中国現地Now!

春節前の政策相場、底打ち機運の中国株

事実はドラマより奇なり


中国では年末から年始にかけて「繁華」(Blossoms Shanghai)というドラマが大ヒットしました。主な舞台は1990年代前半の上海。ある青年が一獲千金を夢見て、誕生したばかりの株式市場で奮闘する成り上がりストーリーです。監督はあのウォン・カーウァイ(王家衛)。90年代の名作「恋する惑星」などのメガホンを取ったレジェンドです。


独特のカメラワークによる映像美、懐かしいジュークボックスのような数々の挿入歌が印象的です。なんと「東京ラブストーリー」の主題歌である「ラブ・ストーリーは突然に」も劇中で流れています。舞台となる和平飯店やレトロな衣装などから「あの時代は良かった」と感じる視聴者も多かったようです。早口でまくし立てるように聞こえる上海語バージョンも人気を博しました。


ドラマのテーマが株式なので、業界関係者の間でも話題です。私も「『繁華』、見ていますか?」というフレーズを挨拶の“ツカミ”として使いました。出張で利用した飛行機内では、隣座席の経営者らしき女性がスマートフォンでこのドラマを真剣に見ていました。


さて、現実の株式市場。中国・香港市場は年初来の値動きがさえません。景気の先行き不透明感、不動産市場の低迷、力強さに欠ける消費市場……。深セン成分指数(13.8%下落)は1月、世界主要指数の中で最悪のパフォーマンスとなり、ハンセン指数が9.2%下落でワースト2位。上海総合指数は6.3%安でした。海外投資家は1月まで6カ月連続で中国A株を売り越しています(ストックコネクト経由)。


その中で、にわかに注目されたのが海外ETF(上場投資信託)でした。中国市場にはTOPIXや日経平均株価を連動対象とする5本の日本株ETFが上場しており、中国人投資家は間接的に対日投資ができます。1月中旬にはこのうちの1本、「華夏野村日経225」ETFに買いが殺到し、売買が一時停止に追い込まれるほどでした。その理由は、買い注文が殺到して取引価格が基準価額(1口当たりの純資産価格)を大幅に上回り、「投資家が重大な損失を受ける可能性がある」というもの。日本株関連のETFが一巡したら、次は米株関連ETFが賑わいました。中国人投資家が自国市場を見限っているのでは……。「マネー流出」と言える動きに、中国当局は苦々しい気持ちを覚えたかもしれません。



証券当局のトップ交代の意味とは?


こんな時はやはり政府当局による政策です。「国策相場」と呼ばれる中国マーケットですが、良くも悪くも“お上の声”がないと投資家は動きにくいものです。


局面が変わったのは2月4日(日曜日ですが、中国は「振替出勤」で平日扱いでした)。中国証券監督管理委員会(CSRC)が「市場の異常な変動を阻止する」と表明したのです。CSRCは翌5日、公安当局との合同捜査を実施したことを明らかにしました。「違法な相場操縦や悪質な空売りを行った者は破産させ、投獄する」と警告するリリースも出しています。中国語で書くと「傾家蕩産、牢底坐穿」(破産させ、投獄する)という脅し文句のような刺激的な言葉です。


CSRCは同じ5日、証券会社に対して追証猶予指導を行い、6日には信用取引の規制強化(新規の空売り禁止)を決定しました。中央匯金投資(政府系ファンド=国家隊)も6日にETFの買い増し方針を発表。この日、上海総合指数は3.23%高、深セン成分指数は6.22%高、ハンセン指数は4.04%高といずれも大幅反発し、海外投資家による中国A株投資は126億元の買い越しとなりました。100億元の大台超えは昨年12月28日以来です。


そして7日夕、CSRCのトップ人事の変更が発表されました。2019年1月から主席を務めてきた易会満氏に代わり、上海市共産党委員会副書記の呉清氏が就任します。CSRCはこれまで「銀行畑」の出身者が率いることが多かったのですが、呉氏は証券業界の管理・監督の経験が豊富。2000年代には機関投資家によるインサイダーまがいの取引などを厳しく取り締まったとされます。


この実績もあり、マーケットでは「トップ交代は個人投資家の保護強化に繋がるのではないか」との見方が広まり、ネット上の評判も概ね良好です。中国語で「新官上任三把火」という言葉がありますが、これは「新任者は改革に熱心だ」のような意味。CSRCは2月4日から矢継ぎ早に様々な市場支援策を出してきましたが、今から振り返るとこの新人事を見据えてのものだったのかもしれません。株価も上がったので、新トップに花を持たせる的な“演出”にも勘ぐられます。


いずれにせよ、一筋縄では行かない中国株市場。一部報道によると、関連当局は過去数カ月にわたり、「週末を返上して」市場救済措置の検討を進めてきたということです。とりあえずの成果(相場の下げ止まり)に一番ホッとしているのは彼らかもしれません。春節(旧正月)連休でのつかの間の休息後は、再び相場支援策の検討、検討また検討に戻るのでしょうか。2月19日からの上海・深セン市場の取引再開を心待ちにしたいと思います。果たして……。


この連載の一覧
不動産価格は下落見込み、中銀アンケートから市況を読む
大卒者の就職率は55.5%、厳しさ続く雇用市場
外食各社の業績低迷、価格に敏感な一般市民
プリペイドにはご用心、突然の閉店で泣き寝入りも
進む少子高齢化と人口減少、三中全会での対策は?
中国で高まる節約志向、大都市でも消費不振
ホントに静か? 中国の「クワイエット・カー」に乗ってみた
「中国式」で独自に発展中、ネット配車最前線
中国人はアリババ株を買えないの?
マオタイ価格が急落、株価も連れ安でプチ混乱
便利な出張サービス、「ネット+リアル」で進化中
住宅在庫の消化は進む? あの手この手で業界支援
観光業を支えるレッドツーリズム
「デジタル+アナログ」で発展する中国スマホ社会
中国はこれから卒業シーズン、1179万人が就職市場へ
ティードリンク市場がアツい! 上場予備軍も続々
不動産市場にまつわるエトセトラ
アンケートから景況感を探る! 貯蓄志向は依然高め
「消費降級」で明暗、外食チェーンの激しい争い
何はなくともカップ麺、鉄道旅のマストアイテム
アジア最大の家電見本市、スマート化に注目
大学生にゲーム規制? 全人代の提議あれこれ
ジェットコースター相場、波乱の1月と2月
変わる中国新エネ車業界、テック系が続々進出
春節前の政策相場、底打ち機運の中国株
朝から「メンクイ」、好みの麺をご賞味あれ
“ポスト・コロナ”の中国、外国人の目にはどう映る?
2年連続で前年割れ、人口減社会に直面する中国
“コロナ前”の水準回復へ、中国旅行市場の現地温度感
「元旦快楽」で辰年スタート、2024年の中国はどうなる?
並ぶのも一苦労、中国ならではの行列事情
ネット通販の主役交代? 好調続くPDD
頼りになる「即時配送」、旅先でも気軽にデリバリー
中国人のリアルボイス、不動産や就職事情を聞いてみた
「有軌電車」でGO! 着々広がる中国の都市交通網
白酒値上げのカラクリ、マオタイの時価を探れ
火鍋を語ろう、中国発のナベトーーク!
スマホオーダーで気軽に一杯、中国コーヒー最新事情
交通規制は突然に、中国式厳戒態勢
中国に「デフレ」という言葉はない?
行楽シーズン到来! 中国のオススメ観光地を大紹介
大型連休がやって来る! 9億人が大移動
ライバル逆襲と使用禁止令、中国でiPhoneはどうなる?
政策後押しで復活なるか、中国の不動産最前線
「水問題」で非難一色の中国、日本バスケで思わぬ展開に?
アリババ&テンセント、進む人員削減とスリム化
イベント消費で経済を回せ、政府も積極支援中
デフレ懸念も何のその、ホテル料金が上昇中
街に活気戻り売上が回復中、中国外食産業の現在地
人口と婚姻数が減少中、中国の若者の人生観とは
空港着いたらライドシェア専用乗り場へGO!
待ちぼうけはつらいよ、夏場のフライトあるある
「貯蓄重視で投資は控え目」、中国人のお金はどこへ向かう?
家族連れで賑わう場面も、端午節のプチ旅行
今年も猛暑? 早くも節電の呼びかけ
「618商戦」がやって来る! ネット通販で買い物三昧
キーワードは「頭文字C」、注目される国有企業の行方
中国でコロナ感染再拡大、それでも市民の多くはノーマスク
中国の若年失業率は20%超、雇用確保が優先課題に
現金要らずの連休旅行、何でもスマホとキャッシュレス
大盛況の上海モーターショー、中国地場系の躍進目立つ
「スラムダンク」が中国でも大人気、初日興収18億円!
「ラストワンマイル」はアナログリレーで解決?
火鍋チェーンの「呷哺呷哺」、一人鍋で存在感
ドライヤー市場に新風来たる、Z世代に人気の新興ブランド
日中間の移動がスムーズに! 国際線の増便・復便進む
復活する消費市場、北京の街に賑わい戻る
復活中の結婚式ニーズ、動き始めたヒト・モノ・カネ
改札時間は15分ジャスト! 中国の鉄道事情あれこれ
酒と言えば白酒! 宴席需要でニーズ増へ
たかが発票、されどファーピャオ
春節映画からの岳飛ブームと聖地巡礼
ノーマスクで新年快楽!? 中国春節の珍プレー好プレー
深夜の配車2時間待ち、春節前ならではの事情とは
中国で旅行ブーム再燃か、海外渡航はそろりスタートへ
賑わい消えた師走の上海、配送バイクも不足気味
中国現地Now!政策緩和と感染急増、混乱する中国市民
中国現地Now!コロナ規制見直しも感染拡大を警戒する中国
中国現地Now!上海デモの最前線、市民の反応と後始末
中国現地Now!政策と実態に大きな矛盾、「中の人」から見た中国コロナ対策
中国現地Now!スマホで気軽にグルメ堪能、中国“ワイマイ”市場最前線
中国現地Now!生活に欠かせない中国の“スーパーアプリ”とは
中国現地Now!Go To 海南!Go To 免税!
中国現地Now!波に乗れない中国消費、逆風下で盛況の飲食店は?
中国現地Now!上海で「水騒動」勃発! パニック買いの背景とは……
中国現地Now!屋台経済が中国を救う? 上海で復活の兆し
中国現地Now!日系外食が苦戦、中国人の胃袋をつかむ戦いは続く
中国現地Now!「映える」火鍋料理、極上の牛肉麺
中国現地Now!円安の恩恵はいずこ? 中国人の海外旅行は夢のまた夢
中国現地Now!中国入国時の“ガチ隔離”を見てみよう
中国現地Now!猛暑と干ばつで電力不足、今年の夏はキツい!
中国現地Now!訪問先で隔離リスク、中国国内旅行は綱渡り状態
中国現地Now!新エネ車が快走中、550万台市場へ視界良好
中国現地Now!勝ち組と負け組で明暗、上海の外食産業の現在地
中国現地Now!上海はその後どうなった? “ポスト都市封鎖”のリアル
中国現地Now!ナイキとアディダスの牙城を崩す中国ブランド
中国現地Now!復権なるか、中国のシェア自転車最新事情

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長

奥山 要一郎

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。本社シニアストラテジストを務め、2015年より現職。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

奥山 要一郎の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております