中国現地Now!

「消費降級」で明暗、外食チェーンの激しい争い

海底撈は回転率がアップ


香港市場で上場企業の2023年12月期決算が出揃ってきました。23年はゼロコロナ政策終了後の「初年度」に当たったため、どれだけ回復しているかが注目されます。今回は外食チェーン大手の業績を比べてみたいと思います。


まずは主要企業の23年12月期決算をまとめてみます。


◇呷哺呷哺餐飲管理(シャブシャブ、00520

売上高:59億1796万元(25.3%増)

純損失:1億9466万元(赤字継続)

◇味千(中国)控股(00538

売上高:18億1540万元(27.0%増)

純利益:1億8118万元(黒字転換)

◇海底撈国際控股(ハイディーラオ、06862

売上高:414億5334万元(33.6%増)

純利益:44億9908万元(227.3%増)

◇九毛九国際控股(09922

売上高:59億8585万元(49.4%増)

純利益:4億5346万元(820.2%増)

◇ヤム・チャイナ(09987

売上高:109億7800万米ドル(14.7%増)

純利益:8億2700万米ドル(87.1%増)



各社とも業績は概ね改善し、海底撈と九毛九は3桁の増益率となりました。ただ、一番上の呷哺呷哺だけ赤字継続となっています。ちなみに、23年の中国飲食業の売上高は前年比20.4%増でしたので、伸び率がこれより高いか低いかが一定の参考になると思います。


この中から火鍋レストランで最大手の海底撈を取り上げてみます。


同社は23年12月期で前年比33.6%増収227.3%増益でした。好業績の主因はもちろん、ゼロコロナ政策の終了に伴い客足が回復したこと。海底撈レストラン売上の96.5%を占める中国市場が同35.8%増収、香港・マカオ・台湾市場が同32.7%増収でした。中国市場の客単価は、割引プロモーションの影響で前年の103.2元から97.3元に減少しましたが、テーブル回転率が同0.9pt上昇の3.8回転/日となり、既存店売上高は同27.8%増でした。


同社の特徴は、このテーブル回転率です。21年は3.0回転/日、22年は2.9回転/日でしたが、前述のように23年は3.8回転/日まで回復してきました。店に客が戻り、効率よく稼げる体質になってきたと考えられます。店舗数は、1329店(21年)、1349店(22年)、1351店(23年)とほぼ横ばいのため、限られたスペースで集客率を高めてきたと言えます。


ちなみに、“コロナ前”のテーブル回転率を見ると、18年は5.1回転/日、19年は4.8回転/日と驚異的な数字でした。これは当時、ライバルが多くなく、海底撈が業界で「この世の春」を謳歌していたからでしょう。


同社は最大1491店(21年6月末)あった中国店舗数を減らしてスリム化を図ってきました。コスト削減も進め、23年12月期の原材料費の対売上比率は前年比0.7pt低下の40.9%、人件費の対売上比率は同1.5pt低下の31.5%でした。後者について、同社は業界内で高い水準を誇っていましたが、同業の呷哺呷哺と同じ水準まで下がってきました。拡大路線や手厚い福利厚生を調整し、「稼げる体質」を築きつつあると言えるでしょう。また、店舗網再編などが一服し、減価償却費は前年比11.3%減少、対売上比率は同3.6pt低下の7.1%となっています。


24年3月にはフランチャイズ展開を開始すると発表し、事業規模の拡大を目指す方針を掲げました。もっとも、24年の新規開店数は一桁台の増加率にとどめる考えです。このことは、私も参加した1月のアナリストミーティング(北京市で開催)で同社IRが明らかにしていました。その分、顧客満足度向上やサービス充実化をさらに進める計画とのことです。


高級志向の火鍋は思わぬ苦戦


さて、外食大手の中で唯一の赤字継続となった呷哺呷哺。この背景には「消費降級(消費のダウングレード)」という中国ならではの事情が絡んでいました。同社自身、「消費降級がミドル~ハイエンドブランドを指向する『湊湊(ツォウツォウ)』に打撃を与え、同部門で赤字を計上した」と認めています。


呷哺呷哺が展開する鍋料理(しゃぶしゃぶ)レストランは2種類あります。大衆的な位置付けで社名でもある「呷哺呷哺」(レストラン売上全体の約54%)、前述のやや高級志向でオシャレな内装の「湊湊」(同約46%)です。湊湊の全体に占める売上比率は19年時点で約2割でしたが、22年には50.1%まで高まっていました。


この湊湊が23年は不振でした。テーブル回転率は1.9回転/日から2.0回転/日に微増しましたが、1人当たり消費額は22年の150.9元から142.3元に低下。「客回り」はまずまずだったものの、「実入り」が伸びなかったということです。これを受け、既存店売上高は前年比9.7%減少しました。



確かに湊湊の店舗を見ると客足の鈍りが目立ちます。ゼロコロナ政策下の20年に訪れた上海の店舗は行列ができるほどの人気でしたが、最近は予約や待ち時間なしで入れるほどです。昨年、南京の店舗に行った際は、夕食時の19時にもかかわらず広い店内に客は数組ほどという状況でした。


外食大手の業績を見ると、「コロナ禍からの戻り具合」が注目され、どれだけV字回復したかが焦点となりがちですが、消費者志向の変化や景気動向にも左右され、企業ごとに明暗が分かれるようです。市場競争が激しい中、この傾向は今後も続きそうです。 


この連載の一覧
ティードリンク市場がアツい! 上場予備軍も続々
不動産市場にまつわるエトセトラ
アンケートから景況感を探る! 貯蓄志向は依然高め
「消費降級」で明暗、外食チェーンの激しい争い
何はなくともカップ麺、鉄道旅のマストアイテム
アジア最大の家電見本市、スマート化に注目
大学生にゲーム規制? 全人代の提議あれこれ
ジェットコースター相場、波乱の1月と2月
変わる中国新エネ車業界、テック系が続々進出
春節前の政策相場、底打ち機運の中国株
朝から「メンクイ」、好みの麺をご賞味あれ
“ポスト・コロナ”の中国、外国人の目にはどう映る?
2年連続で前年割れ、人口減社会に直面する中国
“コロナ前”の水準回復へ、中国旅行市場の現地温度感
「元旦快楽」で辰年スタート、2024年の中国はどうなる?
並ぶのも一苦労、中国ならではの行列事情
ネット通販の主役交代? 好調続くPDD
頼りになる「即時配送」、旅先でも気軽にデリバリー
中国人のリアルボイス、不動産や就職事情を聞いてみた
「有軌電車」でGO! 着々広がる中国の都市交通網
白酒値上げのカラクリ、マオタイの時価を探れ
火鍋を語ろう、中国発のナベトーーク!
スマホオーダーで気軽に一杯、中国コーヒー最新事情
交通規制は突然に、中国式厳戒態勢
中国に「デフレ」という言葉はない?
行楽シーズン到来! 中国のオススメ観光地を大紹介
大型連休がやって来る! 9億人が大移動
ライバル逆襲と使用禁止令、中国でiPhoneはどうなる?
政策後押しで復活なるか、中国の不動産最前線
「水問題」で非難一色の中国、日本バスケで思わぬ展開に?
アリババ&テンセント、進む人員削減とスリム化
イベント消費で経済を回せ、政府も積極支援中
デフレ懸念も何のその、ホテル料金が上昇中
街に活気戻り売上が回復中、中国外食産業の現在地
人口と婚姻数が減少中、中国の若者の人生観とは
空港着いたらライドシェア専用乗り場へGO!
待ちぼうけはつらいよ、夏場のフライトあるある
「貯蓄重視で投資は控え目」、中国人のお金はどこへ向かう?
家族連れで賑わう場面も、端午節のプチ旅行
今年も猛暑? 早くも節電の呼びかけ
「618商戦」がやって来る! ネット通販で買い物三昧
キーワードは「頭文字C」、注目される国有企業の行方
中国でコロナ感染再拡大、それでも市民の多くはノーマスク
中国の若年失業率は20%超、雇用確保が優先課題に
現金要らずの連休旅行、何でもスマホとキャッシュレス
大盛況の上海モーターショー、中国地場系の躍進目立つ
「スラムダンク」が中国でも大人気、初日興収18億円!
「ラストワンマイル」はアナログリレーで解決?
火鍋チェーンの「呷哺呷哺」、一人鍋で存在感
ドライヤー市場に新風来たる、Z世代に人気の新興ブランド
日中間の移動がスムーズに! 国際線の増便・復便進む
復活する消費市場、北京の街に賑わい戻る
復活中の結婚式ニーズ、動き始めたヒト・モノ・カネ
改札時間は15分ジャスト! 中国の鉄道事情あれこれ
酒と言えば白酒! 宴席需要でニーズ増へ
たかが発票、されどファーピャオ
春節映画からの岳飛ブームと聖地巡礼
ノーマスクで新年快楽!? 中国春節の珍プレー好プレー
深夜の配車2時間待ち、春節前ならではの事情とは
中国で旅行ブーム再燃か、海外渡航はそろりスタートへ
賑わい消えた師走の上海、配送バイクも不足気味
中国現地Now!政策緩和と感染急増、混乱する中国市民
中国現地Now!コロナ規制見直しも感染拡大を警戒する中国
中国現地Now!上海デモの最前線、市民の反応と後始末
中国現地Now!政策と実態に大きな矛盾、「中の人」から見た中国コロナ対策
中国現地Now!スマホで気軽にグルメ堪能、中国“ワイマイ”市場最前線
中国現地Now!生活に欠かせない中国の“スーパーアプリ”とは
中国現地Now!Go To 海南!Go To 免税!
中国現地Now!波に乗れない中国消費、逆風下で盛況の飲食店は?
中国現地Now!上海で「水騒動」勃発! パニック買いの背景とは……
中国現地Now!屋台経済が中国を救う? 上海で復活の兆し
中国現地Now!日系外食が苦戦、中国人の胃袋をつかむ戦いは続く
中国現地Now!「映える」火鍋料理、極上の牛肉麺
中国現地Now!円安の恩恵はいずこ? 中国人の海外旅行は夢のまた夢
中国現地Now!中国入国時の“ガチ隔離”を見てみよう
中国現地Now!猛暑と干ばつで電力不足、今年の夏はキツい!
中国現地Now!訪問先で隔離リスク、中国国内旅行は綱渡り状態
中国現地Now!新エネ車が快走中、550万台市場へ視界良好
中国現地Now!勝ち組と負け組で明暗、上海の外食産業の現在地
中国現地Now!上海はその後どうなった? “ポスト都市封鎖”のリアル
中国現地Now!ナイキとアディダスの牙城を崩す中国ブランド
中国現地Now!復権なるか、中国のシェア自転車最新事情

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長

奥山 要一郎

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。本社シニアストラテジストを務め、2015年より現職。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

奥山 要一郎の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております