中国現地Now!

“コロナ前”の水準回復へ、中国旅行市場の現地温度感

今年は60億人市場の見通し、観光産業が復活中


新型コロナ禍が一段落し、2023年は日本で旅行・レジャー消費が活発になりました。今年もこの勢いが続きそうですが、中国も同じような状況です。消費減退が指摘される中でも、一番期待できる産業と言っていいでしょう。


中国の年末年始の3連休(12/30~1/1)における国内旅行者数は延べ1億3500万人に上りました。前年同期比155.3%増なので、約2.5倍超に膨らんだことになります。前年はコロナ感染のちょうどピークの時期だったので、それと比較して大きな成長率になったと思われます。“コロナ前”の19年との比較でも9.4%増となりました。


23年通年を振り返ると、国内旅行者数は54億700万人(中国旅游研究院による推計)、前年比113.7%増とV字回復を果たしました。いわゆる「ゼロコロナ政策」が実施されていた20年の28億7900万人、21年の32億4600万人、22年の25億3000万人などと比べて概ね2倍程度になっています。


中国旅游研究院は年初の1月2日、24年の国内旅行者数が60億人に上るとの予想を出しました。これは19年の60億600万人に肩を並べる数字。5年前のレベルにようやく戻ってきそうです。旅行収入は6兆元になり、19年の5兆7250億元を上回るとの予想です。



“域外”ではありますが、マカオを例に挙げてみます。マカオの観光データとしてはカジノ売上高を見るのが定番ですが、23年12月は185億6700万パタカで前年同月比433.3%増でした。プラス成長は12カ月連続で、前月比では15.7%増加。23年通年では前年比333.8%増の1830億5900万パタカでしたが、これは19年実績(2924億5500万パタカ)の6割強の水準にとどまっています。逆に言えば、まだ回復の伸びしろがあるので、24年の動向が注目されます。


 


チャットで気軽にチャーター車手配


さて、数字データはさておき、実際の現場はどのような状況なのでしょうか。私の実体験をいくつかお話ししたいと思います。


23年末に訪れた山西省太原。シーズンオフで、気温は終日氷点下の真冬日ですが、観光スポットはまずまずの客の入りでした。市郊外にある道教寺院の晋祠は、週末になると地元の人や近郊の町からの団体客で賑わっています。入り口付近では「寺院の歴史を解説しますよ。50元でどうですか?」と営業トークをする観光ガイド(現地当局の許可を得ているよう)も復活していました。また、市中心部にほど近い太原晋商博物館でも入り口に列ができていました。他の観光地も含め、地元出身と見られる人が多かったのですが(そもそも寒いので、冬に太原を訪れる都市部の人は少ないという事情もあると思います)、「近場旅行」という最近の傾向が見て取れました。市場の特徴は「安・近・短」とでも表現されましょうか。


年末に西安に立ち寄ったときのこと。深夜に西安咸陽国際空港に到着し、翌朝の乗り継ぎフライトに備えてそのまま空港内で一夜を明かしました。事前に予約していたのは空港内の簡易ホテル。日本でもおなじみのカプセルタイプと、空港通路に配置されたカラオケボックスならぬ「睡眠ボックス」のような簡易部屋があります。私は後者に泊まり、1泊200元程度でした。スタッフに聞くと連日満員とのこと。もちろん旅行者だけでなく帰省客もいると思いますが、移動や宿泊ニーズの戻りを改めて感じた次第です。


さて、少々別のエピソード。年始は甘粛省で過ごし、敦煌にほど近い瓜州県を訪れました。敦煌の莫高窟と並ぶ有名な石窟群、楡林窟を(初詣がてら)訪れるのが目的です。この石窟は瓜州の中心部から70キロほど南にあるので、自家用車でない限りは車のチャーターが必要。オフシーズンということもあり、現地で簡単に手配できるだろうと安易に考えていたのですが、旅行会社やタクシーがうまく見つからず、やや焦ってしまいました。


そんな時はネットに頼るのが一番。通常の百度(バイドゥ)検索もいいですが、今はSNSで探すのがおススメです。今回はショート動画アプリの「抖音(ドウイン=TikTok)」を使ってみました。スマホ上のアプリを開き、「瓜州 旅游 包車(車のチャーター)」で検索。すると、旅行会社のボスらしい人にたどり着きました。何やら旅行関連の動画を多数発信しています。プロフィール欄にあった携帯電話番号を使い、微信(WeChat)で友達申請するとすぐに承認されて会話が始まります。


「明日、車をチャーターしたいのですが。こちらは1人です」

「どこまで行くの?」

「楡林窟と鎖陽城がメインです」

「もちろんOKですよ! 価格は……500元でいかが?」

「いやー、もっと安くなりませんかねぇ」


このようなチャットのやり取りを経て交渉成立。無事、翌朝に車が手配され、真冬の1日観光を楽しむことができました。あとで聞くと、私のチャットの相手は現地旅行会社の「老板娘」(ラオバンニィアン=おかみさん、女性経営者程度の意)。彼女は自社催行ツアーで雲南省に行っているとのことで、普段は事務作業をしている姪っ子さんがドライバー役で迎えに来てくれました。家族経営で旅行産業を盛り上げているようです。「冬の観光市場は厳しいでしょう」と即席ドライバーの姪っ子さんに聞くと、「はい。でも、暖かい地域へのツアーなどで稼いでいますので!」と元気よく答えてくれました。雲南省や海南省、またタイやマレーシアなど東南アジアへのツアー旅行が比較的好調とのことです。地元の瓜州だけでなく、敦煌や酒泉、嘉峪関、張掖など近郊都市の客も取り込んでいるようでした。


これらの話だけで中国旅行市場の活発ぶりを説明できるわけではありませんが、少なくとも市場は動いているということが感じられます。所得の伸び悩み、消費市場の減速、高額消費の不振など様々なことが言われている中国経済ですが、その中でも市民には娯楽が必要。その対象が、コロナ禍でなかなか行けなかった旅行になっているようです。2月の春節(旧正月)連休中の旅行市場も期待できそうです。

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東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長

奥山 要一郎

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。本社シニアストラテジストを務め、2015年より現職。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

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