中国現地Now!

中国現地Now!政策緩和と感染急増、混乱する中国市民

感染報告が止まらない


中国で新型コロナの感染者が急増しています。12月7日にゼロコロナ政策の大幅見直しが発表された後、街では急に陽性者が目立ち始めました。ワクチン接種の遅れや医療インフラへの懸念などは相変わらずで、感染拡大の波に怯える市民の姿が目立ちます。


「感染者が急増」と書きましたが、実は数字で確認することが困難になっています。中国政府が大規模なPCR検査を停止したばかりでなく、感染者の在宅療養方針を示したことで、正式な報告がほとんど行われていません。12月上旬まではスマートフォン(スマホ)の健康コードなどで感染者や濃厚接触者などの徹底的な確認・捕捉がされていたのとは大違い。衛生当局は毎朝、全国の新規感染者数を公表していますが、12月13日からは無症状者の集計を取り止めました。よって、11月27日に4万52人だった感染者数は、12月14日に1944人まで大きく減少しています。


もっとも、この数字を信じる人はほぼ皆無。周りの家族や知人、会社の同僚などが次々とコロナ陽性で倒れているのが現実です。上海に住む私の周りでも12月12日の週から急に増えてきました。毎日のようにメールで「陽性になってしまいました……」との連絡を受け、「気を付けてください。お大事に……」と返すのが日課になっています。出勤や外出自粛などの動きが広まり、街の賑わいは急速に失われました。感染拡大が進んでいる北京も同様。日本企業の中には、駐在員と現地スタッフ全員が感染したという例も聞きます。


中国はこれほどの大規模感染を経験したことがないため、市民は一様に驚き、一部パニック状態に陥っています。これまで「コロナは悪」のような見解や報道で一辺倒だったことも、現実を受け入れられない一因と思われます。国営メディアなどは今回の政策転換を大きく支持。つい先月まで「ゼロコロナ政策の堅持」をうたっていたのがウソのような手の平返しです。


国営の中央電視台(CCTV)は12月5日、専門家の話として、オミクロン変異株が肺炎など重い症状を引き起こす確率はインフルエンザよりも低いと報じました。「コロナは風邪」というやや極端な論もネット上を中心に広まり、予想通り風邪薬の買いだめや品不足が起きています。伝染病診療国家重点実験室の幹部からは「無症状感染者は病人ではない」との意見すら登場。北京市呼吸器疾患研究所のトップは「後遺症はないはずだ」と言い切りました。わずか2カ月前の10月には、中国疾病予防管理センター(CDC)疫学首席専門家の呉尊友氏が「後遺症は一般的に重症病例に見られ、軽症病例にも発生することがある」と強調していたのに……。ウイルスの変異よりも、専門家の変節を怖いと感じています。


風邪薬で乗り切れ!


 


準備や用意はそれほどせず、何かが発生してから全力で対処するお国柄。中国政府は今、矢継ぎ早にコロナ対応策を打ち出しています。まずはワクチン。1日当たりの接種回数がここに来て急増中で、12月9日には約半年ぶりに100万回の大台に乗せました。夏場以降、10万~20万回程度と低迷していましたが、ここに来て追加接種が進んでいます。ブースター接種比率(11/28時点で57.5%、うち60歳以上は68.8%)はこれから順調に高まっていくと思われます。


医療インフラを見ると、ICU(集中治療室)病床数は13万8100床あり、人口10万人当たり10床の水準に近付いたということです(12/9の衛生当局記者会見より)。直近1カ月でざっと2.5倍(約8万3000床増)になった計算です。ちなみに、人口10万人当たりのICU病床数は、日本は13.5床(18年)、米国は34.7床(20年3月公表)です。


当局は、医療水準が一番高い三級病院に対して総ベッド数の8%(転換可能な4%を含む)をICU病床にすることを求めています。また、各地に設けられた方艙医院(臨時医療施設)を一定の機能を持つ本格医療施設に改造するよう各自治体に要請しました。


一方で、感染拡大に伴い、ICU入院者数が270万人に上るとの推算もあり、13万床余りのキャパシティーでは全く足りません(もちろん一斉に入院するわけではないでしょうが)。中国ではかねてから、慢性疾患を患う重篤患者をケアする場所がなく、長期的にICUに滞在してしまうという問題があります。ICUをめぐり大胆なトリアージも行われるのでしょうか。


そして治療薬。当局は12月8日、「在宅治療ガイドライン」と合わせて常備薬リストを公表しました。カプセルや錠剤型の漢方薬を中心に20種類以上の薬が症状別に分類されています。この中のスター的存在は、石家荘以嶺薬業という上場企業が生産する中医薬製剤「連花清瘟」。薬局では売り切れ、値上げ、奪い合いなどが起きています。私の手元にはこの薬が3箱あるのですが、実は上海ロックダウン時に自治体から支給されたもの。これをささやかな武器として、この先に控える感染大爆発を乗り切るしかないのでしょうか。


もっとも、治療薬リストを中国の知人に見せたところ「ただの風邪薬ばかりですね……」という冷めた反応もいただきました。はい、確かにその通りです。中国ではコロナは実質的に風邪認定されたようなものですから……。


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東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長

奥山 要一郎

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。本社シニアストラテジストを務め、2015年より現職。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

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