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白酒値上げのカラクリ、マオタイの時価を探れ

右肩上がりの「出荷価格」


「マオタイ酒が出荷価格を20%引き上げ」――。先日、中国でこのようなニュースが流れました。白酒の最大手、貴州茅台酒(600519)が11月1日、「飛天」「五星」ブランドの製品の出荷価格を同日付で平均20%引き上げると発表したのです。これを受け、1日の同社株は一時ストップ高(前営業日比10%高)に迫る水準まで上昇。終値は5.72%高でしたが、他の白酒銘柄も軒並み買われ、市場は久々に“白酒祭り”となりました。


さて、今回の発表のキモとなるのは「出荷価格」の引き上げです。複雑怪奇な白酒の価格体系。ややマニアックになりますが、そのカラクリを探ってみます。


茅台酒の代表格、「飛天茅台」(アルコール度数53度、500mlタイプ)を例に挙げます。まず「出場価」(工場出荷価格)が969元。2006年時点は268元でしたが、右肩上がりで上昇し、17年から現価格に落ち着きました。これが基本的に会社側の取り分とされます。


次に、日本の希望小売価格に近い「建議終端零售価」が1499元。しかし、この価格で市場に出回ることはほぼありません。時々、ネット通販や茅台空港で“定価セール”(定価でセールというのはおかしいのですが)を行っていますが、購入希望者がいつも殺到します。


そして「批発価」という、いわゆる卸売価格があります。足元では大体2200~2300元程度とされます。これとは別に小売価格に相当する「終端価」があり、今は2800元程度。両者は常に上下しており、最近は高値安定とでも言えましょうか。他にも様々な価格体系があるかもしれず、さらに複数の中間ディーラーが複雑に絡み合うので、全貌把握は至難の技となります。


貴州茅台酒の今回の価格改定。正式リリースには「平均引き上げ幅は約20%」とあるだけで、何をどれだけ上げるかは書いてありませんが、「飛天茅台」の出荷価格は969元から1163元に上がっているようです。市場価格がいくら高騰しようと、マオタイ自身の取り分には影響しませんが、大元の出荷価格を引き上げることで「実入り」が多くなると思われます。これが末端価格にどう影響を与えるかは微妙ですが(仕入れコストの上昇でさらなる高騰の可能性もありそう)、市場では常に供給不足が伝えられており、「マオタイの行為は理にかなっている」との見方も出ています。いずれにせよ企業側にとっては悪いニュースではないでしょう。



白酒メーカー、驚異の粗利益率!


さて、中国株式市場の「白酒5強」を比べてみます。直近の23年1~9月期の売上高と増収率、そして注目の粗利益率を列挙してみます。


【白酒主要5社の23年1~9月期データ】※売上高(前年同期比増減)、粗利益率の順

◆貴州茅台酒(600519) 1032億元(18.5%増)、91.9%

◆宜賓五糧液(000858) 625億元(12.1%増)、75.9%

◆江蘇洋河酒廠(002304) 302億元(14.4%増)、75.8%

◆山西杏花村汾酒廠(600809) 267億元(20.8%増)、75.9%

◆瀘州老窖(000568) 219億元(25.2%増)、88.4%


売上高では貴州茅台酒が圧倒的。2位の五糧液と3位の洋河を足しても届きません。そしていずれの企業も2桁増収を遂げています。粗利益率も軒並み高い値。貴州茅台酒は驚異の91.9%! 誰もが羨む利益率ですね。


貴州省に行くと数えきれないほどの地場系メーカーがあります。人体の約60%は水と言われていますが、貴州人は「約60%が白酒」というジョークもあるほどです。私は貴州茅台酒が本社を構える貴州省の茅台鎮を訪れたことがあります。人口わずか1万7000人の小さな街ですが、300余りの酒蔵が軒を連ね、高台から町全体を見渡すと至る所から燻煙が立ち上っていました。街全体にツーンとした発酵の匂いが漂っており、歩くだけでほろ酔い気分。さすが「酒都」と呼ばれるだけあります。


実は私、「飛天茅台」を一本保有しています。数年前に知人からいただいたものですが、もったいなくてまだ開けてもいません。ラベルを見ると「2014年産」と書いてあります。時価は一体どれくらいなのか……。もう少し寝かせておこうと思います。


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東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長

奥山 要一郎

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。本社シニアストラテジストを務め、2015年より現職。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

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