「中国のハワイ」で閉じ込め状態
成長著しい中国の旅行業界。市民の所得向上や旅行ブームに伴い、繁忙期には民族大移動のような光景が見られます。書き入れ時は、労働節と国慶節を挟んだ春と秋の大型連休、夏休みシーズン、そして春節(旧正月)など。2021年5月の労働節連休期間の旅行者数は2億3000万人に達し、「コロナ前」の19年の同期間を上回る賑わいぶりでした。ただ、新型コロナウイルスの感染が拡大すればロックダウンや行動制限が随時行われるため、イマイチ波に乗り切れないというのも事実です。
今年8月4日、「中国のハワイ」と呼ばれる海南島のリゾート地、三亜市の一部エリアが事実上のロックダウン(都市封鎖)になりました。1日当たりの新型コロナの新規感染者数は、海南省全体でも数十人から数百人程度でしたが、ゼロコロナ政策下の中国では徹底的な封じ込めが行われます。夏季休暇などで同地を訪れていた観光客8万人も身動きが取れない状況になりました。同じような状況は至る所で見られます。最近では、内陸部の甘粛省や新疆ウイグル自治区、チベット自治区など観光客に人気の地域で都市封鎖やそれに準ずる措置がとられています。
中国文化旅游部のデータによると、21年の国内旅行者数は前年比12.8%増の32億4600万人でした。過去最高だった19年の60億600万人と比べると半分程度。当初は「41億人程度まで伸びるのでは」との期待もありましたが、やはり新型コロナの感染ぶり返しが影響したようです。
今年は旅行客のさらなる戻りが見込まれていましたが、1~6月期では前年同期比22.2%減の14億5500万人とマイナス成長に陥ってしまいました。吉林省長春市や上海市での都市封鎖などが大きな誤算。旅行先で感染が拡大すればそのまま隔離される可能性もあるため、旅行マインドが減退したようです。7月に入り感染がやや落ち着き始め、夏の旅行ムードも盛り上がりましたが、前述の「三亜ロックダウン」で冷や水を浴びせられた形です。2カ月にわたる厳しい隔離生活を経験した上海市民が、ストレス発散とばかりに海南島に出かけ、そのまま同地で再び隔離されてしまうという気の毒な例もあったそうです。
インバウンドに立ちはだかる壁
今後も旅行市場はコロナ次第で一喜一憂という状態が続くと思われます。旅行好きな人は事前のPCR検査を行うなどの対策をしながら出かけるでしょうが、旅行するかしないか迷っている人たちは、「やっぱり今回は見送ろうか……」となるケースも多く見られます。省や市を跨がない近距離の日帰り旅行などに計画変更という例も多く聞きました。職場や学校などから「外出や旅行を控えるように」という通知が出る場合もあります。それでも出かけて、現地で足止めを食らったり、あるいは自身が感染してしまったら……。スマホの健康コードなどで個人情報が特定され、結局は皆の知るところになってしまうのがオチ。これらを考慮すると、なかなか軽率には動けない状況です。
さて、世界の各国・地域では旅行や出張需要が回復し始めています。日本も入国規制の緩和に動き、「インバウンド需要よ、もう一度!」という流れもできつつあります。ただ、中国からの訪日客は現状、期待薄。中国政府は国民に対し、不要不急の海外渡航を諫めるお達しを出しているからです。ゼロコロナ政策の柱の一つは厳格な水際対策。海外からのコロナ流入(逆流入?)と国内での蔓延は絶対に避けなければなりません。そのためには徹底的な上からのパワープレイで移動をコントロールしているようです。
このほか、中国政府は市民のパスポートの新規及び更新申請を一時停止しているという情報が伝わっています。正式通知は出ていないようですが、知り合いの中国人はパスポートの更新が窓口で断られたとのこと。旅券や査証がなければ海外渡航はできません。ここまでして移動を制限するのか……。実に中国らしいやり方と言えるでしょうか。