「1元=20円」は超追い風、でも動けない!
外国為替市場で米ドルの独歩高ともいえる状況が続いています。9月2日には1ドル=140円を突破し、24年ぶりの円安水準になりました。また、円だけでなく、アジア通貨の多くが対ドルで下落しています。人民元も例にもれず、9月上旬時点で約2年ぶりの元安水準。心理的な節目は1ドル=7元程度とされますが、これを意識した動きが続きそうです。中国人民銀行(中央銀行)は9月5日に外貨預金準備率の引き下げを発表(実施は15日付)し、元安の流れをけん制しています。
さて、視点を変えて円と元を比べると、こちらも歴史的な「円安元高」です。今年7月に1元=20円を突破しましたが、これは約7年ぶりの出来事。直近でもこの水準で推移しています。
日本では円安メリットに鑑み、「インバウンド需要よ、もう一度」という期待が高まっています。一方、中国でも円安が話題になっており、SNS上では「日本旅行が出来たら最高なのに」のような書き込みも見られます。しかしながら、ご存じのように、コロナ禍の中では国や地域を跨ぐ移動、とりわけ中国の出入国が厳しいままです。中国人からは、海外旅行なんて夢のまた夢という恨み声が聞こえてきそうです。
中国では実質的な「海外旅行禁止令」が出ています。中央や地方を問わず各政府部門から不要不急の海外渡航を控えるよう呼びかけがされているのです。仕事での海外赴任や出張、留学に伴う出国はありますが、“コロナ前”に盛り上がっていた市民の海外旅行はほぼゼロ。中国の空港の国際線ターミナルはいつもガランとしています。
パスポートすら取得難
しかも、パスポートの新規発行や更新もままならない状況が伝えられています。私の中国人の知人も、パスポート更新の窓口で断られてしまったとのこと。特段の出国理由がない限り手続きが認められないようです。いわばパワープレイで出国できないようにしているのです。
仮に出国できたとしても、帰国の際には訪問先でのPCR検査が義務となっています。新型コロナの陰性証明がなければ飛行機に搭乗できません。もし陽性結果が出ると、完治から2週間の健康観察が必要となるため、その期間中は現地に足止めとなります。実際、日本に住む私の知人は中国渡航直前に新型コロナに罹患してしまい、泣く泣く予定を変更していました。
そして中国到着後は強制隔離です。集中隔離期間は7日間ですが、さらに自宅での3日間隔離や地域によってはそれ以上の行動制限が課せられることもあります。これらを考えると、海外渡航や帰国のハードルはかなり高いと言わざるを得ません。
日本政府は9月7日から水際対策を緩和し、条件付きながら現地出国前72時間以内のPCR検査陰性証明を免除しています。この条件は新型コロナワクチンの3回接種。ただ、中国で用いられているシノバックやシノファームなどの中国国産ワクチンは指定対象外です。パスポートやビザ取得というそもそもの問題もありますが、ワクチンという壁も立ちはだかります。それぞれの立場やコロナ対策の違いを埋めるのはなかなか難しそうです。
この状況がいつまで続くかは誰も分かりません。ただ、徐々に規制が緩和されれば、そして円安という追い風が吹き続けば、大勢の中国人が訪日旅行を楽しむ光景が戻ってくるのはほぼ確実。両国の往来が通常モードになる日を私も首を長くして待ちたいと思います。