中国現地Now!

中国で旅行ブーム再燃か、海外渡航はそろりスタートへ

帰省ラッシュが復活


中国で春節(旧正月、今年は1/21)を前に、旅行や親族訪問などのニーズが高まりを見せています。約3年にわたるゼロコロナ政策により厳しい行動規制が実質的に解除され、市民は歓迎ムード。「今年こそは帰省しよう」「春節は家族揃って旅行に行く」という声もよく聞きます。


交通当局の見通しでは、春節期間中の旅客輸送量(春運、今年は1/7~2/15)は20億9500万人に上るとのことです。2022年の10億6000万人からほぼ倍増。“コロナ前”の19年(26億8000万人)と比べると約78%の規模になります。駅や空港での混雑が戻ってきそうです。


一方、新型コロナの感染再拡大も懸念されています。都市部では特に12月中旬以降に陽性者が急増し、北京や上海、広州などでは大部分の市民が一度はコロナに罹っている状況。そして、春節前後から2月にかけて地方部・農村部が感染のピークを迎えると言われます。昨年までは「就地過年(その場で年越し)」というスローガンの下、帰省を諦めて都市部で春節を過ごした人も多かったのですが、今年はその反動で帰省客が大幅に増えそう。人の活発な移動は感染拡大につながるという経験則があるため、やや心配な面もあります。


私が住む上海では知り合いの7~8割がすでに感染してしまいました。症状はまちまちですが、多くの人が39~40度の高熱、全身の痛みやだるさ、刺すような喉の痛み、激しい咳、味覚・嗅覚障害などを経験しました。私が聞いた範囲では、ファイザーやモデルナなどmRNAタイプのワクチンを接種した人(ほとんどが外国人)は症状が比較的軽く、回復までの時間も短かった印象です。一方、それ以外の人はそれなりに苦しんだようで、知人は「人生で一番つらかった」「もう二度と経験したくない」とボヤいていました。


海外渡航を阻むいくつかのハードル



さて、中国では1月8日付で入国者の施設隔離など厳格な検疫体制が終了するため、中国人の海外旅行が増えると言われています。日本でもインバウンド需要への期待の高まりがあるでしょう。ただ、大きな期待は禁物。急増するというよりは、春から夏にかけて徐々に回復するというイメージでしょうか。


「中国からのアウトバウンド」という観点で考えると、海外との自由往来にはいくつかのハードルが残ります。主な点は以下の通りです。

◆一部の国・地域による、中国からの訪問者に対するフライト搭乗前及び目的地到着後のコロナ検査義務化

◆中国人のパスポート発行の遅滞(ここ1年間ほどは新規・更新共にストップしていた)

◆渡航ビザの発給遅延(一部の国・地域は「緊急」「人道支援」以外の目的のビザ発給を一時停止していると伝えられる)

◆まだ少ないフライト数&やや高額な航空チケット代

◆団体ツアーは未解禁(水面下ではプレ募集が進んでいるかもしれない)


海外旅行が実質解禁されたと言っても、パスポートとビザがなければ動けません。パスポート発行業務は昨年12月頃から徐々に再開し始め、1月8日から本格的に進んでいくようです。実はこの1年間ほど、新規発行はおろか更新できない状態が続いていたので、取り直しになる市民も多いと推測されます。まずは旅券取得から始めなければなりません。


国際線フライトはだいぶ増えてきましたが、往時の半分にも満たないほどです。そのため、チケット代がやや高く、購入に二の足を踏む人も多いでしょう。ただ、この問題は早晩解決していくと思われます。3月下旬の夏ダイヤへの切り替え前後には航空各社が復便・増便を進めてくるのではないでしょうか。これらを踏まえると、中国人の海外旅行の本格的な再開は4月から5月以降となり、夏場にかけて徐々に伸びていくと考えられます。


一方、最大のリスクは中国発の新型コロナ変異株の出現です。もし本当に出現すれば海外との往来どころではなくなる可能性大。中国人の海外渡航も、外国人の中国訪問も相当冷え込むでしょう。こればかりは何とも言えないので、予想は困難です。ただ、中国政府は水際対策の撤廃を不可逆的なものと位置付けており、ゼロコロナ政策のような厳しい検査・隔離時代に逆戻りする可能性は低いと思われます。万が一、そのようなことになったら、経済的にもかなりのネガティブ材料になってしまうでしょう。


いずれにせよ、時間はかかるかもしれませんが、中国及び中国人の海外との繋がりがほぼ3年ぶりに正常化していくことは既定路線。この推移を注意深く見守りたいと思います。


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東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長

奥山 要一郎

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。本社シニアストラテジストを務め、2015年より現職。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

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