道端で繰り広げられる出前品の受け渡し
「必要は発明の母」ということわざがありますが、中国ではこの言葉が当てはまる場面をよく見ます。サービスが行き届かなかったり不十分な場合、デジタルやアナログを総動員して半ば強引に業務を進めます。ビジネスは考えながら前進するのが中国流。結果オーライとなれば全て良し。今日も街で様々な“発明”が見られます。
先日、「中国の秋葉原」との異名を持つ深センの電気街、華強北(ファーチャンベイ)を訪れた時のこと。ランチタイム時で人通りが多く、フードデリバリーのバイクも大きな通りから小さな路地までせわしなく走っていました。
そんな中、ビルの前や道の真ん中などでバイクに声をかける中年女性を多く見かけました。彼女らはこれから配送される弁当や飲み物をたくさん抱えています。首からかけるのは微信のQRコードのプリントアウト版(イベント時に使用する参加証のようなイメージです)。何が行われているのだろうか……。私は一瞬、ワケが分からなくなりました。
仕組みはこうです。フードデリバリーのスタッフは注文品を家やオフィスまで届けなければなりません。ただ、小規模商店やオフィスが入る雑居ビルで各戸まで届けるのは時間のロスになり、配送先を探すのも一苦労。そこで、ビル内への配送代行者がどこからともなく現れ、道端でフードデリバリーのバイクスタッフと交渉開始。「出前のラストワンマイル」を引き受けます。相場は1件当たり2元程度のよう(彼らを観察して聞き取りました)。前述のQRコードを介して支払います。いやはや、こんなビジネスは初めて見ました。
大きなオフィスビルでは、1階入り口脇などにスマートロッカーが用意され、そこで「置き配」のような形で商品の受け渡しを行うこともあります。ただ、深センで目にしたのは人力による超アナログなリレー方式のお届けサービス。特に形式ばらずに勝手に行っており、お金の接受も個人間のやり取りのみ。表には出てこないチャイナビジネスとでも言えましょうか。
ただ、気になったのは、ラストワンマイルの担当者の出前品の収集方法。効率良く届けたいがために、数件受け取ってからまとめてお届けという形にしているようです。その間に弁当は冷めてしまわないのか、コールドドリンクの氷は全て溶けてしまわないのか……。届ける側は様々な工夫をしているのかもしれませんが、受け取る側としてはいろいろ心配してしまいます。届くだけでありがたいと考えるべきなのでしょうか。
ソフトではないソフトの押し売り
中国ではこのようなおせっかい、もとい、痒いところまで手が届くサービスが数多く見られます。先日、マクドナルドを訪れた時のこと。昼食後にコーヒーを飲もうと思い、タッチパネル式の自動注文機の前に立ちました。すると、どこからともなくベテラン店員らしき人(これまた中年女性でした)が登場。彼女曰く、「コーヒーを飲むのね!今なら1元プラスでソフトクリームが食べられるわよ。はい、このQRコードをスキャンして!」。強引なセールスにこちらはタジタジ。断る余地も理由もありませんでした。
半ば強制的に彼女のスマホ上のQRコードを読み取らされると、今度は慣れた手つきで私のスマホをスワイプやタップで勝手に操作し始め、気が付いた時には何かのチャットグループに入れられていました。「はい、これでOK。この画面をカウンターで見せれば大丈夫よ」。何が大丈夫なのかよく分かりませんでしたが、結果的にはコーヒーにプラス1元でソフトクリームをゲットすることができました。特に食べたかったわけではないものの、1元ソフト自体はとても美味しかったです。
彼女はその後も店内を回り、客に対して「今なら1元でソフトクリームを食べられますよ!」と巡回営業を行っていました。ソフト販売の歩合制なのか、チャットグループの登録者数によるボーナス上積みなのか。いずれにせよ、あちらの立場からすれば「1元ソフトはおトクだし、それをみすみす逃すこともないでしょう」という思いなのでしょう。こちらの好みをあまり考えてくれないのが玉に瑕ですが。
こんなことを考えながら宿泊先のホテルに行くと、フロントロビーや客室フロアの廊下をサービスロボットが忙しそうに動き回っていました。宿泊者が外部に出前を頼み、配送スタッフがフロントまで届け、それをロボットが各部屋まで運ぶという一連の流れです。このスタイルはかなり普及しており、配達中のロボットとエレベーターに相乗りすることも普通です。
出前市場のラストワンマイル。かたや人力、かたやロボット。かたやアナログ、かたやデジタル。中国では様々なスタイルが同居し、いろいろなビジネスチャンスがあるものです。