一杯8元の幸せ
今年の元旦、私は甘粛省の瓜州という小さな街で朝から牛肉麺をすすっていました。街に2軒しかない外国人宿泊可のホテルでの一コマです。朝から麺? そうなんです。朝メシならぬ「朝メン」。中国では地域によって朝食に麺を食べる習慣があります。
その代表格の一つが「蘭州牛肉麺」です。名前の通り、甘粛省蘭州の名物料理。牛肉からスープのダシを取り、トッピングにも牛肉を使うなど、まさにウシ尽くし。モチモチの手打ち麺とコクのある透明なスープが特徴です。ネギやパクチーをたっぷり入れ、ラー油で味を引き締めます。自家製オリジナルのラー油を提供している店もあり、そのピリ辛さと香ばしさが店内に広がっています。
現地の店では、夜が明ける前から湯気が立ち上り、市民も列をなして朝一番の麺を食べに駆け付けます。蘭州のみならず、甘粛省各地の牛肉麺屋さんでよく見られる光景です。
個人的に一番のおススメ店は、蘭州に本店を構える「馬子禄(マーズールー)」。私はお昼時に訪れたのですが、それでも店内は満員でした。友人同士や家族連れ、カップルや一人飯……。様々な人たちが一杯の牛肉麺を幸せそうにすすっています。私も皆に倣って本場の麺を注文。麺、スープ、具材が三位一体となった牛肉麺に、香ばしいラー油をかけて食べるのはこの上ない贅沢です。一杯8元(約160円)という安さも魅力的。「メンクイ」の方はリピート必至でしょう。東京にも支店があるので、機会があったら食べてみてください。
なお、麺の太さが指定できるのも興味深い点です。種類は店によって異なりますが、基本的にはそうめんのような「毛細」から極太の太麺「大寛」まで揃っています。一例で、細い順に「毛細」⇒「細」⇒「三細」⇒「二細」⇒「韮葉」⇒「寛」⇒「大寛」など。定番は「二細」なので、迷ったらこの太さをオーダーしましょう。
朝から辛さと戦います
湖北省武漢では「熱干麺」が有名です。B級グルメの類ですが、シンプルなピリ辛ゴマ風味の汁なし面で、たれと麺をよく混ぜながらいただきます。卑近な例で恐縮ですが、私が武漢で初めて食べたとき、「これはペヤングの味とそっくり!」と感じました。思ったより辛くて重い味だけど、なんだか懐かしい。個人差はあるでしょうが、恐らく多くの日本人に受け入れられるのではないでしょうか。
武漢に行くと、朝は屋台風の店や食堂でこの熱干麺を食べるのが楽しみの一つです。先日訪れたお店は、朝7時過ぎにもかかわらず店の外にはみ出るほどの列ができていました。私もその列に並び、熱干麺と豆乳をオーダーし、現地の人と相席で朝食を楽しんだものです。
さて、内陸部の重慶では、これまた名物の「重慶小麺」が外せません。朝ごはん、いや、朝麺業界のチャンピオンとも言える存在です。
麺はやや細め。汁ありと汁なしを提供する店がほとんどですが、いずれも濃い赤色の香辛料がふんだんに入っています。唐辛子の辛味(辣)だけでなく、花椒と呼ばれるスパイスの痺れるような辛さ(麻)が特徴。辛党の方は病みつきになってしまうこと請け合いです。エンドウ豆とひき肉が入った「豌雑麺」が一番ポピュラーなメニューです。現地では15元程度で味わえます。
注文の際、麺の量を聞かれることもありますが、「二両」か「三両」とするのが一般的。本来は「両」は約50グラムを指すのですが、現地では「小が一両、中が二両、大が三両」という大雑把な分け方になっているようです。「二両」が普通盛り、「三両」が大盛りという具合でしょうか。
さて、話は蘭州牛肉麺に戻ります。甘粛省の嘉峪関に出かけた時のこと。ライドシェアでいくつかの観光地を巡った後、ランチを食べようと思い、ドライバーに「この街で一番美味しい牛肉麺屋さんに連れて行って!」と頼みました。ご当地グルメは、やはり地元の人に聞くのが一番です。やって来たのは市中心部の「塞拉宮」という大型店。「二細」の打ち立て麺に、煮卵と野菜の付け合わせもオーダーしました。氷点下の天気の中、温かい牛肉麺が身に沁みます。
私が麺を食べている間、ドライバーの方は隣の餃子屋さんに行っていました。朝は麺、昼は他のものと食べ分けているのでしょうか(いずれも「粉もの」ですが)。グルメ話を膨らまそうと、「やっぱり麺は朝食ですよね!」と勢いよく聞いてみると、返って来たのは「いえ、私はパン派なので……」という答え。はい。皆が皆、「朝は絶対に麺!」というわけでもなさそうで……。