突然の方針転換に市民も混乱
各種ニュースで報じられているように、中国でゼロコロナ政策の大きな見直しがありました。衛生当局が12月7日、PCR検査対象の縮小や隔離体制の見直しを発表し、日常生活の足かせが少なくなりました。現地では「放開了!(開放だ)」の声が上がり、厳しい規制からの脱却を歓迎するムードで溢れています。ただ、PCR検査が少なくなったことで、「見えない陽性者」の増加が予想されています。私の周りでも陽性「らしき」人が増えてきました。中国の新型コロナとの戦いはこれからが本番です。
政策見直しの動きはまさに電光石火のようでした。衛生当局は11月11日に濃厚接触者の集中隔離期間短縮や二次接触者の判定取り止めなどを発表。旅行やイベントの規制緩和方針も出ました。一方、厳格なロックダウン(都市封鎖)及びゼロ政策自体への不満が高まり、11月下旬には上海や北京、広州や重慶などで異例の抗議活動が広がりました。その後、現場レベルでは半ばなし崩し的な封鎖解除やPCR検査中止が続出。政府はこれを追認する形で矢継ぎ早に緩和策を出してきました。その最新版が、冒頭にある12月7日発表の緩和策です。「PCR検査対象と頻度の縮小」「無症状者と軽症者の自宅隔離容認」など10項目からなります。これまでは感染者は有無を言わさず強制的に隔離施設行きだったのと比べると大きな違いです。
私が住む上海でも、地下鉄などの乗車時、レストランや商業施設などに入る際のPCR検査陰性証明の提示が不要になりました。ただ、一部では「場所コード」「健康コード」と呼ばれるQRコードのチェック(スマホでのスキャンなど)が残っており、痛し痒しと言ったところです。
しかし、よく考えてみれば、ランチを食べに行くだけで陰性証明が必要なこと事態が異常でした。昨年の今頃は、普通に地下鉄やバスに乗り、飲食施設も自由に出入りしていました。何のことはありません。我々は元のコロナ禍の生活を取り戻したに過ぎないとも言えるでしょうか。
それにしても、政府やメディアの豹変ぶりはすさまじいものがあります。つい1カ月前の11月までは「コロナは悪」「罹ったら差別される」などの考えも根強く、政府系メディアも「ゼロコロナ政策を堅持する」との立場を声高に強調していました。ところが、12月5日には国営の中央電視台(CCTV)が専門家の話として、オミクロン変異株が肺炎など重い症状を引き起こす確率はインフルエンザよりも低いと報じました。「コロナは風邪」というやや極端な論もネット上を中心に広まり、予想通り風邪薬の買いだめや品不足が起きています。さらには「軽症者は病気とは言えない」との声も出始め、市民はやや混乱しています。ここまで手の平を返せるものなのでしょうか……。何事も極端に振れやすい中国らしい出来事です。
感染拡大の大きな波は来るのか
「実は私も陽性だった」のような告白報道も相次いでいます。中国ではこの約3年間、感染者が差別されることが少なからずありましたが、政府の方針転換を受け、やっと感染者の声が届くようになりました。官製プロパガンダと言ってしまえばそれまでですが、政策次第で人の考え方や社会状況も一変するのを目の当たりにしています。正直、何を信じていいか分かりません。
さて、規制緩和の喜びもつかの間。中国現地ではこれから来るであろう感染増加への警戒感が高まっています。感染の大きな波を経験していなかった中国にとってはこれからが正念場。ただ、病院の病床不足、高齢者を中心としたワクチン接種の遅れ、コロナ治療薬の投入遅れなどもあり、大きな武器を持たないまま感染の波に対峙するかもしれず、少々恐怖を感じています。
科学雑誌「ネイチャー」(11/30付WEB版)は、中国が厳しい規制を解除した場合、オミクロン変異株の感染者数は1億6000万~2億8000万人に上り、高齢者を中心に130万~210万人が死亡すると試算しています。中国疾病予防コントロールセンターの馮子健・元副主任は12月6日、「(規制緩和後の)第一波で感染率は60%前後に達する。その後は平穏期となり、恐らく最終的には80~90%の市民が感染する」と語っていました。この場合、行動規制などが再度発令される可能性もあるのでしょうか。感染拡大と同じく、政策の揺り戻しには注意したいところです。