伸びしろがあるコーヒー市場
中国でコーヒー文化がじわり浸透しています。大都市はもちろん、内陸部の中規模都市でもスターバックス(スタバ)の店舗を見かけることが多くなりました。「どの家にもコーヒーメーカーがあり、生活の一部になっている」とまでは言えないものの、カフェ形式の店が増えていることは事実。今年4月の報道によると、上海市には約7800店のカフェがあり、「カフェ密度世界1位」になっているとのことです。確かに街中では大型チェーン店からオシャレ系の人気カフェ、個人経営のミニ店舗まで、様々なお店を見ることができます。
中国のコーヒー市場は2013年から18年にかけて年率約30%の成長を遂げ、23年の市場規模は約1806億元になるとされます。25年には2171億元規模への拡大見通しもあります。一方、消費量はまだ出遅れています。スタバのナラシムハンCEOによると、中国の1人当たり年間コーヒー消費量は12杯で、日本の200杯、米国の380杯を大きく下回っているとのこと。これとは別に、ドイツが800杯以上、韓国が400杯以上、日本が300杯以上で、中国はわずか9杯に過ぎないとの分析もあります。
さて、中国発のカフェチェーンと言えば「ラッキンコーヒー(瑞幸珈琲)」でしょう。17年に中国コーヒー業界に彗星の如く現れた同社。“コロナ前”の19年末時点で中国店舗数は4507店で、スタバの4292店をすでに上回っていました。創業からわずか2年で名実共に中国最大手のコーヒーチェーンに成り上がった形です。今年6月末時点の店舗数は1万836店に達しています。
ただ、好事魔多し。19年4-12月期の売上高22億元分について架空取引などの不正が確認されました。19年通年売上高の約42%に相当する額と見積もられますが、コーヒーなどの注文数を水増ししていたとのことです。私は当時、皮肉を込めて、「いくらアメリカンが好きでも、ここまで水増しして薄める必要はないのに!」というジョークを言ったものです(全然ウケませんでした)。
22年開業の新興チェーン「庫迪珈琲(COTTI COFFEE)」の店もよく見るようになりました。同社は、ラッキンコーヒーの元経営者が創業メンバーを集めて立ち上げたブランド。今年10月時点で世界28カ国・地域に進出し、店舗総数は6061店に上り、世界4位のコーヒーチェーンになったとのことです。25年に2万店を目指すとの目標もぶち上げました。今年9月には東京・池袋にもオープンしたので、日本での存在感が今後高まっていくかもしれません。
白酒コラボでバズったラッキン
現地の視点から見るコーヒー事情はどのようなものでしょうか。サンプルがそれほど多くはありませんが、私の経験から語ってみたいと思います。
まずはスタバ。どの店も朝から夜まで賑わっています。看板商品は他店に比べるとやや高いので、数年前までは「見せびらかし」消費の代表格でした。「洗練された店内でラテを飲みながらPCで仕事をする」ことが一種の自己満足に繋がり、その姿を(わざわざ)SNSにアップすることで他者からも認められる――。このような一連の流れを多く見た気がします。さすがに今では少なくなりましたが。
ラッキンコーヒーは基本的にスマホオーダーで、持ち帰り専用のカウンターのみ(イートインコーナーはなし)という店舗が多いです。出勤中の地下鉄やバスの中からオーダーし、会社の最寄り店舗でコーヒーを受け取りそのまま出社する、というスタイルもよく見ます。また、ランチ後に散歩しながらオーダーし、これまた店で受け取ってオフィスに戻るという人もいました。持ち帰りに加えてデリバリー(出前)も充実しているため、特に都市部の中国人のライフスタイルに合った経営モデルが受け入れられているようです。
中国のホテルの朝食会場で本格的なエスプレッソマシンを置くところも多くなりました。セルフ式がほとんどで、好みの味や濃さでモーニングコーヒーを楽しむことができます。かつては、ポットに入ったインスタントコーヒーや甘ったるい「コーヒー風飲料」が提供されることもあり、今でも地方部ではこのスタイルが残っています。ただ、都市部のホテルのコーヒーレベルは格段に上がってきました。コーヒー党の私にとってはうれしい限りです。
さて、今年9月にはラッキンコーヒーが「白酒ラテ」を発売したことが大きな話題になりました。白酒の最大手、貴州茅台酒とのコラボ商品で、中国語名は「醤香拿鉄(醤香ラテ)」。アルコール度数は0.5%未満とのこと。「醤香(ジャンシャン)」は白酒の香型の一種で、茅台酒がその代表格です。1杯38元と高額でしたが、初日売り上げは全国で1億元に上りました。一時はSNS上にこのコラボ商品の写真が溢れ、“バズり”という意味でマーケティング面では大成功を収めました。これからも各チェーンの市場競争が激しくなると見られ、中国コーヒー市場に引き続き注目です。