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政策後押しで復活なるか、中国の不動産最前線

このビルは建設中?解体中?


中国の不動産市場で販売不振やデベロッパーのデフォルト懸念などが大きな話題になっています。2年前にいわゆる「恒大問題」が浮上しましたが、政府や業界の対応が後手後手に回り、正直言って進展がほぼないまま今日を迎えています。市場が冷え込むのもむべなるかな、という感もしますが、皆が今般の問題を深刻に捉えているのも事実。中国の不動産業界の課題と今後について考えてみます。


まずは住宅(マンション)市場の直近データを見てみましょう。2023年1~7月期では、住宅開発投資額が前年同期比7.6%減、新規着工面積が同25.0%減と「投資力」や「作る力」がさえません。販売面積も同4.3%減と不振でした。一方、販売額は同0.7%増とわずかながらプラス成長で、竣工面積も同20.8%増と好調です。ただ、この背景には「保交楼」という不動産の引き渡し保証政策があります。これは、デベロッパーの資金難で建設が中断していた物件について政府が完成と引き渡しを支援するもの。要は、再開したプロジェクト分が加算されているのです。


住宅在庫面積は同19.5%増と芳しくない状況です。在庫延べ床面積は7月末時点で3億1239万平米に積み上がっていますが、ここ10年間で最高(最悪)だった4億6635万平米(16年2月)と比べるとまだマシと言える状況かもしれません。とは言え、標準的な住宅面積90平米で単純計算すると、約347万戸が在庫として残っていることになり、大きな数字に驚かされるばかりです。


中国各地を訪れると、「作っているのか壊しているのかよく分からない建物群」に出くわすことがよくあります。高速鉄道に乗り車窓から外を眺めていると、駅から遠く離れた山間の空き地に、突然高層マンション群が現れることもあります。中には、生活感がまるでなく、建設途中で放置されたようなものも見られました。


2年前に訪れた河南省三門峡では、まさに建設途中で放置されたマンションを見かけました。地元のドライバーに聞くと、建設途中でデベロッパーが逃げたとのこと。中層階からは、予約購入者が作ったと思われる「我々の血と汗を返せ」などと書かれた抗議の垂れ幕がかかっていました。頭金を支払ったのに建設が遅々として進まないことへの強い怒りが見て取れます。これらは「ラン尾楼(ランウェイロウ)」と呼ばれる未完成ビルです。たまたま訪れた外国人(私)が見つけられるほどなので、全国には無数のラン尾楼があると思われます。


 


金利負担低減で需要喚起狙う


政府当局もやっと本腰を入れて各種問題に対応しています。ポイントは大きく分けて、①保交楼政策の継続、②住宅ローン金利の引き下げや「認房不認貸」の導入、③市民の投資マインドの改善、などになるでしょう。


①の保交楼は、未完成物件の不動産ローンの返済停止運動が社会問題化したことを受け、22年8月に実質スタートしました。政策性銀行が2000億元規模の特別貸出を行い、建設再開を後押ししています。前述のラン尾楼を完成まで導こう、というプロジェクトです。


住宅当局によると、同政策開始から1年が経ち、“資金支援を受けたプロジェクト”の再開率は100%近く、引き渡し物件数は165万戸超(全体の60%超)とされます(もちろん、これとは別に“資金支援を受けていないプロジェクト”も多数あるのでしょうが)。中国人民銀行(中央銀行)は保交楼政策を24年5月末まで継続すると表明しており、来年前半までは建設再開・引き渡しが不動産市場の優先課題となるでしょう。


②は新規需要の喚起と住み替え促進策です。まずは住宅ローン規制の緩和。やや細かくなりますが、中国人民銀行などが8月31日に、住宅ローンの最低頭金比率を全国で統一し、1軒目購入時で20%、2軒目で30%とすることを発表しました。大半の都市では現在、1軒目で30%、2軒目で40%という水準なので、それぞれ10pt下がることになります。一般的には、北京や上海などの大都市ではこの最低水準より高めに設定し(例えば10pt上乗せなど)、地方都市は制限一杯まで下げることが多いです。また、住宅ローン金利の下限についても、2軒目で「5年物LPRより0.2%高い水準」に引き下げます(現行は「0.6%高い水準」)。足元の5年物LPRは4.20%なので、実質的に金利の下限は4.80→4.40%に低下することになります。


さらに、「認房不認貸」というキーワードも話題です。これは一種の住み替え促進策と言え、「過去に住宅ローンを組んでいた場合でも、現時点で自分名義の不動産を持っていなければ、1軒目の住宅ローン頭金比率や優遇金利が適用される」という建付けです。中国では投機防止策として複数の物件購入時に金利負担などを重くするケースがあり、現状ではたとえ住み替えでも2軒目購入とカウントされコストが高く付いてしまいます。それを今後は、住み替えならば初回購入とみなし、ハードルを下げようということです。


最後の③の投資マインドは、景気改善や市況好転を待つしかないのが正直なところ。中国人民銀行による都市部預金者アンケート調査(23年4~6月期)では、不動産価格の見通しは「下落」が「上昇」を上回りました。「向こう3カ月間で支出を増やす項目」という設問(複数選択)に対して「不動産」と答えた者は16.2%に過ぎず、20年以降で2番目に低い水準です。景気回復や不動産企業のデフォルト懸念の払しょくなどが先決なので、市民のマインド改善はやや時間を要するかもしれません。


中国では9月に入り、各種政策で不動産市場が刺激されつつあるのを感じます。ただ、「週末にマンション購入者が増えた」「仲介会社が大忙し」と伝えられる一方、「販売は思ったより伸びていない」などのニュースもあるなど混乱しています。瞬間最大風速的なデータかもしれませんので、効果を見定めるにはあと1~2カ月は必要かもしれません。また、「金利は下がったから価格は上げるよ」とばかりに、物件価格を引き上げるデベロッパーも散見され、市民にとっては購入のタイミングや相場を見極める力も必要になってきます。よって、「とりあえず様子見」という人が意外に多くなりそうです。


ネット上では「頭金比率やローン金利が下がったからと言って、タダになったわけではない」という皮肉めいたコメントも見られました。「庶民は頭金を揃えるのすら大変なのに」というボヤキなのでしょう。「負担が低減したとはいえ、マンション価格はまだ高いよ」という市民のホンネも垣間見られます。


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東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長

奥山 要一郎

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。本社シニアストラテジストを務め、2015年より現職。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

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