今回は、過去の「あの銘柄を買ってみた!」で取り上げた銘柄について、その後の値動きがどうなったかを追跡します。第1回目で取り上げたFOOD & LIFE COMPANIES(以下:F & LC、証券コード3563)について見ていきたいと思います。
F&LC株は、2022年7月5日の終値が2692円で、1カ月後、8月5日の終値が2345円、この間、345円(-12.9%)の下落と大きな下げとなりました。
さて、この後の株価はどうなったでしょうか?
2022年7~8月の水準から株価は大幅上昇
2023年4月25日の終値は3210円となっています。配当や優待、税金等を考慮せず、単純に終値でみた場合、2022年7月5日終値2692円との比較では518円(+19.2%)の上昇、同年8月5日の終値2345円との比較では865円(+36.9%)の上昇となります。この間の値動きは以下のようになりました。
下落トレンドが続いていたところから、ガラッと流れが変わって2022年後半から上昇トレンドに転じています。動きが変わった背景には、3つの要素がありました。
①値上げの実施
F & LC社が展開する「スシロー」では、2022年10月1日に価格改訂(値上げ)を実施しました。スシローは1984年の創業以来、1皿100円(税抜き)での価格提供を38年間続けていました。このリーズナブルさが成長を支えた側面はありましたが、様々なコストが上昇する中、企業努力だけで価格を維持することが厳しくなっていました。
投資家目線では、インフレ下における低価格戦略は、利益を圧迫され続けるという懸念があります。価格へのこだわりはあったでしょうが、値上げの実施は業績面での不安を和らげる材料になったと推測されます。
②しっかりお詫び
F & LC社は2022年11月1日に、「弊社の不適切な告知に関するお詫び、並びに、お客さまの信頼回復に向けた取り組みについて」というリリースを出しています。ここで、キャンペーンや告知・広告の方針を一新することや、これまで以上に顧客に寄り添ったサービスを提供することを明言しています。リリースを出せばそれで禊が終了というわけではありませんが、会社として過去の不祥事としっかり向き合ったことは印象づけられました。
③23.9期は増益計画
業績面では22.9期3Qの決算発表時(2022年8月4日)に、通期見通しの下方修正を発表しました。ちょうど値動きを見ていた7月5日~8月5日の間にリリースが出てきており、この時にはまだ下げ止まりを期待できるような状況ではありませんでした。ただ、22.9期(本決算発表は2022年11月4日)に関しては、この下方修正した数値を上振れて着地しました。そして、新しい23.9期に関しては、増収増益の計画を出してきました。
答え合わせの回で『前途多難ではありますが、この先、株価が反転できるかどうかは、まずは社内で今回の件をしっかりと受け止めて、同じような問題を起こさないような体制を作ることができるかが重要でしょう。その上で、(1)月次に改善傾向が見られるか、(2)今22.9期で膿を出し切り、来期(23.9期)には増益計画を提示できるか、といった点が注目されます。』と触れましたが、お詫びで膿をいったん出し切り、23.9期の増益計画を提示できたことで、株価の流れも変わってきました。
安値圏で出来高が増加
株式投資のテクニック的な話をすると、株価が切り返すよりも前に、安値圏で出来高が増加していることが見てとれるかと思います。一般的に悪い材料が出てきて株価が下げ続けている銘柄は、買いたい投資家が少ないため、なかなか出来高が増加しません。言い換えると、安値圏で出来高が増えているというのは、「いろいろあったけど、そろそろ買っても良いのでは」と考える投資家が増えてきた→底打ち時期が近いと考えられます。2022年9月辺りから出来高が増えていますが、同社は9月決算銘柄ですので、優待の権利取り目的の買いが下値を支えたという側面もあったように思われます。
谷が深いと山も高い
値動きを見ていた期間は、悪材料が出てきて株価も下落が続くといった状況でしたが、反転した後の株価は強い動きが長く続いています。上でも下でもトレンドが強く出ていた銘柄は、その逆の動きも大きなものとなることがよくあります。
なお、株価が強かった時期がF & LC社にとって必ずしも順風満帆であったわけではありません。2023年1月には来店客の迷惑行為が動画で拡散され、同社の株価も1日で時価総額が160億円近く消失したといったことが話題となりました。ただ、その後の値動きを見ると、ネガティブな反応が一時的にとどまったことがわかります。
株式投資は先のイメージの連続
F & LCは、値動きに注目した1カ月ではパフォーマンスが悪かったですが、その後の値動きには大きな変化がありました。時が経てば下落基調が続いていた銘柄が何でも戻るわけではありませんが、課題を克服すれば市場の評価も変わってくるという好例ではあったと言えます。
ただ、だからといってこの先も強い基調が続くとは限りません。これが株式投資の面白いところであり、やっかいなところでもあり、奥深いところでもあります。
今置かれたところから先の株価がどうなるかを自分なりにイメージし、折に触れて検証する。これを繰り返すことで経験値が積まれてきます。こういったことを楽しんでやれるようになってくると、パフォーマンスの向上にもつながります。