1日当たり観光客はなんと1億人超へ
中国は秋の大型連休を前にソワソワ感が強まってきました。今年は中秋節と国慶節が合わさる形となり、9月29日から10月6日までの8連休。この前後で有給休暇を取り、10連休以上とする“ツワモノ”もいます。
中国旅游研究院の予想では、連休期間中の国内旅行客は前年同期比113.3%増の延べ9億人に上るとされます(2022年は7連休でした)。単純計算で1日平均1億人の観光客が各地を訪れることになります。帰省や仕事の人もいるので、まさに“民族大移動”の様相を呈しそうです。
直近の国慶節連休の国内旅行者数を挙げてみると、“コロナ前”の19年は7億8200万人に上りましたが、20年は6億3700万人、21年は5億1500万人、22年は4億2200万人と右肩下がりでした。今年は前述のように前年の2倍以上の9億人まで膨らむ予想。19年の数字も上回りそうなので、中国の観光業界は「完全復活」と言えるのではないでしょうか。
少々細かくなりますが、いくつか数字を羅列してみます。中国の旅行市場は今年に入りまさにV字回復を遂げており、上半期の国内旅行者数は前年同期比63.9%増の23億8400万人になりました。中国旅游研究院は今年通年で、2019年の9割水準に当たる55億人まで回復すると見ています。輸送面もフル稼働状態で、1~8月の旅客輸送量は鉄道が同111.2%増の26億500万人、航空が同122.4%増の4億1016万人となりました。確かにどこに行っても何に乗っても満員状態が多かった気がします。
一方、海外旅行ニーズは回復途上と言えます。今年上半期は4037万人でしたが、19年は通年で1億5500万人が海外に出かけていたので、まだまだ物足りない数字。本格復活は来年以降になると見られています。海外旅行の人気自体は高いので、ネックである航空会社の輸送力やビザの問題などの解決が待たれるところでしょう。OTA(オンライン・トラベル・エージェンシー)最大手のトリップドットコム・グループ(09961)も、中国の観光業(国内+海外)の完全回復は24年になるとの見方を示しています。
連休中の人気観光地は?
さて、連休中の人気旅行先ですが、やはり大都市が中心です。トリップドットコムの調べによると、人気TOP10は、上海、北京、杭州、成都、広州、西安、重慶、深セン、南京、長沙。これらの都市は上位常連組で、地方部から沿岸大都市へという流れが多いようです。近年は、グルメや自然が楽しめる成都、写真の“映えスポット”が多くある重慶、夜間経済が盛り上がっている長沙の人気も増している気がします。
一方、長期休暇ならではの目的地としては、三亜(海南省)、ウルムチ(新疆ウイグル自治区)、蘭州、敦煌(以上、甘粛省)などが挙がってきます。最近はシルクロードや河西回廊など「西北地区」の人気も上昇中。色とりどりの丘陵景観が美しい七彩丹霞風景区(甘粛省)、「中国のウユニ塩湖」と称されるチャカ塩湖(青海省)、田舎の風景と建物が美しい大理や麗江(雲南省)などが代表的観光地になるでしょうか。
もちろん、各地が観光客で混雑することは必至。どこに行っても「人山人海」(黒山のような人だかり)となること請け合いです。最近の定番は、激混みの観光地で動画を自撮りすること。困ったような顔で「来て後悔したー」という叫びも添えます。この様子が抖音(ドウイン)や快手(クァイショウ)などのショート動画アプリに多数投稿され、バズるものも出てくるでしょう。連休ごとに繰り広げられる「お約束」です。そんなに後悔するなら行かなければいいのに、とも思いますが、「アイツが行くならオレも行く」のような右へ倣えタイプの人が多いお国柄。こんなアグレッシブで前向きな人たちが中国の観光産業や消費市場を支えているのも事実です。
さて、私はと言えば、昨年の国慶節で忘れられない思い出があります。1週間の旅行計画を立てていたのですが、連休開始直前にトリップドットコムのカスタマーセンターから1本の電話が来ました。これまで何回も経験している外国人お断りのお知らせかなぁ、と思っていたら、「すいません。お客様の予約したホテルが明日から隔離施設になってしまうもので……キャンセルせざるを得ません」とのこと。当時はゼロコロナ政策の真っ只中で、検査や隔離が徹底されていました。感染者の増加に備えた政府による施設確保(接収)の動きらしいのです。旅行先で隔離に遭ったら大変。スケジュールを全てキャンセルし、遠出もせずに家で過ごしました。今は突然隔離に遭うリスクがなくなり、自由に移動できるだけで本当に幸せです。ゼロコロナは遠くになりにけり……。