大気汚染も戻ってきた
3月上旬、北京の空を覆っていたのは黄砂による大気汚染でした。私が現地を訪れていた3月10日午後のPM2.5値は197。日本では日平均値が70超になれば「不要不急の外出を控える」目安になりますが、それをはるかに上回っています。より粒子が荒いPM10値は500。大気汚染の観測アプリの多くは最高値を500としており、それ以上の数字は出ません。500と示されていれば、実質的に「超標」(メーター振り切り)です。目がショボショボするのも仕方なかったかもしれません。「ゼロコロナ政策の解除や経済の回復と共にPM2.5も戻って来ました」と冗談交じりに語る声も聞かれました。
一難去ってまた一難。新型コロナウイルスの感染拡大が一巡したと思ったら、今度はインフルエンザが蔓延しています。知人は「コロナ感染は逃れたものの、インフルは防げなかった」と嘆いていました。「大流行」とまでは言えませんが、小学校の学級閉鎖が散見され、「2月下旬頃から体調が悪そうな人がやや増えている」と感じている人にも会いました。
追い打ちをかけるように花粉症も広がりを見せています。かつては、中国で花粉症という言葉を聞くことはほとんどありませんでしたが、ここ数年で発症する人が目立っています。北京では「承徳(北京の北東約250キロに位置)周辺での植林によりスギ花粉が飛んでくるようになった」との説も聞かれました。花粉の増加は、砂漠化防止のための植林事業の副作用なのでしょうか。なかなかうまく行かないものです。
生活面ではこれらの様々なトラブルがありますが、ゼロコロナ政策の解除を受けて消費市場は回復基調にあります。特に外食産業の賑わいが目立ち、北京の商業モールのレストラン街はどの店も満員や長蛇の列。3月上旬に訪れた、庶民的な中華料理屋、接待などでも使われる北京風羊しゃぶしゃぶのレストラン、人気チェーン店のロシア料理を出す店などはいずれも満員状態でした。上海は「人気店はコロナ禍に関係なく変わらず人気。閑古鳥のところは相変わらず閑古鳥」という状況ですが、北京はどの店も満遍なく入っている印象を受けました。背景には、モールの数や集中エリアが違うことがあるのかもしれません(上海は多くの選択肢があり人出がややばらけているとも言えます)。
外食産業の顕著な回復
北京の知人からは「高級ホテルでも1週間前から予約満杯のケースもある。出張客が急増し、人流が急速に改善している」と聞きました。高級ホテルの中国大飯店(チャイナワールドホテル シャングリ・ラ)や、日本人にも馴染みが深い長富宮飯店(ニューオータニ)が一時満室になったことも現地で話題になったそうです。
自動車の通行量もほぼコロナ前に戻り、市内各地で朝夕の渋滞が起きています。日中もプチ渋滞が見られるため、それを避けてシェアサイクルの利用者も増えているよう。料金は1.5元(約30円)/30分程度です。私も大気汚染の中、渋滞する車を横目にせっせとペダルをこぎました。
地下鉄も混み始めてきました。北京の地下鉄の1日当たり利用客数は、2月以降のウィークデーは軒並み1000万人超え。昨年の過去最高記録が838万4900人(22/1/7)だったので、それを上回って推移しています。
3月15日発表の中国の最新統計でも消費の戻りが示されました。23年1~2月の社会消費品小売総額は前年同期比3.5%増で、昨年9月以来、4カ月ぶりのプラス成長に回復しています。昨年はゼロコロナ政策に伴う行動規制や上海などの都市封鎖(ロックダウン)が影響し、3~5月及び10~12月にかけてマイナス成長。4月は前年同月比11.1%減まで低下し、消費の冷え込みが強く意識されていました。しかし、12月にゼロコロナ政策が実質解除されると、年末年始から1月下旬の春節(旧正月)にかけて消費が徐々に動き出し、成長の力強さが増しています。
外食産業も5カ月ぶりのプラス成長を果たしました。1~2月は前年同期比9.2%増で、ここ1年間で最も高い成長率。昨年3月は16.4%減、4月は22.7%減、5月は21.1%減と厳しい状況が続き、同12月も14.1%減まで落ち込んでいました。ただ、春節の帰省や宴会・結婚式需要の回復、行動規制の撤廃に伴う外食のハードル低下などに後押しされ、今年に入りV字回復を遂げています。
昨年3月から5月にかけては長春や上海などでロックダウンが行われ、北京の行動規制が厳しかったことも思い出されます。そのため、今年前半の統計は「発射台が低い(比較値が小さい)」こともあり、大きなプラス成長はほぼ間違いないでしょう。もちろん数字だけでは見えない実体経済の動きをつぶさに観察していく必要がありますが、隔離や都市封鎖などの懸念なしに普段通りの生活を楽しめることは、心理的にも消費市場のプラス材料になっていくでしょう。