量子(Quanta)」シリーズを展開する自変量機器人(X Square Robot)、四足歩行ロボットを開発する雲深処科技(ディープ・ロボティクス)、産業用の知能型移動ロボットおよび工場全体のスマート物流ソリューションに特化した広州藍海機器人系統などです。
雲深処科技は2026年5月に上海のハイテク新興企業向けの市場「科創板」への上場申請を提出しました。一方、『科創板日報』によると、広州藍海機器人系統はIPOに向けた手続きを開始しており、早ければ2026年末に香港証券取引所に上場申請書類を提出し、2027年に上場する見通しとされていました。ただ、中国当局による「窓口指導」が伝わって以降、目立った動きがありません。




