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中国現地Now!波に乗れない中国消費、逆風下で盛況の飲食店は?

行動規制で消費マインド低下中

 

中国経済の低成長と景気後退懸念が声高に叫ばれています。特に、ここ近年の経済をけん引してきた消費市場が波に乗り切れていません。背景には、ゼロコロナ政策による行動規制の継続や、それに伴う消費マインドの低下があるようです。

 

中国全体の統計数字を見ると、22年7~9月期の社会消費品小売総額は前年同期比3.5%増でした。各地の大規模都市封鎖(ロックダウン)の影響をまともに受けた4~6月期は同4.6%減でしたので、回復傾向にはあります。ただ、1~9月期の累計では同0.7%増にとどまりました。21年通年は同12.5%増、“コロナ発生後”の20年と21年の平均は3.9%増でしたので、やや見劣りしてしまいます。今年の小売りは低成長のまま推移しそうです。

 

小売統計を細かく見ると、都市封鎖の影響が大きかった3月から5月までは前年割れでした。8月には前年同月比5.4%増まで戻しましたが、ゼロコロナ政策の影響で行動規制が厳しくなった9月は同2.5%増に減速しています。10月の国慶節連休を前に各地でのPCR検査が厳しくなった時期に当たり、旅行や出張を控える動きが多く見られました。

 

特に被害が大きいのは外食産業です。8月は同8.4%増と年初以来のプラスでしたが、9月は同1.7%減とマイナス成長に逆戻り。上海でも中小飲食店を中心に閉店が目立っており、また旅行需要の縮小で観光地も閑古鳥状態のところが多く見られます。

 

上海の直近の数字を見てみると、9月の小売総額は前年同月比0.3%増とほぼ横ばい。7月が同0.3%増、8月が同2.5%増だったので、また低成長に逆戻りといった形です。1~9月の累計でも前年同期比12.0%減なので、通年のプラス成長すら危ぶまれます。

 

そして厳しいのがサービス業。上海は「宿泊・飲食業」という項目を立てていますが、7月が前年同月比20.6%減、8月が同0.8%増、9月が同2.8%減とさえない推移です。10月の国慶節連休時は地方からの観光客もちらほら見られたので、統計上はこれからやや改善してくるかもしれませんが、街を歩いていても往時の賑わいとは程遠いというのが現状です。もちろん街に人通りがなく、飲食店が空っぽというわけではありませんが、どうも以前とは異なる印章、簡単に言えば寂しく感じてしまいます。

 

火鍋レストランは熱気ムンムン!

 


そんなことを思いながら先日訪れた火鍋店。ガチ中華の代表格、激辛火鍋店です。上海には近年、本場の重慶火鍋の支店が数多く進出しています。消費市場や飲食業は若干冷え込み気味なのは事実ですが、実は火鍋屋だけは異なる光景が広がっています。どこの店も行列必至。人気店になると2~3時間待ちは当たり前。店の中は熱気ムンムンで、不景気などどこ吹く風。鍋の辛さと相まって、気分も盛り上がってきます。

 

中国現地では外食のファーストチョイスとして火鍋が挙げられるケースが多いです。一つのテーブルを皆が囲み、真ん中にある鍋料理をつつきながら楽しむスタイルは、友人同士、同僚同士、時には家族団らんでなど、様々なシーンに合致しているようです。辛くない鍋もあるので、激辛が苦手な人もOK。中国には鍋料理を嫌いな人は皆無!と思ってしまうくらいの人気ぶりです。

 

中国人民銀行(中央銀行)の都市部預金者アンケートからは市民の貯蓄志向の高まりが見えてきます。直近では「貯蓄」志向の比率が50%を超え、「消費」は20%台前半で推移。将来への不安から市民の財布のひもが固くなっているようです。

 

ただ、火鍋屋に来るとそれらの数字が吹き飛んでしまうほどの盛況ぶり。新型コロナはまだ収束していませんが、席には仕切りもなく、ソーシャルディスタンスも取られず、取り箸ではなく直箸で鍋を楽しむ姿にいつも圧倒されてしまいます。店の中の大型テレビでは共産党大会の様子がずっと流れていましたが、私が訪れたときはそれに目を向ける客はおらず、「目の前の火鍋に全集中!」という趣きでした。やはり食のパワーはすごいものがあります。

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東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長

奥山 要一郎

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。本社シニアストラテジストを務め、2015年より現職。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

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