中国現地Now!

進む少子高齢化と人口減少、三中全会での対策は?

将来的には平均年齢60歳超も


中国で少子高齢化と人口減少が社会問題化して久しくなっています。私が住む上海は高齢化率が全国平均より高いのが特徴。市内や公園では高齢者の姿が目立ち、深センなどの“若い街”とは様相がやや異なります。


上海市の戸籍人口1505万1900人のうち、60歳以上の割合は36.8%(全国平均は19.8%)、65歳以上は28.2%(同14.9%)となっています(2022年末時点)。市民の約4人に1人は65歳以上です。これとは別に、上海戸籍を持たない市民が約1000万人住んでいますが、働き盛りの世代が多いため、彼らを加えると高齢化率はやや低下すると思われます。いずれにせよ、北京市でも60歳以上の市民が全体の29.0%を占めており、都市部で高齢化が進んでいる特徴が浮かび上がります。


人口減少も進んでいます。23年末時点の中国の人口は14億967万人で、前年から208万人減少。2年連続での前年割れとなりました。7月に国連が公表した「世界人口推計」によると、中国の人口は2100年には現在の半分以下の6億3300万人に減少すると見込まれます。一方、23年の出生数は902万人と7年連続で減少し、16年(1883万人)の半分以下まで落ち込んでおり、国連は2100年には310万人まで減ると予想。57年当時の平均年齢は20歳でしたが、2100年には60歳超という「超高齢化社会」になってしまいそうです。


世界銀行のデータによると、中国の22年の合計特殊出生率(15歳から49歳までの女性の年齢別出生率の合計)は1.175。17年は1.813でしたが、直近5年間で大きく右肩下がりとなり、日本の1.260も下回ってしまいました。ちなみに、これらを大きく下回るのは韓国の0.778、香港の0.701などで、少子化は東アジアにおける喫緊の課題となっています。



「65歳まで働くの?」


7月下旬に開催された中国共産党の「中央委員会第3回全体会議(三中全会)」でも、少子高齢化・人口減少への対応が議題になりました。


同会議の「決定文書」によると、少子化対策については「出産、子育て、教育関連コストの引き下げ」「産休制度のさらなる整備」「出産補助金制度の立ち上げ」「(子持ち世帯の)所得税控除の強化・拡大」などが掲げられました。


このうち、最後の所得税控除については19年から導入されており、段階的に拡大してきました。

①子女教育(3歳以上)の特別付加控除額を子供1人につき毎月1000元とする(19年~)

②3歳未満の乳幼児養育の特別付加控除額を子供1人につき毎月1000元とする(22年~)

③前述の①と②の控除額を毎月1000元から2000元に引き上げる(23年~)


ただ、出生数の推移を見る限り、これまでの取り組みはうまく奏功していないようです。だからこそ三中全会で改めて各種政策の強化が示されたのですが、こればかりはお金の問題ではなく個人の人生プランや社会環境によるものなので、問題解決には長い道のりになるかもしれません。


一方、人口減少に伴う労働力不足については、定年年齢を段階的に引き上げる方向性が示されました。現在の定年年齢は、男性は60歳、女性は55歳か50歳ですが、これが最大65歳まで引き上げられるのでは、との噂がネット上を賑わせています。三中全会の文書では定年年齢の引き上げについて「自由意志で」「弾力性のある原則で」などと書き添えられており、「強制ではないよ」という市民への配慮が垣間見える書き方ですが、私の知り合いは「定年年齢が伸びたから、あと30年近くは働かなくちゃ」とため息交じりにつぶやいていました。


ここに日本人とは異なる中国人の仕事に対する意識や人生観が感じられます。日本では、定年後も収入維持や社会との関わりを持ちたいという動機、あるいは会社や組織からの要請で70代や80代でも働く人が増えていますが、中国では定年年齢に達するとスパッと仕事を辞め、老後を楽しむのが(これまでは)普通のように思います。この日中の違いを中国人に振ってみたところ、「当たり前じゃない。定年後は第2の人生を存分に楽しまなきゃ」と即答されました。公園で「広場舞」と称される集団ダンスを楽しんだり、大勢で合唱や楽器演奏を行うシニア層の姿を見ると、確かに人生の後半を楽しんでいるなぁと感じます。


加えて、中国の場合、幼稚園や学校の送り迎えを含めた孫の世話は、定年退職した祖父母が行うことが多く、定年延長によりこの生活習慣が崩れるのではとの懸念もあります。子供の面倒を誰も見てくれないのなら、現役世代のカップルは出産を避けてしまうかもしれず、結果として少子化に拍車がかかる、という負のスパイラルに陥ることも考えられます。また、別の理由ですが、会社から定年の延長を打診された知り合いは、親の介護があるという理由で断ったとのことでした。


様々な事情があり、従来の生活習慣を大事にする中国社会と中国市民。共産党政権は少子化や労働力不足などの問題解決に向けてまっとうな制度設計を行おうとしていますが、実情に鑑みると成功するかどうかは未知数と言わざるを得ません。果たしてどうなるでしょうか。


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東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長

奥山 要一郎

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。本社シニアストラテジストを務め、2015年より現職。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

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