誰もが持つWeChatとアリペイ
中国の生活シーンにおいてスマートフォン(スマホ)の存在感が日に日に高まっています。大げさではなく、スマホがないとスムーズに暮らせないほど。日常生活に加え、仕事、旅行や出張など様々な場面で各種アプリが必要な時代になってきました。その中で中国人なら誰もが持っている、使っているのは、いわゆる“スーパーアプリ”と呼ばれるもの。代表格はテンセント系の「微信(WeChat)」とアリババ系の「支付宝(アリペイ)」です。今回は私の経験を踏まえてその実態を紹介してみます。
中国で暮らす人のスマホのホーム画面には、必ずと言っていいほどグリーンの微信とブルーの支付宝のアプリがあります。最低限、この二つのアプリがあれば生活に苦労しません。かつては、前者はチャットや小額の支払いやワリカン、後者はまとまったお金の支払いなどの使い分けが一般的でしたが、最近では各アプリの中に様々なサービスが盛り込まれ、ミニアプリ(アプリ内アプリ)を活用できたりと、ワンストップで何もかもが済むようになっています。
例えば出前(フードデリバリー)を頼むとき。代表的なアプリは「美団(メイトゥアン)」や「餓了麼(ウーラマ)」ですが、それらのアプリを開かなくても、前者はテンセント系なので微信から、後者はアリババ系なので支付宝から直接サービスを利用できます。微信の中にある「美団」という文字をタップすれば出前ページに自動的に遷移される仕組みです。支払いもシームレスで行えるため、非常に便利です。
もう一つの例は配車サービスの「滴滴(ディディ)」。私も出張や旅行時によく使いますが、滴滴のアプリではなく、いつも支付宝内の滴滴コーナーからアクセスしています。もちろん使い方やサービス内容は一緒。スマホ内のアプリが多く探すのが煩雑なときもあるので、「とりあえず微信や支付宝のアプリを開けば何とかなる」といった感じです。他にも、ネット通販、シェアサイクル、鉄道・飛行機・ホテルなどの予約、映画チケット購入、公共料金の支払いなどもスーパーアプリ経由で行えます。慣れてしまうと手放せくなるほど重宝しています。
コロナ禍でも大活躍
また、新型コロナ禍の下で、中国では至る所で健康コードや行程コードの提示が求められます。これは、スマホのGPS機能と連携し、個人の行動履歴を記録したもの。コロナ発生のハイリスク地域に立ち寄ったかどうかなどを示すもので、問題がなければグリーンのQRコードが生成されます。PCR検査の有無などの情報も入っているこのコードを、オフィスビルやショッピングセンター、ホテルのフロントや鉄道・地下鉄乗車時に提示することが今や生活の一部になってきました。これらも微信と支付宝から操作します。
とても便利なスーパーアプリですが、使用に際しては個人情報を晒し出さなければなりません。名前や身分証明書(パスポート)番号、携帯電話番号、銀行口座との紐づけは必須。健康コードの行動履歴も、コロナ対策と言えば聞こえはいいですが、個人がいつどこに滞在していたかが第三者に知られてしまうため、扱いを間違えると大変なことになってしまいそうです。
私も先日、似たような経験がありました。突然見知らぬ番号からかかってきた電話を受けると、「すいません。昨日、○○通りに行っていましたよね」と聞かれました。電話の主は街道(基層行政組織)の担当者。確かにその近くに行っていたので、思わずビックリしてしまいます。理由を聞くと、その近くでコロナ陽性者が出たので、濃厚接触者の確認をしているとのこと。移動履歴と共に個人名や携帯電話番号も分かってしまうので、中国ではこのような捕捉は容易です。日本ではよく監視社会と揶揄される出来事ですが、実際はそこまで深刻ではなくとも、何か事件・事故が起きたら関係者がすぐに特定されるのも事実です。
とは言え、スーパーアプリがないと生活が立ち行かないのも事実。商店やレストランでは支払いの際に「微信支付宝都可以!(微信と支付宝、どちらでも大丈夫だよ!)」と声を掛けられます。スマホがない人はどうするの?という疑問や質問は、中国から見るとハッキリ言って野暮。お年寄りの方も現代の生活に追い付こうと必死にスマホの使い方を学び、困ったら近くの人に「これ、どうやって使うの?」と遠慮なく聞くこともしばしばです。聞かれた側もすぐに操作を手伝ってくれます。様々な問題もありますが、「生活の便利さを追求する」という一点を重視し、皆が今日もスマホ、そしてスーパーアプリを使っています。