「網約車」「順風車」とは?
日本で今年4月に解禁されたライドシェア。その定義は通常、「一般ドライバーが自家用車で乗客を有償で運ぶサービス」とされます。ご存じのように、このビジネスは世界各地ですでに広まっており、日本は残念ながら大幅に出遅れていますが、それとは対照的に中国はライドシェア先進国の一つに数えられます。今回は、日常生活に欠かせない存在となったこのサービスの最前線をお伝えします。
まずは中国における「自動車旅客輸送業(バスを除く)」の規模を見てみます(以下、データはディダ出行(02559)の目論見書より)。同産業は大きく「出租車(タクシー)」「網約車(配車サービス)」「順風車(ライドシェア)」の三つに分けられます。2023年の市場規模は6160億元。24年は17.3%増加して7227億元になる見込みです。今後も右肩上がりで成長を続け、28年には23年比で約2倍の1兆2389億元に上ると予想されます。
23年の分野別シェアは、タクシーが54.2%、配車サービスが41.4%、ライドシェアが4.4%となっています。2年後の26年には配車サービスがタクシーのシェアを上回る見通し。28年の並びは、配車サービスが52.3%、タクシーが39.4%、ライドシェアが8.4%になると予想されています。
言葉使いで少々混乱するのですが、ここで言う「配車サービス」は「日本型ライドシェア」に相当すると思います。そして中国の「ライドシェア」は「相乗りサービス」と定義付けされます。同じ方向の目的地へ向かう人たちが相乗りすることを指し、現地では「●車」(●は手へんに并:ピンチャー)と呼ばれることもあります。
数字がまちまちで恐縮ですが、広義のライドシェア市場(配車サービス+ライドシェア)を23年の総取引額 (GTV)で計算すると、業界最大手は滴滴出行(ディディ)でシェア75.5%と圧倒的です。2位はT3出行の6.2%、3位は曹操出行の4.8%と続きます。最大手の滴滴はアプリ内で配車サービスやライドシェアなどのほか、タクシーも呼べるので、総合モビリティーサービス企業と言ったほうが良さそうです。
100人に1人は配車ドライバー
さて、ネット配車の月間注文件数は24年5月に9億4400万件まで膨らんでいます。「ゼロコロナ政策」時代の終盤、22年12月には5億400万件まで減っていましたが、その後は右肩上がりで復調。今年1月に9億件を突破し、5月の数字は直近最高件数です。中国全土で1日当たり3000万件の注文があることになります。
同じく今年5月時点で、営業ライセンスを取得している全国ネット配車プラットフォーム企業は351社を数えます。登録ドライバーは703万3000人、登録車両数は294万8000台です。
23年末の数字で比較すると、自動車ドライバー(免許保有者)の1.4%がネット配車の登録ドライバーという計算になります。また、自動車保有台数のうち0.8%がネット配車として登録されていることが分かりました。ざっくり言うと、ドライバーの100人に1人はネット配車として稼働できる状態にあるということでしょう。
なぜ「稼働できる状態」と表現したかというと、副業やアルバイト感覚で行っている人が多数いるからです。もちろん、配車ドライバーの中には、企業の専属ドライバーから脱サラしてフルタイムで働いている人や、高級タイプの配車(「専車」と呼ぶことが多いです)で営業するプロの運転手もいます。また、タクシー運転手から転職した「辞めタク」ドライバーもいます。一方で、「ついでに」「やむを得ず」という形で運転する人が大多数を占めるのも事実です。
私が会ったドライバーの中には、「年金だけじゃ生活費が足りないから、時々マイカーを使って働いている」という初老の女性もいました。運転に慣れておらず、道もカーナビ頼りという、かなりアマチュアに近い方でしたが……。「失業したから仕方なく配車ドライバーになった」という人や、「スキマ時間に小遣い稼ぎ」という若者にも会いました。空港のグランドスタッフの方が、職場までのマイカー通勤時に乗り合いを募るケースもありました。確かに空港に行く人は多いですからね。通勤のついでに客を乗せて稼げるので、一石二鳥と言ったところでしょうか。「ついで乗せ」を行い、ライドシェアをうまく活用しているなぁと感心したほどです。
先日、地方都市で呼んだ配車はなかなかのものでした。乗車場所に現れたのは4WDの立派な車。ドライバーは男性でしたが、助手席には奥様か彼女と思しき女性が座っています。どうやら外出(デート?)帰りのよう。他人のドライブ中にお邪魔するという形で、客である私が恐縮したほどです。やや気まずかったので、車内ではほとんど会話をしませんでしたが、女性はやや不機嫌な様子で「早く帰りたいのに、この人(男性)は小銭稼ぎのために何をやっているの」という雰囲気が強く感じられました。
配車サービスやライドシェアは中国独自の発展を遂げています。サービス内容や車のレベルは様々ですが、細かいことには目をつぶりつつも、ドライバーの運行経路は運営(プラットフォーム)側がスマートフォンのアプリでチェックし、車内録音が備えられセキュリティー面を重視する企業もあります。自由と管理が混在する中国のネット配車。これからも市民の足としてますますの利便性向上が図られていくでしょう。