中国現地Now!

「貯蓄重視で投資は控え目」、中国人のお金はどこへ向かう?

財布の紐はやや堅め


「中国の景気は上向きなのでしょうか、それとも下向きなのですか?」――。日本からよく受ける質問です。統計データは世界のどこでも見られますが、現地での見立ても同じなのか、と聞かれる場合も多々あります。肌感覚はそれこそ現地にいないと分からないのですが、私の経験から言えば、個人の肌感覚だけで中国の“熱”を測ることはなかなか困難を伴います。行動範囲や知り合いも限られていますし、とある人の個人的な思い入れがそのまま中国の今を表しているとも限りません。それではどうすればいいのか――。この答えの一つが、中国人民銀行(中央銀行)が四半期に一度行っている都市部預金者アンケートです。 


6月下旬、このアンケートの2023年4~6月期分が公表されました。様々な設問がありますが、私がいつも注目しているのは、「消費」「貯蓄」「投資」への意欲を問う三者選択方式のものです。 



今回の結果を見ると、貯蓄を選んだ人は全体の58.0%(前四半期から横ばい)でした。この数字は、新型コロナ禍を経ての先行き不安から20年に50%を超え、ゼロコロナ政策の行き詰まりや感染拡大が進んだ22年10~12月期には61.8%まで高まっていました。貯蓄志向は依然として高いものの、一旦落ち着いた形と言えるでしょう。 


一方、消費は前四半期から1.3pt上昇し24.5%になりました。消費マインドの回復がうかがえる、と言いたいところですが、“コロナ前”の19年10~12月期は28.0%だったため完全復活とは言い切れません。お金を使うことに慎重な姿勢がうかがえます。 


そして投資は17.5%(前四半期比1.3pt低下)と低迷中。経済指標の伸び悩みや株式市場のさえない展開が背景にあると見られます。この投資意欲は10~11年にかけて、あるいは15年の中国株投資ブームの際は貯蓄を上回ることもありましたが、今やかなりの下火状態です。なお、投資方式としては、「銀行・保険・証券会社が取り扱う理財商品」が43.8%、「ファンド・信託商品」が20.4%、「株式」が15.2%ということ。いささか残念な結果で、株式人気の復活を切に願うばかりです。 


もう一つの注目は、消費に関して「向こう3カ月間で支出を増やす項目」という設問(複数選択)です。今回のアンケート調査では、「旅行」と答えた人が26.0%まで上昇しました。前四半期の24.0%から上昇し、20年以降で最も高くなっています。5月の労働節、6月の端午節の連休を経て旅行ムードも盛り上がりを見せています。19年には旅行が支出意欲のトップだったこともあり、今後もさらなるニーズの戻りが期待されます。 


そして、「付き合い・娯楽」はほぼ横ばいの19.8%で推移しており、19年の水準を上回っています。人との接触が限られていたコロナ禍の反動で、人に会ったりイベントなどに参加する重要性が再認識されていると言えるでしょう。 


一方、底打ちの兆しが見えていた「高額品」「不動産」は再び低下に転じました。20年以降で見ると、前者は最低水準、後者は2番目に低い水準です。景気の先行き不透明感から、財布の紐がやや堅くなっているのかもしれません。理想より現実。まずは目の前の暮らしを充実させ、旅行や会食などで生活に潤いを与えていくというイメージでしょうか。



「下落」が「上昇」を上回った不動産価格の見通し


これらの結果を受けて周りを見渡してみると、なるほど概ね合っているなという印象があります。特にお金の使い方、「貯蓄重視で投資は控え目」という傾向を強く感じます。思えば15年の中国株ブームの頃、カフェやレストランで普通のオフィスワーカーが株式投資の話をする光景がよく見られました。美容院やマッサージ店のスタッフが仕事の合間にスマホで株取引をしたり、かなり浮かれた状態でもありました。今はそのような姿は全く見られません。


その分、支出項目の調査で“復活”してきた旅行分野は盛り上がっています。国内旅行者数は、5月の労働節連休で延べ2億7400万人(前年同期比70.8%増、19年同期比19.1%増)、6月の端午節連休で延べ1億600万人(前年同期比32.3%増、19年同期比12.8%増)に上りました。著名観光地はどこも人気で、陝西省西安にある秦の始皇帝陵は押すな押すなのギュウギュウ詰めだったという動画が出回っていました。私が出かけた甘粛省の麦積山石窟も2時間待ちの大行列ができていたほどです。


さて、同じアンケートにある不動産価格の見通しにも触れておきましょう。「上昇」「基本的に不変」「下落」「判断できず」の四者択一です。今年1~3月期と4~6月期の結果を比べると、「上昇」が18.5%⇒15.9%に低下した一方、「下落」は14.4%⇒16.5%に増えました。両者の見方が逆転しています。19年は概ね、「上昇」が30%近く、「下落」が10%程度というバランスだったので、ここ数年で市民の不動産に対する強気姿勢が後退したと言えます。これまで中国経済を支えてきた不動産業界ですが、大手デベロッパーの債務問題などを受け、市民のマインドが低下しているよう。すぐに好転することは難しそうなので、地道な債務削減や業界及び企業の整理・統合など抜本的な構造改革が必要かもしれません。


この連載の一覧
不動産価格は下落見込み、中銀アンケートから市況を読む
大卒者の就職率は55.5%、厳しさ続く雇用市場
外食各社の業績低迷、価格に敏感な一般市民
プリペイドにはご用心、突然の閉店で泣き寝入りも
進む少子高齢化と人口減少、三中全会での対策は?
中国で高まる節約志向、大都市でも消費不振
ホントに静か? 中国の「クワイエット・カー」に乗ってみた
「中国式」で独自に発展中、ネット配車最前線
中国人はアリババ株を買えないの?
マオタイ価格が急落、株価も連れ安でプチ混乱
便利な出張サービス、「ネット+リアル」で進化中
住宅在庫の消化は進む? あの手この手で業界支援
観光業を支えるレッドツーリズム
「デジタル+アナログ」で発展する中国スマホ社会
中国はこれから卒業シーズン、1179万人が就職市場へ
ティードリンク市場がアツい! 上場予備軍も続々
不動産市場にまつわるエトセトラ
アンケートから景況感を探る! 貯蓄志向は依然高め
「消費降級」で明暗、外食チェーンの激しい争い
何はなくともカップ麺、鉄道旅のマストアイテム
アジア最大の家電見本市、スマート化に注目
大学生にゲーム規制? 全人代の提議あれこれ
ジェットコースター相場、波乱の1月と2月
変わる中国新エネ車業界、テック系が続々進出
春節前の政策相場、底打ち機運の中国株
朝から「メンクイ」、好みの麺をご賞味あれ
“ポスト・コロナ”の中国、外国人の目にはどう映る?
2年連続で前年割れ、人口減社会に直面する中国
“コロナ前”の水準回復へ、中国旅行市場の現地温度感
「元旦快楽」で辰年スタート、2024年の中国はどうなる?
並ぶのも一苦労、中国ならではの行列事情
ネット通販の主役交代? 好調続くPDD
頼りになる「即時配送」、旅先でも気軽にデリバリー
中国人のリアルボイス、不動産や就職事情を聞いてみた
「有軌電車」でGO! 着々広がる中国の都市交通網
白酒値上げのカラクリ、マオタイの時価を探れ
火鍋を語ろう、中国発のナベトーーク!
スマホオーダーで気軽に一杯、中国コーヒー最新事情
交通規制は突然に、中国式厳戒態勢
中国に「デフレ」という言葉はない?
行楽シーズン到来! 中国のオススメ観光地を大紹介
大型連休がやって来る! 9億人が大移動
ライバル逆襲と使用禁止令、中国でiPhoneはどうなる?
政策後押しで復活なるか、中国の不動産最前線
「水問題」で非難一色の中国、日本バスケで思わぬ展開に?
アリババ&テンセント、進む人員削減とスリム化
イベント消費で経済を回せ、政府も積極支援中
デフレ懸念も何のその、ホテル料金が上昇中
街に活気戻り売上が回復中、中国外食産業の現在地
人口と婚姻数が減少中、中国の若者の人生観とは
空港着いたらライドシェア専用乗り場へGO!
待ちぼうけはつらいよ、夏場のフライトあるある
「貯蓄重視で投資は控え目」、中国人のお金はどこへ向かう?
家族連れで賑わう場面も、端午節のプチ旅行
今年も猛暑? 早くも節電の呼びかけ
「618商戦」がやって来る! ネット通販で買い物三昧
キーワードは「頭文字C」、注目される国有企業の行方
中国でコロナ感染再拡大、それでも市民の多くはノーマスク
中国の若年失業率は20%超、雇用確保が優先課題に
現金要らずの連休旅行、何でもスマホとキャッシュレス
大盛況の上海モーターショー、中国地場系の躍進目立つ
「スラムダンク」が中国でも大人気、初日興収18億円!
「ラストワンマイル」はアナログリレーで解決?
火鍋チェーンの「呷哺呷哺」、一人鍋で存在感
ドライヤー市場に新風来たる、Z世代に人気の新興ブランド
日中間の移動がスムーズに! 国際線の増便・復便進む
復活する消費市場、北京の街に賑わい戻る
復活中の結婚式ニーズ、動き始めたヒト・モノ・カネ
改札時間は15分ジャスト! 中国の鉄道事情あれこれ
酒と言えば白酒! 宴席需要でニーズ増へ
たかが発票、されどファーピャオ
春節映画からの岳飛ブームと聖地巡礼
ノーマスクで新年快楽!? 中国春節の珍プレー好プレー
深夜の配車2時間待ち、春節前ならではの事情とは
中国で旅行ブーム再燃か、海外渡航はそろりスタートへ
賑わい消えた師走の上海、配送バイクも不足気味
中国現地Now!政策緩和と感染急増、混乱する中国市民
中国現地Now!コロナ規制見直しも感染拡大を警戒する中国
中国現地Now!上海デモの最前線、市民の反応と後始末
中国現地Now!政策と実態に大きな矛盾、「中の人」から見た中国コロナ対策
中国現地Now!スマホで気軽にグルメ堪能、中国“ワイマイ”市場最前線
中国現地Now!生活に欠かせない中国の“スーパーアプリ”とは
中国現地Now!Go To 海南!Go To 免税!
中国現地Now!波に乗れない中国消費、逆風下で盛況の飲食店は?
中国現地Now!上海で「水騒動」勃発! パニック買いの背景とは……
中国現地Now!屋台経済が中国を救う? 上海で復活の兆し
中国現地Now!日系外食が苦戦、中国人の胃袋をつかむ戦いは続く
中国現地Now!「映える」火鍋料理、極上の牛肉麺
中国現地Now!円安の恩恵はいずこ? 中国人の海外旅行は夢のまた夢
中国現地Now!中国入国時の“ガチ隔離”を見てみよう
中国現地Now!猛暑と干ばつで電力不足、今年の夏はキツい!
中国現地Now!訪問先で隔離リスク、中国国内旅行は綱渡り状態
中国現地Now!新エネ車が快走中、550万台市場へ視界良好
中国現地Now!勝ち組と負け組で明暗、上海の外食産業の現在地
中国現地Now!上海はその後どうなった? “ポスト都市封鎖”のリアル
中国現地Now!ナイキとアディダスの牙城を崩す中国ブランド
中国現地Now!復権なるか、中国のシェア自転車最新事情

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長

奥山 要一郎

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。本社シニアストラテジストを務め、2015年より現職。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

奥山 要一郎の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております